29 恋人?
「真白は、リベラリアの世界を、もっと体験したい?」
「もちろんです!」
「……あー。真白、また敬語に戻っちゃってるなぁ。俺、気さくに話してくれる方が好きなんだけどなぁ」
僕はお互いの気持ちを確認し合った時、緊張で敬語に戻ってしまった。そのまま、ついいつものように話してしまったんだけど、昴さんは残念そうだ。
「あ! そうで……じゃなくて、そうだね!」
「うんうん。俺たち、恋人同士なんだから、敬語じゃない方がいいよね」
「こ、恋人同士!?」
「あれ? 違うの?」
「あ、いや、違くなくて……でも、え、恋人?……僕と昴さんが、恋人?」
ほんの少し前まで、昴さんへの恋心を自覚していなかった僕にとっては、『昴さんと恋人同士』という急展開についていけずにいた。
「うん、やっぱり真白は可愛い」
あたふたする僕を見ながら、昴さんはニコニコと楽しそうに言うので、ちょっとからかわれてるのかな? なんて思ってしまう。
「昴さん、僕をからかって楽しんでません?」
「ほら、口調」
「あ!……って、昴さん、ごまかした!」
「ふふ。そんなことないよ? 真白が可愛いと言ったのは、本音だから」
「もー。恥ずかしいなぁ……」
顔が一気に熱くなって、僕は自分の両手で顔を覆った。
「でね。話を戻すけど」
「うん」
なんか、大人の余裕って感じで、ちょっと悔しいけど、実際年上なのだからしょうがない。
僕は、いつか逆に昴さんをあたふたさせてやるんだから! って心に誓った。
「体験版だからやれることは限られていると言っても、真白がシロとして過ごした時間は、体験版のほんの一部。まだまだリベラリアの世界でできることは多いんだ」
「まだまだ、知らないことばかりだもん」
「だから、もし良かったら、俺の会社で続きをやらないか?」
「え? いいの?」
昴さんからの思いがけない提案に、僕は目を輝かせた。だって、一週間限定だと思っていたから。
昨日ログアウトする時に、またねって言ったけど、もう会えないかもしれないと思っていたんだ。
「もちろん。このゲームは、真白のためにと言うのがきっかけなんだ。もっともっと真白に体験してほしい」
「嬉しい。街のみんなやうさぎさんにも、ちゃんとお礼も言えずにログアウトしちゃったから。それに、シロとして、ちゃんとラパンと話をしたかった」
「そうだな。みんなとまだやりたいことはあるし、俺も、ラパンとしてシロとちゃんと話ができるのは嬉しい」
昴さんがラパンだと知ったばかりだから、まだなんか変な感じがするけど、きっとすぐ馴染むと思う。昴さんもラパンも、なんか似てるなって思ってたし。
「会社には話をして準備を整えているから、二、三日後にはログインできると思う」
「ほんと? 嬉しいな」
「真白のご両親にもちゃんと話をして、許可を取ってからになるけど……」
「うん、そうだね。今回のことで心配かけちゃったし……。もしかしたら、ダメって言われるかもしれない……」
今回のログアウトボタン消失トラブルは、結局何が原因だったのか僕は知らない。
でも、どんな理由であれ、ゲーム内に閉じ込められるということは、もしかしたら現実世界で目を覚まさないという事態に陥ったかもしれない。
親として、そんなゲームを、またやらせようと思うだろうか?
僕はそう考えたら、急に不安になった。昴さんの話を聞いて、またリベラリアのみんなと会えるかもと、浮き立っていた気持ちは、一気に沈んでしまった。
そんな僕の気持ちを察したのか、昴さんはいつものように、僕の頭をポンポンと優しく撫でた。これは、ラパンもよくやる癖だ。
「絶対とは言えないけど、俺も誠心誠意を込めて説明させてもらうよ。真白のためにとプレゼンして実現したプロジェクトだけど、会社にとっても大きな意味を持つものだから」
「うん、ありがとう」
やっぱり昴さんは、かっこいいし、頼りになる。こんなに頼りになる昴さんなのに、僕には弱いところを見せてくれたんだ。そう思うだけで、心がキュッと高鳴るし温かい気持ちになる。
愛おしいというのは、この感情のことを言うのかな。
退院したばかりで疲れただろうからと、その日はそのまま昴さんは帰っていった。
そして会社の準備が整ったあと、うちの両親に丁寧に説明してくれた。
今回のトラブルの原因と、対応策などを話してくれたみたいだけど、隣で聞いていても全く僕には意味がわからなかった。
でも両親は、昔から知っている昴さんの言葉だし、会社側の対応も誠実だから、僕がゲームの続きをやることを納得してくれたみたいだ。
こうして僕は、再びリベラリアの世界に遊びに行けることになった。




