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君を知らないまま、恋をした  作者: 一ノ瀬麻紀


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45 子うさぎたちと待つ

「おにいちゃんたち、まだかえってこないね……」


 奥の部屋で寝ていた子うさぎたちが、起きてくる時間になっても、外が茜色から深い藍色に変わる時間になっても、二人は戻ってこなかった。


 何かあったのだろうか。不安は増すばかりだけど、僕がここで狼狽えたら、子うさぎたちも不安になってしまう。

 僕は、なるべく普段と変わらない声で、子うさぎたちに声をかけた。


「おにいちゃんたち、穴の中の探検が楽しくなっちゃったのかもしれないよ?」

「たんけん?」

「そう。今までなかった洞窟でしょ? 新しい発見がたくさんで、やりたいことがいーっぱい見つかったんだよ」

「えー、いいなぁ。ぼくもたんけんしたい!」

「ぼくも〜!」

「わたしはおうちでまってたいな……」


 口々に言う子うさぎたちに、僕はうんうんとうなずきながら、優しく頭を撫でた。


「もう少し大きくなったら、みんなで探検に行こうか。見たこともないきのことか、もしかしたら洞窟内にしかならない野イチゴもあったりするかも?」

「のいちご?」

「たべたーい!」

「飲んだら甘くてジュースみたいな泉とか、あめだまの取れる壁とかもあるかもしれない」

「あめだま〜!」


 僕自身の不安も打ち消すように、楽しくてウキウキするような話をした。ここはゲーム世界だから、なんだってありだと思うんだ。

 僕と子うさぎたちは、それぞれこんなことがあったらいいな、あんな食べ物があったらいいな。そんなふうに、夢を膨らませて盛り上がっていた。



「なんか、お腹が空いてきたなぁ」


 こんな時でも、やっぱりお腹はすくんだと思いながら、マジックバッグの中からおにぎりを取り出した。


 バッグの中はいくつかに分かれていて、温かいまま保存ができたり、冷蔵庫のように冷たさキープしたりできる。いわゆる、その空間は時間が止まっているということらしいんだけど。

 他には、あえて時間を進ませることもできる。そうすれば、待ち時間の発生する料理も、あっという間だ。時間を戻すことも、多少ならできるらしい。


「これなぁに?」

「おむすびと言って、ご飯の中に具を入れて握ったものだよ」

「ぼくたちとおなじで、まっしろだね」

「中身は、うさぎさんたちと同じ、赤い色の……」

「ピャッ」


 待ちきれずに、パクッと一口食べた子うさぎが、口をキュッと窄めた。


「あはは。ちょっと酸っぱいだろ?」

「キューってなるけど、おいしい〜」

「ぼくも!」

「わたしも〜」


 続けて二匹の子うさぎたちも、おにぎりを口に運んだ。


「ほんとだ、キューってなるけどおいしいよ〜」

「おくち、ちいさくなっちゃう」


 子うさぎたちが楽しそうに食べている間に、僕も自分の食べる分のおむすびを取り出した。


 実はこれ、少し前にゲーム内で購入できる素材に、お米とか梅干しがあるのを知ったんだ。

 多分、リベラリアを作ったのが日本の会社だからなんだろうけど、テンションが上がったよね。


 ラパンに相談したら、初心者の部屋のルナさんに聞けば、調理できる方法を教えてくれるだろうって言われたんだ。

 だから、ルナさんに調理器具を借り、作り方を教えてもらい、おむすびを完成させた。そして保存のために、マジックバッグの時間停止エリアにしまっておいたんだ。


 そのうち、草原の丘でピクニックをしたくて、しまっておいたんだけど……。このタイミングで食べることになるとは思わなかったなぁ。


「よし、ご馳走様して、歯磨きして、お風呂に入ろうか」

「おふろ〜?」

「ああ、そっか。うさぎさんたちは、自分で毛繕いするからいいのかな? 歯磨きも必要ないか」

「わかんないけど……。ぼく、まだねむくないよー?」

「うーん、そうだよねぇ、さっき寝ちゃったもんね……」


 僕はうーんと考えながら、チラリと壁にかかった時計を見た。


「じゃあ、僕が絵本を読んであげる」

「わーい! クリンとクラン読んで!」


 子うさぎが持ってきたのは、僕たちの世界でも有名な、あの絵本に似た表紙だった。

 読む前に、一通り目を通した僕は、読み終えてから自然と笑みがこぼれた。

 僕は『まさかの、ホットケーキミックスかぁ』と心の中でツッコミを入れつつ、読み始めた。


 ある日双子のうさぎ「クリンとクラン」が森を散歩していると、大きな卵を拾った。

 こんなに大きな卵なら、『大きなホットケーキを焼けるね』と嬉しくなった二人は、ホットケーキを焼くことに決めた。でも卵以外何も持っていない。

 すると道の向こうに、ホットケーキミックスの袋が見えた。その次は、牛乳、砂糖、油、フライパン、お皿、メープルシロップ。全ての材料が揃ったところで、小屋に到着した。

 実は、至れり尽くせりの材料は、森のくまさんが用意したものだった。

『うさぎさんとお友達になりたくて』と恥ずかしそうに言うくまさんと一緒に、ホットケーキを作り、森のみんなと一緒に食べました。おしまい。


 くまさん登場で大丈夫かなと心配になったけど、やはりそこは絵本。ほのぼのと、みんな仲良くホットケーキを食べ終わって安心した。


「いいなぁ! ぼくもおおきなホットケーキ食べたい!」

「ぼくもぼくもー」

「わたし、シロップいっぱいがいいな」


 目を輝かせて、僕の読み聞かせに聞き入っていた子うさぎたちは、読み終えると口々にホットケーキ食べたいと言った。


「明日作ろっか」

「わーい!」

「じゃあぼくもうねる。はやくねたらはやくあしたになるもん」

「わたしも〜」


 不安そうだった子うさぎたちも、すっかり元気を取り戻したようで安心した。

 僕は、大切にしているキーホルダーを子うさぎたちに見せた。


「これはね、よーく眠れるお守りだよ。僕はいつも、このうさぎのキーホルダーのおかげで、ぐっすり眠れるんだよ。だからね、ここに置いておくね」

「わーい、ありがとう!」

「これでぐっすりだね。おやすみなさーい」


 嬉しそうに口々に言うと、子うさぎたちは自らお布団に入り、あっという間に眠りについた。

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