51 一緒にいるためには
「……というわけなんだ」
「わかりました、俺から話してみます」
かすかに話し声が耳に入ってきて、ゆっくりと意識が浮上してきた。
あれ? 僕、何してたんだっけ……。
しょぼしょぼする目を擦りながら、んーっと伸びをした。
頭がまだぼーっとして、視点が定まらない。
「真白、起きた?」
「ん……?」
「色々あったから、疲れてるんだろうな。夕飯、食べられそう?」
「あれ? 僕、もしかしてまた寝ちゃってた?」
返事をしていたら、だんだん目が覚めてきて、自分が病院にいることを思い出した。
昴が、先生を呼びに行くと言って、病室を出て行ったところまでは覚えているんだけど……。
「うん、先生を呼びに行って戻ってきたら、寝てたんだ。だから俺が代わりに話を聞いたよ」
「そっか、ありがとう。一気にいろんなことがあったから、体がびっくりしちゃってるのかな」
僕はもう一度、ゆっくりと伸びをした。VRゲームだけど、全身が疲れたような気がするんだ。
「検査結果は問題なし。疲労やストレス反応による一過性のものかもしれないって。今夜は病院でゆっくり休んで、明日退院できるそうだよ」
「なんともなかったんだね……よかった」
僕は、小学生の頃に体調を崩しやすくなってから、検査を受けることが増えた。
高校生になる頃にはだいぶ落ち着いていたけど、やっぱり検査結果を聞く瞬間は好きではない。
「真白、少し起きられる?」
「うん、大丈夫。少し寝たせいか、すっきりしている気がするよ」
「無理するなよ? 調子悪かったら言って」
「ありがと」
さっきみたいに、昴に支えられながら、ゆっくりと起き上がった。
そして、昴がベッドのリクライニングを調整してくれたから、僕はベッドに寄りかかるように座った。
昴も横に椅子を持ってきて腰掛ける。
「さっきな、先生から話を聞いたんだけど……」
「うん」
「真白は、手術を受けてみる気はないか……?」
「え?」
「最近の真白の体調はだいぶ安定しているし、検査結果も良好だそうだ。今なら、手術にも耐えられるだろうって」
「手術……」
思いもよらない提案に、僕は固まってしまった。
僕の病気は、命にすぐ関わるものではなく、検査や投薬と生活改善で、向き合っていけるものだと聞いている。
それに、難易度の高い手術で、執刀できる医師がこの辺りには不在。だから、転院するか他の病院から医師に来てもらうしかなかった。
それなら、リスクを冒してまで手術する必要はないと思っていた。
「今度この病院に赴任してくる先生は、その分野の第一人者で、真白のケースなら、少ないリスクで手術を行えるそうだよ」
「手術が、受けられる……?」
「そう。今まで受けられないと思っていた手術が受けられるんだ。……治るんだよ、病気が!」
「治る……?」
信じられない。
一生この病気と向き合って過ごしていくと思っていたから、まさか治るなんて考えたことはなかった。
この病気のせいで、たくさん諦めてきたこともある。
でも、もう諦めなくてもいい……?
「僕、ゲームの中だけじゃなくて、現実世界でも走れる?」
「そうだよ、思い切り走り回っても、誰にも止められないよ」
「ずっと乗ってみたかった、ジェットコースターにも乗れるの?」
「いくらでも乗れるよ。よし、俺と一緒に遊園地に行って、ジェットコースター乗りまくろう」
「花火大会で、屋台が並ぶ中を歩いてもいいの? レジャーシートがたくさんある中で、花火を見てもいいの?」
「ああ、もちろんだ。人混みをかき分けて、いろいろな屋台で美味しいものを食べよう。たくさんいる人の中に混ざって、花火を見上げよう」
まだまだ、やりたいことはたくさんある。
……でも僕は、全部のことを、昴と一緒にやりたいんだ。
「僕、元気になってやりたいことがたくさんある。でもね、一番は……ずっと、昴のそばにいること。一生、並んで歩いて行きたいんだ」
僕の願いは、ただ一つ。ずっと昴と一緒にいたいということ。
でもそのためには、病気に打ち勝って、元気にならなきゃいけないんだ。
「手術、受けるよ。正直、とっても怖いよ。……もし失敗したらって……」
成功率が高いと言っても、絶対ではない。危険は付きまとうんだ。
そう考えたら、手がかすかに震えてきた。
「大丈夫、絶対手術は成功する。……俺がそばにいるから、病気なんかに負けるな!」
「そうだよね。僕には昴がいる。僕が物心ついた頃から、ずっと僕のそばにいてくれた昴がいるなら、絶対大丈夫だ。負けるはずなんてない」
震える手をさすって落ち着かせようとしていたら、その手を昴が包み込んでくれた。
「二人で、乗り越えよう。そして、約束通り、一緒に花火大会に行こう」
「うん、行こうね。約束だよ」
僕たちは、お互いに未来を描き、語り合った。
思い描いた二人並ぶ未来の光景は、幸せに満ちていた。
僕たちは、明るい未来に希望を抱きながら、顔を見合わせ微笑み合う。
そして、自然と二人の顔が近づくと、まるで誓いのキスのように、優しく唇が重なり合った。




