03 出会いは奇跡
「ここは、仲間を登録する場所」
「仲間?」
「一緒に冒険する、パーティーメンバーの登録だな」
サポートキャラを登録したカウンターのすぐ横には、ピンクの髪が印象的な女の人が立っていた。ここで、冒険の仲間の登録ができるらしい。
けどラパンは軽く説明したあと、もうここには用がないというように、さっさと歩き出してしまった。
「え、ちょっと待って。ここで仲間の登録をするんじゃないの?」
「登録の必要はない」
僕のゲームのイメージは最低でも四人で、戦士と武闘家と僧侶と魔法使い。……みたいな、バランスの取れたパーティーで冒険に出るんだと思っていた。
なのに、ラパンは必要がないと言うんだ。
僕はRPG――ロールプレイングゲーム――でいつも、バランス型のパーティーを組んで、無理せず着実にレベルを上げていくタイプだ。
スタートの街の近くでひたすら戦って、宿屋で回復を繰り返す。経験値とお金を貯めて、攻略サイトの目標レベル以上にしないと進めない。
だからこのVRゲームだって、仲間が必要だと思ったんだ。
「なんで?」
「俺がいるから、大丈夫だ」
ラパンは僕の問いかけに、何か問題でも? と言いたげな顔をして振り返る。
そんなこと言われたら、もう何も言えないじゃないか。ラパンの言う通り、きっと大丈夫だって思えたから。
「ふふ、そうだね」
僕は『俺に全部任せておけ』と、表情から伝わってくるラパンに向かって、「頼りにしてる!」と言いながら、ガッツポーズをしてみせた。
ラパンは力強くうなずくと「次、いくぞ」と言って歩き出した。
「ここは銀行。通貨を預けたり引き出したりできる。このゲームの通貨は【ミル】だ。今現在持っているミルを確認するには、ここで聞くのもいいし、パネルをひらけば確認できる。パネルについては、後で説明するから」
早速、パネルを開いてみようと思った僕の気持ちは筒抜けで、ラパンに先に言われてしまった。うん、確かにここで開いたら面白くなって、あっちもこっちもと見たくなってしまう。
でも僕は、プレイ時間が決められているから、効率よく説明していかないと、ログアウト時間になってしまう。
ラパンには、この街に着いたときにログアウト時間についても、言ってあるんだ。
「ここは困った時にヒントをくれる場所だ。ユーアさんが水晶で見てくれる。ただ、シロにはユキがいるから、ユキに聞けばいい。サポートキャラの登録をしていない人が、利用することが多いな」
そっか。じゃあ僕はお世話になることはないのかな。
そう思ってバッグを見たら、相変わらずユキは気持ちよさそうに寝ている。……うーん、やっぱりサポート役として、ちゃんと役に立ってくれるのかちょっぴり不安になってきたぞ。
「また必要になったら、改めて説明するから」
「うん、ありがとう」
「じゃあ次は、ここを出て他を案内する」
「はーい」
僕はラパンの後ろに付いて、建物を出た。
さっきは街に来てすぐに、サポートキャラ登録のために建物に入っちゃったから、街並みをゆっくり見ることはできなかった。
ゆっくり辺りを見回すと、僕が好きでよく遊んでいる、コマンドRPGの世界と同じだった。
すごい。画面の向こうでしか見たことのなかった世界が、現実になって目の前に広がっている。
コマンドRPGをベースにしているけど、現実世界に近いリアルさがある。
でも不思議なのは、すれ違う人々……人間だったり、獣人だったりは、すべてNPC――ノンプレイヤーキャラクター――だということ。
NPCだから、ゲーム内にはじめから配置されている、プログラム制御されているキャラクターのはずだ。なのに、表情や仕草まで自然で、ぱっと見ただけじゃ僕たちプレイヤーと区別がつかない。
体験版は、限られた人だけが遊べる特別仕様だから、現実世界で操作しているキャラに出会うことはめったにないらしい。
だから、ここで僕とラパンに出会えたのは、奇跡みたいなものなんだって。
奇跡、かぁ……。
運命っぽくて、なんか、いいな……。えへへ……。
僕は、自然とゆるむ頬を、きゅっと両手で包み込んだ。
「今のNPCはAI制御されているから、普通に会話が成り立つし、本物みたいで楽しいぞ」
「へぇ! NPCって言ったら、同じことの繰り返しだったのに!」
同じようなところを行き来したり、同じセリフを繰り返すのが街の人って感じだったけど、確かにこの街の住人は全然違う。
さっきも、ユキを登録する時に受付にいた犬の獣人は、普通に受け答えしてくれた。
プレイヤーと同じように、誰かが操作しているのかと思っちゃったよ。
「そういえば、ラパンはサポートキャラの登録はしてないの?」
「ああ、俺には必要がないからな」
「そっかぁ。……でもそうすると、僕にはラパンがいるから、ユキの出番が減っちゃうかな?」
僕がそう言うと、いつの間にかバッグの中で寝ていたユキがピャッと声を出した。
うさぎは耳がいいから、寝ていても聞き取ってしまったのかもしれないな。
「ああ、ごめんね。ユキは僕の大切な仲間だよ。頼りにしてるよ」
僕がそっと頭を撫でると、安心したように再び丸くなって寝てしまった。
サポート役になってるのかな? って思ったけど、可愛くて癒されるからまぁいっか。




