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君を知らないまま、恋をした  作者: 一ノ瀬麻紀


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37 親戚の集まり

 (すばる)さんと元旦を一緒に過ごし、今日は正月三が日の最終日。僕の家に、親戚が集まってきていた。

 毎年恒例の集まりなんだけど、年々人数が減っている。子ども含めて家族で挨拶に来ていた親戚も、子どもが大きくなるにつれて、玄関先での挨拶で済ます人が増えてきた。


真白(ましろ)くん、学校はどうだい?」

「はい、オンライン対応しているので、登校したり家で授業を受けたりしています」

「今は便利な世の中になったねぇ」

「はい、助かってます」

「無理はしちゃいけないよ、ご両親も心配するだろうし――」


 僕を小さな頃から知るおじさんは、色々と気にかけてくれる優しい人だ。けど、正直この場の雰囲気は僕はあまり好きではない。

 親戚が集まると、お酒好きの人たちが気分よく飲んで、うっかり口数が多くなったりする。

 そういうときは大抵僕の病気のこと……病気とははっきり言わないけど、どうなんだ? みたいな感じで聞いてくる。

 だから僕は、貼り付けたような笑顔で、当たり障りのない返事をするんだ。


「おじさん、ビールいかがですか?」

「おお、昴くん、ありがとう。……昴くんも、仕事はどうかね? 順調かい?」

「ええ、おかげさまで。とてもやりがいのある仕事ですよ」


 僕がその場から離れられなくなり、困っているところへ昴さんがビール片手にやってきた。

 空気を読まないおじさんの注意を引いてくれるためなんだと思う。


 昴さんは、なぜか毎年うちの親戚の集まりに参加している。

 周りの親戚のおじさんやおばさんも、昴さんがいるのは当然といったふうに、誰も疑問に思っていないようだ。

 いくらずっと僕を見守っていてくれる昴さんだからと言って、親戚の集まりに普通にいるのか不思議でしょうがない。

 前に聞いたことがあるけど、みんなどうしてそんなことを聞くの? という返事が来るだけだった。


「真白、おばさんが呼んでたから」

「あ、ありがとう」


 多分、これも嘘だと思う。僕が席を外せるように言ってくれた嘘。でもおじさんはそんなことは気にせず、ビールをお酌してもらって上機嫌だ。


「はぁ、悪い人じゃないんだけどな……」


 僕はみんなが集まっている部屋を出て、少しの間自分の部屋で休ませてもらおうと思った。

 お母さんに声をかけてから行こうと台所に向かったその時、お母さんのお姉さんの『満子(みつこ)おばさん』との話し声が聞こえてきた。


「ねぇ、真白くんはまだ思い出さないの?」

「姉さん、その話はしないでって言ったよね?」

「誰もいないからいいじゃない」

「それはうちの問題だから、姉さんは口を挟まないでちょうだい」

「姉に対してその言い方はひどいんじゃないの?」


 お母さんのあんな声、あまり聞いたことがない。

 とても穏やかな人で、滅多に声を荒らげることはない。なのに今は、不機嫌なのが伝わってくるような口調だ。


 ……それに、『まだ思い出さない』ってなんのことだろう? 僕が何か約束を忘れているのかな?

 僕は、今この二人の輪に入ってはいけないと感じ、そっとそのまま二階に上がろうとした。


 ガタンっ


 向きを変えた時に、扉のすぐ横に置いてあった、ビールケースに足をぶつけてしまった。


「真白っ!?」

「あ、ちょっと部屋で休もうかと思って……」


 僕の名前を呼んだお母さんは、慌てた様子で台所から出てくると、僕の手を引いて二階へ引っ張っていった。


「さっきの話、聞いてた?」


 僕の部屋に入ってドアを閉めると、僕の目をまっすぐに見て真剣な瞳で話しかけてくる。


「う、うん……僕が、まだ思い出さないのか? って」

「そう、それを聞いたのね」

「ごめん……」

「良いのよ。大したことじゃないから。真白が子どもの頃の軽い口約束のことをね、姉さんは言ってるのよ。本人が思い出すまで自分からは言い出さないとか言っちゃってね」

「僕、満子おばさんに悪いことしちゃったのかな。……全然思い出せないよ」

「あの人が勝手に言ってるだけだから、気にしないで良いのよ。……ほんと、昔から姉さんはああいうところがあるから。真白、ほんと気にしなくても良いからね?」


 お母さんは、何度も「気にしないで良いからね」と繰り返した。

 さすがの僕でも、お母さんが何かを必死に隠そうとしているんじゃないかと、疑ってしまう。

 でもお母さんが隠そうとしているのなら、僕からは無理に聞き出そうとはしたくない。困らせたくないから。


 お母さんが部屋を出て行った後、心にモヤモヤを残したまま、僕はベッドに横になった。

 僕が何か大切なことを忘れているのなら、思い出したい。けど、思い出して今の生活が大きく変わってしまったら?

 そう考えると、怖かった。


 コンコン


「真白? 大丈夫か?」


 軽いノックに続いて、昴さんの声が聞こえてきた。


「あ、昴さん……。僕は大丈夫。でもちょっと眠くなっちゃったので、お昼寝するね」

「ああ、わかったよ。しばらく予定が詰まってたから、疲れてしまったかな? ゆっくり休むんだよ?」

「うん、今日もありがとう。また連絡するね」


 昴さんはドア越しに声をかけた後、そのまま部屋を離れていった。

 今日は顔を合わせずに、昴さんはこのまま帰ってしまうと思う。けどそれで良いんだ。今顔を見たら、心の中のモヤモヤをぶつけてしまいそうだから。

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