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君を知らないまま、恋をした  作者: 一ノ瀬麻紀


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38 急な出張

「明日から急な出張が入ってしまったんだ」


 冬休み最終日の夜。久しぶりにリベラリアにログインしたくて、(すばる)さんに連絡をしたら、話があるから会社まで来て欲しいと言われた。

 ここのところ調子もいいし、冬休み明け初日にオンラインではなく登校した僕は、帰りに昴さんの会社へお邪魔することにした。


「出張?」

「本当は俺の担当じゃないんだけど、どうしてもってヘルプされちゃって」

「大変だけど……頑張ってね」


 なんの話だろうと思ってドキドキしていたら、急な出張により、一緒にリベラリアにログインできないという話だった。

 年明け一回目のログインも、いつものように昴さんと一緒だと思ってたから、気持ちが少し落ちてしまう。でも仕事だから仕方がないんだと、自分に言い聞かせた。


「いや、やっぱり出張は他の人に頼もうか」

「何言ってるの。昴さんが頼られているの、僕は嬉しいよ」

「代わりのやつがいるなら、そいつに押し付けるんだけど……」


 昴さんはぶつぶつと言いながら、大きくため息をついた。

 きっと、誰でも対応できることではなく、昴さんだから任せられたんだろう。

 会社でも、プライベートでも頼りにされている昴さんは、やっぱり僕の自慢の恋人だ。


「その間の、ログインについてなんだけど……」


 昴さんは、なぜか躊躇しながら言葉を続けた。

 そうだ。出張は一日だけじゃないと言っていた。一日だけなら、その日はログインしないという選択もある。  

 けど数日となると、話は別だ。僕は年末年始にログインできなかったから、そろそろリベラリアに行きたくてそわそわしてるんだ。


「本当は、俺以外が真白(ましろ)を守るのは納得いかないけど、緊急事態ということで、仕方なく他のやつに頼むことにした」

「緊急事態って」


 昴さんが、明らかに不服そうな顔で、ちょっと拗ねたように『緊急事態』なんて言うから、僕は小さく吹き出してしまった。


「だって、緊急事態だろ? 真白を他の男に託すなんて」

「もう、大袈裟だなぁ」

「大袈裟なんかじゃない。……何かあったら、ユキに言うんだぞ? 本当はユキに全てを任せてもよかったんだけど、会社から言われたから……」


 五歳年上の昴さんは、いつも僕を守って導いてくれる、頼り甲斐のある人だ。

 だけど恋人になったら、時々今日みたいなことを言い出す時がある。僕には気を許してくれてるんだなって感じるから、僕もまんざらではないんだ。


「真白と一緒にログインする奴は、俺の専門学校時代からの旧友なんだ。ちょっと賑やかなやつだけど、とても信頼できるやつだから、その辺は心配しなくても大丈夫だ」

「さっき、ユキに言えって言ったのに?」

「ゲーム制作に関わっている側の人間だからな。ユキと役割が違うんだよ」


 僕は申し訳ないと思いつつくすくす笑うと、昴さんはちょっと不貞腐れたように言った。

 意外に子どもっぽいところもあるんだと最近気づいて、僕の知らなかった昴さんが、どんどん増えていくのがすごく嬉しかった。



「キミが真白くん? 俺は相良蒼馬(さがらそうま)、よろしくな。真白くんの話は、昴からいつも聞いているよ」

「初めまして、篠宮真白(しのはらましろ)です。今日はよろしくお願いします」


 次の日の学校の帰り道、僕は昴さんの会社へやってきた。

 昴さんは、昨日僕に話をした後、そのまま家に帰らず出張に行ってしまった。前乗りして事前準備をすると言っていた。


「初対面の男と二人で緊張しちゃうかもしれないけど、大丈夫大丈夫。俺、めちゃくちゃ優しいからさー、気軽に頼ってよ?」

「は、はい」

「そんなにガチガチにならなくても大丈夫だって! ずっと手を握っててあげようか?」


 蒼馬さんはそこまで言ってから、「でもそんなことしたら、昴が怖いからなぁ」と声をあげて笑った。

 なんか蒼馬さんって、ちょっと……チャラい? でも、昴さんの友達だって言うし、大丈夫だよね……?

 僕は少し緊張しながらも、蒼馬さんに話しかけた。


「……昴さんと蒼馬さんは、……専門学校時代からのお友達だと聞きました」

「実は高校時代から知ってるんだ。でもその時はまぁ普通の知り合い程度でね? ほら、俺ってこんな感じじゃん? あまり接点なかったんだよ。でも、同じ専門学校へ進学すると知ったあたりから、仲良くなったんだ」

「そうなんですね……」


 俺ってチャラいじゃん? って言われて、僕は咄嗟に否定できずに、口ごもってしまった。


 蒼馬さんは、戸惑っている僕の顔をじーっと見てから、ふむふむと一人で納得したようにうなずいた。

 昴さん以外の男の人から見つめられると、どうしていいのか困ってしまう。


「うん、あいつの恋が成就して、本当に良かったよ」

「え?」

「おっと、あまりおしゃべりが過ぎると、後で昴に何言われるかわからないからな。話すなら、本人がいるところにしようか」


 蒼馬さんは、僕たちが付き合っていることを知っているようだった。話を聞く限り、親友のようだし、報告をしているのだろうか。

 僕は誰にも言えずに隠しているから、昴さんが僕たちのことを話しているのは、ちょっと恥ずかしいけど嬉しかった。

 けど同時に、怖くもあった。


 僕のまわりにはいないから分からないけど、だいぶ寛容になってきたとはいえ、セクシャリティへの偏見は根強く残っていると聞く。

 他人に同性同士で付き合っていることがバレたら? 家族や親戚にも伝わり、もしかしたら身内から嫌悪感を持たれてしまったら?


 そんな可能性を考えたら、僕自身が周りにいないと思い込んでいるだけで、実はみんな隠してひっそり過ごしているのかもしれないと思った。

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