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VRゲームの世界でキミを待つ  作者: 一ノ瀬麻紀


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26 ログアウト

『お疲れ様でした。このまま終了いたしますが、よろしいでしょうか?』


 いつものように、AIアシスタントの声が流れ、目の前にパネルが現れた。僕が『はい』を選択すると、パネルに『ログアウト完了』の文字が浮かび上がり、スッと消えた。

 顔を覆っていたゴーグルが、左右から静かにスライドしながら、チェアのヘッドレストへと滑らかに収納されていく。

 この感覚がいつもと同じで、僕はほっと胸を撫で下ろした。


 ログアウトボタン消失というトラブルに巻き込まれたし、予定時間より大幅にオーバーしてしまったから、何か体に異変があるかと心配してたんだ。

 ……けど、やっぱりいつもより疲れているような気がする。


真白(ましろ)、どこか具合が悪いところはないか?」


 VRマシン越しに聞こえてきたのは、(すばる)さんの声だった。


「大丈夫そうです。少し疲れている気もしますけど、すごく調子が悪いという感じはないです」

「そうか、良かった。ゆっくりでいいから、気をつけて出てくるんだよ」


 昴さんが心配そうに言うので、僕はゆっくり体を起こし、マシンの外に出た。立ち上がっても、めまいもしないし、大丈夫そうだ。


「無事ログアウトできて良かったよ。……先生に診ていただくから、部屋を移動しようか。これに座って」

「車椅子?」

「念のためにだよ。途中で具合が悪くなってしまったら困るからね」

「はい、わかりました……」


 腫れ物に触るように扱われると、体が弱いという現実を突きつけられた気持ちになる。

 昴さんは、本当に僕のことを心配してくれているのはわかってる。なのに、卑屈に考えてしまう自分が嫌だった。


「うん、大丈夫そうだね。血液検査も問題なし。明日の朝も大丈夫なら、このまま退院できるよ」

「退院ですか?」

「ちょっとゲームで大変だったから、どうかなって心配だったけど、真白くんの健康状態に問題はなかったから、予定通り退院だね」

「ありがとうございます!」


 主治医の先生に診察をしていただき、採血の結果も何も問題なかったと、お墨付きをいただけた。

 退院が伸びてしまったらどうしようと思っていたから、本当に良かった。


 診察を終えた後、昴さんは車椅子に僕を乗せ、病室まで連れて行ってくれた。

 昴さんは病室内に入り僕をベッドに座らせ、向かい合うようにして立ち、僕の両手を取った。


「明日、大事な話がある。退院日で大変な中悪いんだけど、午後に時間を作ってもらっても良いかな?」

「大事な話……?」


 昴さんの真剣な表情に、僕の心臓は大きく跳ねた。

 何の話だろう。ドキドキしながら、一晩過ごさなきゃいけないのだろうか。今ここで話をしてくれればいいのに。

 けど、昴さんは僕の体を心配してくれているんだ。だから僕がわがままを言うわけにはいかない。


「わかりました。どこに行けば……?」

「俺が真白のところに行くから、待っていて。向かう前に連絡を入れるから」

「はい」

「じゃあ、また明日ね。今日はゆっくり休むんだよ?」

「はい」


 いつもなら、昴さんは病室で他愛もない話をしてから帰るのだけど、今日はもう遅いからとそのまま帰っていった。

 昴さんを見送った後、僕はベッドに横になり、天井を眺めながらゲーム内での出来事を思い返していた。


 アイテム生成も覚えたし、足止め魔法や攻撃魔法も使えた。一人でモンスターを倒し、生成の材料集めもできた。

 不測の事態が起きて不安になったけど、僕は僕なりにできることを探してやれたんだ。この出来事は、僕の自信にもつながった。


 でも、無事ログアウトできた今だからこそ、こうやってゆっくり考えることができるけど、あのままだったら僕はどうなっていたんだろう。

 そう考えると、またゲームの続きができるとしても、ログインが怖いかもしれない。


 そもそも、退院後のことについては何も聞かされていない。続きをプレイできるのかさえわからない。

 もしかしたら、ユキや、メプさんたちや、うさぎさんにもう二度と会えないかもしれない。

 お世話になったメプさんたちに、まだちゃんとお礼を言ってないのに。うさぎさんのところにまた遊びに行くって約束したのに。……次ログインしたら、真っ先にユキを呼ぶって言ったのに。


 みんなの顔が、次々と浮かんでくる。


 続きをやりたいという気持ちと、また何かあったらと思う気持ちと、僕の心の中はいろいろな思いが交差する。考えがまとまらないまま、僕は何度も大きなため息をついた。


 考えすぎて目が冴えて眠れなくなるかと思ったけど、さすがに疲れていたのか、気づいたら僕は夢の世界へと吸い込まれていった。

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