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君を知らないまま、恋をした  作者: 一ノ瀬麻紀


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43 いつもと様子が違う

「あれ? 延長なんだ……」


 ログインしてすぐ、目の前にパネルが現れて『サポートキャラのメンテナンス延長のお知らせ』というメッセージが表示された。


 思ったより頻繁に、サポートキャラのメンテナンスが入っているし、今回は延長までしている。

 他のゲームもこのくらいが普通なのか、それとも体験版だから仕方がないのかはわからないけど、ユキがいないのは寂しい。


 ラパンは制作者側だから何か知っているのだろうか? そう思ってチラリと見たけど、静かに首を横に振った。


「ゲーム開発もチームが分かれてるんだよ。この辺りのメンテナンスは、俺にもまだわからなくて。完了報告されれば俺たちも内容を把握できるんだけど」

「そうなんだね。改善のためのメンテナンスなのかな」

「体験版は、プレイヤーの意見をもとに改善していくのも目的だからな」

「そっか。明日には、ユキに会えるよね」

「会えるさ。……そうだ。ホワイトバロウに遊びに行かないか?」


 ホワイトバロウは、グリーンヒルで助けたうさぎさんの住む街だ。

 一度だけ、ラパンとユキと遊びに行ったことがある。また行きたいなと思っていたけど、あの後すぐログアウトボタン消失トラブルも起きるし、退院後色々あったし、遊びに行くタイミングを逃してたんだ。


「うん、行く! 僕も久しぶりに行きたいって思ってたんだ」

「それなら善は急げだ。すぐ出かけよう」

「お昼は、ホワイトバロウで食べようね!」


 僕が寂しそうにしているから、ラパンはきっと、うさぎ好きの僕のために提案してくれたんだ。

 ラパンの優しさに触れ、僕は気持ちを入れ替え元気に返事をした。


 そういえば、ラパンに初めて会った時に、僕がうさぎ好きだとラパンは知っていた。

 あの時は、うさぎ獣人をアバターに選ぶくらいだから好きなんだろ? って言ってたけど、(真白)のことを知っていたからだよね。

 あの時から、初めて会ったような気がしないって思ってたっけ。懐かしいなぁ。


「ラパンに初めて会った時、僕がうさぎ好きじゃないかって言ってたでしょ? 僕、よくわかったねぇなんて思ってたけど、僕のこと初めから知ってたんだもんね」

「ああ、そんなこともあったな、懐かしいな。……俺のアバターネームも、うさぎが由来なんだ」

「え? そうなの?」

「フランス語でうさぎって意味なんだ」

「知らなかった!」

「そして、名前を決める時に、真白(ましろ)の顔が浮かんだんだ。やっと、約束が守れるって思ったら、胸にくるものがあったな」

「僕のために、VRゲームを作るって、ずっと言ってくれてたもんね。――っ」


 僕は、昔のことを思い出そうとしたら、頭がズキッと痛んだ。……え? なんだろこの頭痛。

 痛いって思って、思わず頭を抑える。


「どうした?」

「うん、ちょっと頭が痛かっただけ。もう大丈夫」

「頭が痛いのか? それなら今日は……」

「平気平気。今はなんともないよ。ほんと、ちょっと違和感があっただけだから。ほら、元気元気!」

「そうか? 無理しないって約束してくれよ?」

「うん! さぁ行こう!」


 ほんの一瞬の痛みのあと、今はもうなんともない。

 病気のせいで、激しい運動を禁止されていたり、定期的な入院検査の必要があったりする僕だけど、頭痛はあまり感じたことがなかったんだ。

 だからすごく違和感があったけど、頭が重いことも全くないし、大丈夫だよね。


 僕は気を取り直して、元気に一歩を踏み出した。



「あれ?」

「……様子が変だ」


 ホワイトバロウの入り口に立った僕たちは、明らかな異変を感じていた。

 この前来た時は、たくさんのうさぎやうさぎ獣人を中心に、冒険者や旅行者が街の中を行き交っていたんだ。


 ――なのに、今日は街の中が、シーンと静まり返っている。


「何かあったんだろうか。……シロ、慎重に中の様子を探るぞ。離れるなよ」

「う、うん」


 ゆっくりと街の中に足を踏み入れる。誰もいない他には、特に大きな異変は見当たらない。

 まずは、街の入り口にある案内所へ入ってみた。


「ここも、いないな」


 中に入って見回したけど、ここも物音ひとつしなかった。


「何が起きているのかわからない限りは、無闇に動くのは良くない。一度ログアウトした方がいいかもしれない」

「え? でも、もしうさぎさんたちに何か起きていたら……」

「シロ、きついこと言ってすまないが、うさぎさんたちはNPCだ。不都合があっても、修正がきく。でも俺たちは、プレイヤーだ。安全を第一に考えないといけない」

「確かにそうだけど……」


 ラパンが正しいことを言っているのは、わかる。でも、リベラリアの世界では、うさぎさんたちもみんな生きて存在しているんだ。このままログアウトしたら、見放してしまうような気がして……。

 僕は下を向いて、唇を噛みしめた。

 これ以上口を開いたら、涙も一緒に溢れ出してしまいそうで、何も言えなくなってしまった。

 ラパンの言う通り、ログアウトしなきゃ……そう思って顔を上げようとした時、ラパンのため息が聞こえてきた。


「……わかった。もう少しだけ、中の様子を探ろう。けど、絶対に無茶はしないって約束してくれ」

「ラパン!」


 パッと顔をあげ、ラパンを見た。

 ラパンは、しょうがないなぁ……と、少し困ったような笑顔で僕を見ていた。

 けどその笑顔は、僕を見守るような、そんな優しい眼差しだった。

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