42 嫉妬
「帰るの、明日って……」
「ああ、その予定だったけど、仕事が思ったより早く片付いたから、新幹線に飛び乗ったんだ」
「明日にならないと会えないと思っていたから、嬉しい」
僕とラパンは、もう流れ星が見えなくなってしまった公園のベンチに座っている。
ソーマさんは、気を利かせてくれて『あとは二人きりでどうぞ』なんて言いながら、先にログアウトした。
後日、ちゃんとお礼を言わなきゃなって思いながら、今は予定より早く会えた喜びに浸らせてもらうことにした。
「もう、流れ星、流れてこないなぁ……」
少し前まで、あんなにたくさんの流れ星が見られたのに、もう今は普通の星空へと戻っていた。
ひとつだけでもいいから、ラパンと一緒に流れ星見たかったな。
「また来年、一緒に見に来ればいいさ」
「うん、見られたらいいな。……来年は、リベラリアはどうなってるんだろう?」
「製品版の正式リリース日も決まっていないし、しばらくは体験版を遊べるけど、その後どうするかはまだ決まってないんだ」
「そう……なんだね」
僕は、もし体験版が終わってしまった時のことを、色々と考えてしまった。特にユキのことを……。
でも、口にしたらそれが現実になってしまいそうで、怖くて僕は口に出さず胸の奥にしまった。
「もしゲーム内で見られなくても、満点の星空が見えるところに旅行に行ってもいいし、プラネタリウムを見に行ってもいい」
「プラネタリウムなら、流れ星たくさん見られるかな……」
「流れ星のプログラムもあるかもな」
僕たちは、ゲームをログアウトしても、まだその先がある。でも、ここにいるみんなは……?
またマイナス思考になってしまった僕は、気持ちを切り替えるために、ラパンに紙袋を見せた。
「これ、ソーマさんが、僕のお誕生日プレゼントにって」
「……は?」
あれ? なんかラパンの声色が、さっきみたく低くなった気がするんだけど……。
僕、何かいけないこと言っちゃったかな。
「これ、受け取ったのか?」
「初めは、申し訳ないから受け取れないってお断りしたんだけど……」
「恋人以外から、服のプレゼントなんて受け取るなよ」
「そんな言い方ひどい。ソーマさんが、ラパンの気持ちも込もっているって言うから、断りきれなかったのに……」
ラパンが少し怒ったような口調で言うから、思わず僕も言い返してしまった。
僕のことを心配してくれたラパンとソーマさん、二人の気持ちがとても嬉しかったのに、なんで責められるようなことを言われなければならないのだろう。
僕はラパンに会えた喜びで、温かくなっていた心が急に冷えた気がした。
ぐっと我慢していたのに、悲しい気持ちが込み上げてきて、僕の瞳からはポロリと涙の粒がこぼれ落ちた。
「ラパン……と、ソーマさん……、二人の気持ちが……嬉しかったのに……」
目から大粒の涙を流し、途切れ途切れに言葉を絞り出す僕を見て、ラパンはハッと我に返ったように目を大きく見開いた。
「ごめん! つい、感情的になってしまって。……ほんと、ごめん。あいつも、俺たちのことを考えてくれたんだよな。それなのに、俺は……」
ラパンはそこまで言った後、ふーっと大きく深呼吸をした。
「俺は、みっともないくらいに、嫉妬してしまったんだ」
「……嫉妬?」
「やきもちなんて、可愛いもんじゃない。俺の中に芽生えた、醜い感情だよ」
ラパンはそう言って天を仰いでから、もう一度しっかり僕と向き合った。
「蒼馬はすごくいい奴だ。それは俺だって認めている。だけど、シロ……真白のことを、誰にも渡したくない。たとえ親友でも、譲れないんだ」
「ラパン……ううん、昴さん。僕は、昴さんしか見えてないよ?」
「真白……」
僕は、さっきまで冷えてしまった心の中が、再び温かく包まれていくのを感じた。
僕たちは想いを確かめ合うように、しっかりと強く抱きしめ合った。
「ログアウトしたら、改めてちゃんと話をしたい。アバターじゃなくて、現実世界の真白とちゃんと向き合いたいんだ」
「ふふ。そうだよね。うさぎ獣人とエルフだもんね」
「せっかくリベラリアの世界にいるのに、つい真白って呼んじゃってごめんな」
「ううん、気にしないで。でも、明日からはまた、シロとラパンに戻ろう?」
「そうだな。シロとラパンとしての思い出も、もっとたくさん作っていきたい」
「うん、楽しみだな」
僕たちがこれからのことを話していたら、夜空に、一筋の光が流れた。
「あ! 流れ星!」
「本当だ」
一瞬だったけど、二人で流れ星を見ることができた。神様が早速願いを叶えてくれたのかな。
僕たちは、動かない星が輝く夜空を、しばらく眺め余韻に浸っていた。
「さぁ、もうログアウトしようか」
「うん、そうだね」
「明日はログインできるの?」
「出張帰りだけど、そのまま仕事だよ」
「お疲れ様……。僕は、いつものように学校の帰りに寄るね」
僕たちは明日の約束をして、そのままログアウトをすることにした。
パネルを出し、メインページの下へスクロールする。
実はまだあの時のトラウマで、この瞬間はちょっとドキドキしてしまうんだ。
僕はちゃんとログアウトボタンがあるのを確認し、ほっと胸を撫で下ろした。そして、そのままログアウトした。




