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君を知らないまま、恋をした  作者: 一ノ瀬麻紀


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41 やきもち

 しばらくの間、僕たちは何も言わずに夜空を眺めていた。

 来年も、この星降る夜空を見ることができるだろうか。

 ここがゲームの世界だと、そんなことを思っていた。


 三十分くらい過ぎた頃、ソーマさんが沈黙を破り話しかけてきた。


「シロくん」

「はい……」


 呼ばれたので返事をしながら横を向いたら、ソーマさんは紙袋を僕の目の前に差し出した。


「はい、これ」

「……?」


 なんの紙袋だろう? って不思議に思って中身を見たら、僕が試着した中で一番気に入った装備だった。


「これは?」

「シロくん、誕生日だったんだろ? プレゼントだよ」

「えっ?」


 僕は、びっくりして思わず紙袋を手で押し返してしまった。


「いや、そんな受け取れません!」

「でもほら、もう買っちゃったしね?」

「まだ返品間に合います!」

「……そんなに俺からのプレゼントは嫌?」

「そ、そういうわけじゃ……」

「じゃあ、受け取ってくれるよね?」

「え……あ、はい……。ありがとう……ございます」


 ソーマさんは、さっきまで寂しそうにしょぼんとしてたのに、僕が押されて返事をした途端、満面の笑みに変わった。

 そして、もう一度ちゃんと僕に向き合って、紙袋を渡してきた。


「誕生日おめでとう!」

「ありがとうございます……」


 僕は勢いに負けて受け取ってしまったけど、まだ戸惑いは抜けないし、申し訳なく思ってしまった。


「……実はね、あいつに頼まれてたんだよ。『真白(ましろ)が最近元気がないから、お前の明るさで吹き飛ばしてやってくれないか』って」

(すばる)さんがそんなことを……」

「本当は、あいつが元気づけてやりたかったんだろうけど、急な出張入っちゃったからなぁ」

「僕、すごく嬉しいです」


 僕が、お正月に親戚で集まった日から、様子が違うのに気づいていたんだと思う。

 あの日、聞いてしまった「真白くんはまだ思い出さないの?」というおばさんの言葉と、お母さんが「気にしないで良いからね」と念を押すように何度も言ったこと。


 僕だって、気にしないようにって思ったんだ。でも、頭の中からずっと離れない。

 きっと、僕は大切な何かを忘れてしまっているんだ。――大切な、何かを。

 

「ま、そんなわけだからさ。このプレゼントも、あいつの気持ちも一緒にこもってるってことで。まぁ、コーディネートしたのは俺だけどな! 悔しがるぞ、あいつ」


 ソーマさんはそう言って、いつもみたいにワハハと声をあげて笑ったから、僕もつい、つられて笑ってしまった。


「やけに楽しそうだな」


 ソーマさんと二人で笑い合っていたら、急に後ろから不機嫌な声がして、ぐっと腕を掴まれた。

 そして気づいた時には、力強く引き込まれて、胸の中に閉じ込められていた。同時に、とても安心する匂いがした。


「ラパン!」


 僕が顔を上げ確認するまでもなく、ここにいるはずのないラパンだった。


「あれ? なんでここにいるんだ?」


 ソーマさんが不思議そうに問いかけているのに、ラパンは聞く耳持たずと言う感じだ。僕を囲い込んで隠すようにしながら、棘のある声でソーマさんを呼ぶ。


「おい、蒼馬(そうま)!」

「ソーマだって」

「どっちだって一緒だ!」

「おー、こわ」


 ラパンは、親友のソーマさんに、飛びかかりそうな勢いで威嚇する。

 どうしたんだろ? いつもの優しくて穏やかなラパンじゃない。


「お前、やけに距離が近くないか?」

「いやいやいやいや、フツーに星空眺めてただけじゃん」

「お前に真白を頼んだのが間違いだったか!?」

「おーい、落ち着けー」

「落ち着いている!」

「お前は、シロくんに笑ってて欲しいんじゃないのかー?」

「くっ……!」


 ラパンは、ソーマさんのもっともな言い分に、うっと言葉を詰まらせてしまった。

 さっき、ソーマさんからことの経緯を教えてもらったから、この二人が険悪ムードでやり合ってるわけじゃないのは分かっている。

 でもなんでラパンは……と思った時、僕はあることを思い出した。ソーマさんの言っていた「やきもち」のこと。

 もしかして、今、ラパンはやきもちを焼いてくれているってことなの……?


 僕はラパンの胸を、ねぇねぇと叩いてから、上を見上げた。


「ラパン? もしかして、やきもち焼いてくれるの?」

「……!」


 ラパンは僕の方を見て、すぐ顔を背けた。そして少しの間があった後、観念したように口を開いた。


「……ああ、焼いてるよ。すごく焼いてる。……シロがあんなにいい笑顔してたから。でも俺以外に、あんな笑顔見せるなよ……」


 顔を背けたまま、バツが悪そうに言うラパンは、いつもの頼りになる年上のお兄さんではなかった。僕と変わらない、普通の人なんだ。

 僕はラパンの横顔を見ながら、やきもちを焼いてくれた事実に、心が躍った。街中をぴょんぴょんと飛び跳ねたくなるほど、嬉しくて仕方がない。


「えへへ。ラパンがやきもち焼いてくれて、僕、すっごく嬉しい!」

「好きなんだから、やきもち焼くだろ」

「じゃあ、僕もやきもち焼く!」

「何その、やきもち焼く宣言は」


 僕の宣言に、ラパンはぷっと吹き出した。

 確かに、やきもちを焼く宣言なんてするんだろうか? でも好きなら、やきもちは焼くもんだって教えてもらったから、絶対僕も焼いちゃうと思う。


「おーい、俺の存在忘れてんじゃね?」

「ああ、シロの見守りありがとな、助かったよ。じゃあな」

「おいおい、それはヒドイんじゃない?」


 二人はそう言い合うと、顔を見合わせて笑った。

 楽しそうに笑ってる二人を見ると、僕も嬉しくて楽しくて、幸せな気持ちに包まれた。

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