表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
VRゲームの世界でキミを待つ  作者: 一ノ瀬麻紀


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/37

27 大事な話

「お世話になりました」


 僕は何度目かの検査入院を終え、退院の日を迎えた。ちょうど手の空いた看護師さんや、入院中に仲良くなった子たちが、玄関まで見送りに来てくれた。


「病院だから、またねってあんま言っちゃいけないんだろうけど……またね!」

「今度は、病院の外で会う約束をすればいいんだよ。それならまたねって言える!」

「それいいね! 真白(ましろ)が言ってたうさぎカフェに一緒に行こうよ」

「そうだね。うさぎカフェ案内するよ」

「やったー!」


 子どもたちは、口々にワクワクするような話をするから、僕も「また今度ね」と、未来のある話をする。

 子ども病院に入院するような子は、専門病院にかからないといけない子や、治りの悪い病気などの子が多い。せめて、こういう時の会話くらいは、希望のある話をしたいんだ。


「そろそろ行こうか」


 僕の隣で荷物を持ってくれている(すばる)さんが、時計を見てそろそろと促す。

 病院に来れない両親に代わって、昴さんが退院手続きをしてくれた。そして家まで送り届けてくれると言う。


「じゃあね」

「またねー!」


 僕は停めてある昴さんの車に乗り込み、走り出した車の窓を開けて手を振った。



 午前中に退院した僕は、昴さんに送ってもらい帰宅した。

 家に誰もいないので昴さんは心配していたけど、「昴さんは仕事に行ってください」と僕が言うと、後ろ髪を引かれるように、何度も振り返りながら僕の家を出て行った。


 昴さんを見送った後、お母さんが作り置きしてくれたお昼ご飯を食べた。

 久しぶりに食べたお母さんの手料理は、じんわりと心に沁みる。と同時に、ゲーム内でのあの不思議で美味しい料理のことも思い出していた。


 とてもリアルな体験ができるとはいえ、あくまでもゲーム、所詮作り物……なのに。僕の中でこんなに大きな存在になっていたんだって、今ならわかる。

 現実世界と同じくらい、リベラリアの住人との交流が楽しくて嬉しくて、気づけば僕の心の拠り所になっていたんだ。


「みんなに、会いたいな……」


 僕はなにもやる気が起きなくて、食事の片付けもしないまま、ベッドに横たわった。

 目をつぶると、浮かんでくるのはみんなの笑顔だ。


「真白?」


 体を揺さぶられる感覚で目を覚ますと、ベッドの横には昴さんが立っていた。


「あれ? 昴さん……?」

「連絡入れても返事はないし、家に来てチャイム押しても反応ないし、悪いけど勝手に上がらせてもらったよ」

「僕、いつの間にか寝ちゃったみたいです」


 目を擦りながら体を起こし、時計を見るともう十七時を指していた。


「疲れているところ、ごめんな。大事な話だから、聞いてほしい」

「あ、じゃあここじゃなくて……」


 大事な話なのに、こんなところじゃと思って僕は言ったけど、昴さんは静かに首を横に振った。


「ここで大丈夫だよ」

「あ、はい」


 昴さんは、ふうっと大きく息を吐くと、僕をまっすぐ見た。


「真白に、隠していたことがあるんだ」

「隠していたこと……?」


 昴さんの口から出た言葉は、僕の想像していなかった言葉だった。

 僕はてっきり、これからのゲームについてとか、そういうことだと思っていたんだ。


「驚かせてしまうかもしれないけど、聞いてほしい」


 昴さんは、ためらいつつ、言葉を選んでいるように思う。そんなに、隠していてはいけなかったことなのだろうか。


「俺は真白のために、リアルVRゲームを作ると約束しただろう? それがやっと完成に近づいた。病院の協力を得て、準備が整い、やっと真白に体験させられることになったよね?」

「うん」


 昴さんの言葉に僕はうなずいた。


 どうしてゲーム開発に至ったのかということを、昴さんは前に話してくれた。

 きっかけはたしかに『僕』なんだけど、それだけじゃなかった。


 リベラリアは、入院中の子どもたちや体の不自由な人たちにも、リアルVRゲームの中で生活を楽しんでほしい……という思いで企画された。

 今まで医療目的の簡易的なものはあったけど、RPGタイプは初めての開発だって教えてくれた。


「やっとリベラリアを真白に体験させてやれることになって、今度はゲーム内で誰が真白を守るんだ? って思った。けど俺がこのまま昴として一緒にゲームにログインしても、真白にとってはあくまでも『近所の優しいお兄さん』でしかない。……だから俺は考えた。別人になってゲーム内で会えば、もっと自然に接してくれるんじゃないかって」

「別人に……なって……?」

「そう、別人になって、()()に会いに行った」


 そこまで言うと、昴さんは一呼吸置くように息をのんだ。

 次の言葉を待つ僕の心臓の音も、静けさの中で大きく聞こえる。

 少しの沈黙の後、昴さんはゆっくりと口を開いた。


「ずっと黙っていてごめん。……俺は、ラパンなんだ――」


 昴さんが意を決して話してくれた内容に、僕は驚いて声も出なかった。

 ずっとゲームの中で僕を支えてくれていた人が、昴さんだった……?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ