30 この世界でも
『ログインを確認しました。リベラリアの世界をお楽しみください』
病院でログインした時と同じ音声案内の後、かすかな浮遊感を感じ、僕はリベラリアの世界へ吸い込まれていった。
頬にあたる風を感じそっと目を開けると、そこはいつもと同じグリーンヒルの街並みが広がっていた。
いつもと違うことといえば、僕の隣にはラパンが並んで立っているということだ。
僕が横に立つラパンを見上げ笑いかけると、ラパンも僕を見て嬉しそうに笑う。
「ずっと、こうやって一緒にログインしたかったんだ」
「僕も、偶然じゃなくて、約束して会いたかった」
「久しぶり。シロ」
「うん、ラパン、また会えてよかった」
ログアウトボタン消失トラブルのあった日、ラパンにもう二度と会えないのかと不安になった。
だから、またこうやって並んでいられるのは、本当に感慨深かった。
「ここじゃちょっと邪魔かな」
「そうだな」
僕とラパンは、街の入り口で立ち話をしていたから、場所を移動することにした。
邪魔にならないように案内所の裏手にまわり、そこに設置してあるベンチに座った。
グリーンヒルは冒険者や旅行者が多いから、あちこちに休憩スペースが設けられている。
ラパンが先に座り、「おいで」と僕に手を差し伸べてきた。僕はその手を取って隣に座った。
握りしめた手はそのまま離さず、僕はゆっくりと口を開いた。
「僕の話を、聞いて欲しいんだ」
「もちろんだ」
「ありがとう」
現実世界で昴さんと話をした時、僕はラパンにちゃんと伝えたいことがあるって話をした。
ラパンも昴さんかもしれないけど、でも、ラパンにたくさん助けられたから、ゲームの中で本人にちゃんと伝えたかった。
「ラパン。僕が初めてログインした日も、その後も、ずっと僕を支えてくれてありがとう。あの日、もう二度と会えないかもしれないと思った時、ラパンへの思いは、ただの憧れじゃないのかもしれないって思ったんだ」
「うん……」
「今まで人を好きになったことがなかったから……。恋愛というものを全く知らずにきた僕は、自分の中に湧き出た感情が、何なのかわからなかったんだ。けど、ラパンと一緒に過ごす中で――」
僕がそこまで言いかけて、ラパンは僕の口を手で塞いだ。
「ストップ。……その先は、俺に言わせてくれ」
僕より大きくて男らしいラパンの手が口元を覆って、僕の心臓の音は一気に大きくなった。
「リベラリアでシロと過ごす時間は、俺にとってもかけがえのないものだった。初めは、ゲームの中で何かあったら困るからと、見守るだけのつもりだった。けど、真白として昴に接する時よりも、自然体で一生懸命で頑張っている姿を見たら、こっちの世界のシロも、同じように好きになっていたんだ」
「ラパンも、シロとしての僕のことも、好きだと思ってくれたの?」
ラパンが離した手を目で追うようにしながら、僕はラパンに問いかけた。
優しくしてくれるのは、危なっかしい僕のことを、放って置けないからだと思っていた。
「ああ。自由に動き回って、楽しそうにしているシロを見ていたら、欲が出た。現実世界で優しいお兄さんのままなら、せめてこっちの世界では想いを伝えてもいいんじゃないかって」
「僕のこと、危なっかしいから、放っておけないのかと思ってた」
「あはは、確かに初めはそうだった。操作ミスでいきなり草原に現れるわ、ベアウルフに襲われるわでびっくりしたよ」
僕たちが、リベラリアで初めて出会った時のことを思い出していた。
ログインしたばかりの僕は、何が起きているのか全く状況がつかめなかった。
「でも、現実世界で真白と恋人同士になれた。それなら、ここでも遠慮することはないなって思ったんだ。俺の思いをちゃんと伝えようって」
「それなら、僕だってちゃんと思いを伝えたいよ」
ラパンも僕も、自分の方がもっともっと好きだって伝えたくて、我こそはという感じで主張する。
でも一瞬の間があって、二人顔を見合わせぷっと吹き出した。
「どうせなら、一緒に言おうか」
「うん、同じ気持ちだもんね」
二人で目を合わせ、こくりとうなずいた。これが合図だ。
「シロ、好きだよ」
「ラパン、好き……」
『好き』という言葉が、一番シンプルで一番伝わるんだと思う。
僕とラパンは同時に、「好き」と伝えた。
「現実世界でも、ゲームの世界でも、僕たちは両思い……恋人同士なんだね」
「そうだ。俺たちは恋人同士だ……」
確かめ合った気持ちが、嬉しくてちょっぴり恥ずかしくて、胸がキュンとなるのを感じた。
しばらく見つめ合った僕たちは、どちらからともなく、自然と顔を近づけていく。
僕がそっと目を瞑ると、唇に優しく温かいものが触れた。
僕とラパン、二人の大切な思い出が、またひとつ増えた瞬間だった――




