表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君を知らないまま、恋をした  作者: 一ノ瀬麻紀


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

51/59

50 靄が晴れる時

 ゆっくり目を開けると、心配そうに僕を見つめる(すばる)の顔があった。

 僕の手を優しく包み込む感触に気づき、視線を移すと、あの映像と同じように、昴は僕の手を握りしめていた。


「昴……」

真白(ましろ)……よかった、目を覚ましたんだな」

「また、心配かけてごめん」

「気にするな。気分が悪いとかないか?」

「うん、大丈夫。……昴の手、温かいね。あの時と変わらない……」

「え……?」


 昴は、僕の言葉に、驚いたように声を漏らした。

 そして、戸惑ったように視線をあちこち彷徨わせたあと、僕の顔をまっすぐに見つめた。

 言葉を探すように、何かを言いかけてはやめ、また言いかけては口をつぐんだ。


 僕はちゃんと昴に伝えたくて、体を起こそうとしたら、慌てて昴が体を支えてくれた。

 ゆっくりと、支えられながら体を起こす。

 そして、今度は僕から昴の手を取り握りしめた。


「昴、ただいま。ずっと待たせちゃって、ごめんね」

「まさか……」

「ずっと、僕のそばにいてくれてありがとう。……僕の記憶がないのに、支え続けてくれて、ありがとう」

「――っ」


 僕が精一杯の感謝を込めて伝えると、昴は息を呑んで目を見開いた。


「全部、思い出したよ。……昴のこと、忘れちゃってて、ごめん」

「真白! 思い出したのか!?」

「うん……全部……思い出したよ……」


 僕は昴に思いを伝えたいから、ちゃんと笑顔でいたかったのに、胸から込み上げるものがあって、言葉が詰まってしまう。

 何か心の中に靄がかかっているような……大切な何かを忘れているような……ずっとそんな思いを抱えていた。


「よかった……本当に良かった――!」


 昴は思い切り僕を抱きしめると、ただ「良かった」とだけ繰り返した。

 僕と同じで、きっと言葉にならないんだと思う。

 

 昴は、しばらく僕を強く抱きしめたあと、はっと我に返って僕を離した。


「ごめん! 苦しくなかったか?」

「大丈夫だよ。昴の腕の中、暖かくて安心する」


 僕の気持ちも落ち着いて、少しずつ余裕が出てきたように思う。


「そっか……。それならもっと抱きしめていたいけど……、先生を呼んでこないとな」

「え? あ、ここ……病室!」


 二人きりの世界に入り込んでしまい気づかなかったけど、僕たちが今どこにいて、どんな状況なのか慌てて周りを見回した。

 幸い、病室には他に誰もいなかった。昴がずっと一人で付き添っていてくれたんだろう。


「あ! そうだ、リベラリアはどうなったの?」


 洞窟で大蛇と戦っていて、僕から光が放たれたことまでは覚えている。でもその先の記憶がぷつりと途切れているんだ。


「そのことも含め、後でゆっくり話をするよ。今は、真白の体調が心配だ。先生にちゃんと診ていただこう」

「うん……。僕、また何日も寝てたの?」

「ううん、今回は一日くらいかな。……でも、あの時のことを思い出してしまって、不安だった――」


 僕が記憶を失っていた時の昴は、少し大人びた、落ち着いた男性だった。

 けど本来の昴は年上だけど、僕の前では、一緒にはしゃいだりするような人だ。……そして、自分の気持ちにも素直な人だ。

 こんな風に、僕には正直な気持ちを話してくれるのが、本当の昴なんだ。


「不安にさせちゃって、ごめん。でも、もう絶対昴のことは忘れないから」


 僕は、昴の不安が胸に響いて、思わず抱きしめていた。

 年齢差なんて関係ない。僕たちは、こうやって一緒にいるのが、いちばん自然なんだ。


「ありがとう。……じゃあ、ちょっと先生を呼んでくるから、真白は横になって休んでて」

「うん」


 ずっと二人きりでいたいけど、そういうわけにもいかないよねと、僕たちは体を離した。


 リベラリア……VRゲームの世界にいたはずなのに、なんで僕はログアウトして病院にいるのか。あのあとあの大蛇はどうなったのか。一緒にいたソーマさんもどうなったのか。

 聞きたいことは山ほどあるけど、昴の言うように、まずは先生に診ていただかないとならない。


 事情はよくわかってないけど、昴の様子を見る限り、また僕はみんなに心配をかけてしまったんだと思う。

 記憶が途中で途切れていること、その間に見たあの走馬灯のような映像のこと、それをきっかけに失っていた記憶を取り戻したこと。

 僕からも伝えたいことはたくさんある。


 でも今は、かかっていた靄が晴れて、昴のことを全て思い出しただけで十分だ。

 あの記憶の扉の先に、昴の笑顔を見た時のことを思い出し、胸が暖かくなる。


 枕元に並べられた、二つのうさぎのキーホルダーを握り締め、胸に当てた。

 記憶を失っていても、心のどこかでずっと繋がっていたんだ。


 僕は安心して気持ちが緩んだのか、眠気がやってきて、瞼がだんだん重くなっていた。

 そのままふわりふわりと、体が浮くような感覚がして、すーっと意識が薄れていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ