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君を知らないまま、恋をした  作者: 一ノ瀬麻紀


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40 最終日

 数日間のログインで、ソーマさんとはすっかり打ち解けていた。

 初めはちょっと警戒してしまったけど、このノリがソーマさんなんだと分かってからは、普通に接することができるようになった。


 戦闘が苦手な僕は、街の中でこなせる依頼を受けたり、アクセサリーを作ったりした。

 そして、料理が得意というソーマさんに、現実世界でも作れるような料理を教えてもらった。

 (すばる)さんが帰ってきたら、手料理を振る舞うんだ。うまくできるか分からないけど、きっと昴さんなら喜んでくれる。


「俺が一緒にログインできるのは、今日までなんだけど……」


 そう、明日には昴さんが出張から帰ってくる予定なんだ。だから、ソーマさんとログインするのは今日が最後。

 初めはどうなるかと思ったけど、楽しい時間だった。ユキも相性がいいらしく、二人でノリノリでやり取りをしていた。

 そんな最終日だけど、今日はユキはメンテナンスでいない。最終日なのにって残念そうにしてたけど、もう会えないわけじゃないしね。


「今日は、俺が行きたいところがあるんだけど」

「ソーマさんの行きたいところ?」

「そう。シロを磨いてあげる」

「え? 何? 磨く?」


 戸惑う僕をよそに、ソーマさんはなんだか嬉しそうに笑って「ちょっと来て」と、僕の手を掴んだ。

 そして訳のわからないまま連れて来られたのは、武器防具屋だった。


「俺がコーディネートしてやるよ」

「え……?」

「前から気になってたんだよね。その無難な装備」

「ぶ、無難って……」


 ソーマさんは、楽しそうに失礼なことを言うなぁ。

 僕のこの格好は、体験版で用意されていた装備だ。だから、僕の意思で選んだわけじゃないし、この装備で十分だって言われたからまぁいいのかなって思ってきてるだけで……。


 でも考えてみたら、病気になってから友達と出かけることもなく、家族とだってそんなに遠出もできないし、自然と服装にも拘らなくなってしまった。

 オシャレしたって、誰が見てくれるわけじゃないし『無難』な格好で充分なんだよ。


「体験版ってさ、装備も魔法もアイテムも、困らない程度に揃えられているだろ? だからそのままで充分っちゃあ充分なんだよ。けどさ、せっかくいつもと違う自分になれるなら、思い切り冒険してみてもいいんじゃない? ……あ、冒険って戦う方じゃないよ? ゲーム世界だと、なんかややこしいな」


 ソーマさんは、一気にそこまで話すと、また楽しそうに笑った。

 この人は、なんでも楽しめる人なんだ。僕みたいに、あれこれ考え込んで、躊躇したりしないんだ。


「でも……」

「あー。今、あいついないもんなー。でも、俺がコーディネートしたって言ったら、きっとやきもちやくぜ?」

「え? 昴さ……ラパンが、やきもち?」

「あいつ、あれで結構独占欲強いんだぜー? ……って、俺が言ったって内緒な。ボコボコにされたくねーし!」


 やっぱり、ソーマさんは楽しそうだ。何がそんなにおかしいのだろうかと思うほど、よく笑う。

 ……でも、僕もせっかくだから、いろいろなことをして楽しみたいなって思った。

 それに、本当にやきもちやいてくれるのかな? って、気になるっていうのも正直な気持ちなんだ。


「シロは戦闘が苦手だと言ってたけど、試着するだけなら別にいいよな。ああ、心配しなくてもいーぞ。ここは、試着もできるお店だから。サイズはな、うまい具合に着た人にフィットするようになってんだ」


 カウンターの人と何やら話をした後、ソーマさんはくるりと体をこちらに向け、僕を手招きして呼んだ。

 恥ずかしいけど、普段身に付けられない、かっこいい装備を着てもいいんだよね? そう考えたら、戸惑いよりも楽しみが勝ってきた。


 そのあと、試着専用部屋に案内された僕は、次から次へと持ってこられる装備を、言われるままに試していった。まるで着せ替え人形みたいだった。

 けど、ソーマさんも楽しそうだったし、僕もいろいろな装備を試せて、とても楽しかった。

 試着した僕の姿は、記録されているから後で見返すこともできるんだって。ちょっと恥ずかしいけど、ラパンにも見てもらえるかな。

 僕は、ラパンのことを思い出しながら、何着も着替えを繰り返した。



 お店に入った時にはまだ外は明るかったのに、気づくとあたりはすっかり陽も落ち暗くなっていた。

 そろそろログアウトの時間だなって思っていると、ソーマさんが帰る前にちょっと寄りたいところがあると言うから、僕はついて行った。


「ここ、星が綺麗に見えるんだ」

「うわぁー。すごいです。キレイ」


 ソーマさんに連れられやってきたのは、街の外れにある公園の展望台だった。

 こんなに星がキレイに見える場所なのに、なぜか誰も人がいない。穴場スポットなのかな?


「誰もいないんですね?」

「空間魔法で見えないだけ」

「空間魔法?」

「他の場所にいるけど、ここにいるのと同じように体感できるんだ。だからみんな、家とかで今日の流星の日を楽しむんだろうな」


 僕が「流星の日?」って尋ねようとしたら、目の前に流れ星が見えた。

 そしてそれを皮切りに、結構な頻度で流れ星が流れてくる。


「おっ。始まったな」

「えっ、すごくないですか?」

「今日は流星の日と言って、年に一度一時間だけ、流れ星がたくさん流れてくる日なんだ」

「こんなにたくさんの流れ星、見たことないです……」


 僕は口をあんぐり開けて、次から次にやってくる流れ星に、目が釘付けになっていた。

 まるで空から星が降ってくるみたいで、とても幻想的な光景だった。


 こんなに素敵な夜空、一緒に見たかったな……。


 僕は、今ここにいない、大好きな人の姿を思い描いていた。

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