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VRゲームの世界でキミを待つ  作者: 一ノ瀬麻紀


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22 占い屋

 しばらくあてもなくトボトボと歩いていると、あたりは陽が落ちて暗くなってしまったので、宿で休むことにした。


「ゆっくりお休みくださいね」


 部屋まで案内してくれた宿屋のスタッフが、ペコリとお辞儀をしてそっとドアを閉めた。

 とても優しく対応してくれたけど、これは「NPCによる定型文なんだ」という思いを強く感じてしまい、余計に寂しさを増していく。

 昨日までは、人間みたいと喜んでいたはずなのに、今は本物の人が恋しい。……ううん、違う。ラパンに会いたいんだ――。


 部屋に備え付けられたテーブルの上に、手持ちのミル――この世界の通貨――を並べてみた。

 明日以降もこの状況が続くのなら、どうやってやりくりするか考えなければならない。


 僕は戦闘に向いていないから、モンスターを倒してミル稼ぎができない。

 となると、生成アイテムを売る? でもそれにはフィールドに出て材料を集めなければならないから無理だ。

 街の中でできる依頼を受ける? それなら、その日に生活するくらいは稼げるだろうか。


「はぁ……」


 僕は大きなため息をついて、いつも身につけているうさぎのキーホルダーを、ゆらゆらと揺らした。

 自分で買ったのか、誰にもらったのかも覚えていない。けど、子どもの頃からずっと大切にしているキーホルダーなんだ。

 本物は現実世界にあるけど、ゲーム世界のうさぎのキーホルダーも、同じようにいつしか僕の支えになっていた。


 僕はベッドに横になり、部屋の窓から外を見た。星がキラキラと輝いてとても綺麗だ。

 いつもなら、こんなに暗くなるまでいたことがないので、初めて見る星空だった。こんな状況じゃない時に、ユキとラパンと一緒に見たかったな……。


「なんでこんなことに……」


 僕は小さくつぶやき、静かに目をつぶった。けど、いろいろと考えてしまい眠れない。やっと朝方うつらうつらとし始めたと思ったら、もう陽が昇る時間になってしまっていた。

 結局十分な睡眠も取れず、少しだけ朝食をいただいたあと、重い体を引きずりながら宿を出た。


 こういう時、マジックバッグがあって良かったなと思う。大きな荷物を引きずって歩かなくても済むし、荷物の預け場所に困ることもない。


「あ!」


 僕は大切なことを思い出した。昨日は慌てていて気づかなかったけど、僕が話しかけたのは普通の案内所の人だ。この街に来たばかりの時に教えてもらった『ユーアさん』の水晶で見てもらえば何かわかるかもしれない。


 僕はさっきより軽い足取りで、街の入り口まで移動した。

 昨日尋ねた案内窓口で、今度はユーアさんについて尋ねると、建物の奥の部屋にいると教えてもらった。


「すみません、中に入っても良いですか?」


 占い屋と書かれた看板の前で、僕が一言声をかけると、中から「どうぞ」という返事があったので、暖簾をくぐって中に入った。

 目の前にいたのは、全身黒づくめの衣装に身を包んだ、おそらくカラス獣人だろう人物がいた。黒々とした髪には艶があり、その姿は美しかった。


「初めまして、こんにちは、僕、シロと言います。あの……現在の僕の状況について見て欲しいんですけど……」


 僕の切羽詰まった表情を見て、ユーアさんは全身を一通り観察するように見たあと、うむと小さく呟いた。


「……あいわかった」


 ユーアさんは真剣な表情で水晶に手を当てると、何やら呪文のようなものを唱え始めた。

 水晶がキラキラと輝き出し、何かを映し出したようだ。僕の位置からは確認できないけど、ユーアさんは水晶をしばしじーっと眺めたあと、かざしていた手を下ろした。


「……今は不安定になっておる。お主、戻れなくなっておるのだろう?」


 ユーアさんは、僕が何も言っていないのに、現状について言い当てた。すごい、この水晶に何が映し出されていたんだろう。


「はい。僕はプレイヤーなんですけど、昨日ログアウトしようとしたのに、ログアウトボタンが見つからなかったんです」

「うむ。時々外と繋がっているようだが、不安定になっておる。今無理して出ようとすると、狭間の空間に投げ出されてしまうやもしれぬ。だが外で何やら動きがあるのが見える。しばし待てば迎えが来るであろう」

「本当ですか?」

「うむ、間違いない」


 ユーアさんの言葉に、真っ先に思い描いたのはラパンだ。きっと、ラパンはエラーでログインできずに、外で何かしら動いてくれているんだ。

 ユーアさんに見えているのが、ラパンと決まったわけじゃないけど、僕はなぜか確信を持っていた。絶対、ラパンが助けに来てくれる。


 希望を得た僕は、晴れ晴れとした気持ちになった。ラパンが来るまで僕一人で頑張って、会えたら自慢するんだ。


「安定するまで、メプのところに世話になると良い。わしから伝えておこう」

「え? いいんですか?」

「かまわぬ。あやつとは、ちょっとした仲でな」

「ありがとうございます!」


 正直、ずっと宿に泊まるのはどうかなと思っていたんだ。

 メプさんのところなら、手伝いもできるから、僕でも役に立てると思う。


「水晶で見てくださっただけでなく、メプさんとの連絡まで取ってくださって、本当にありがとうございます。とても助かります!」


 僕は朝起きた時の重い足取りではなく、前向きで希望に満ちた軽い足取りで、メプさんの働くお土産屋さんに向かった。


 ラパンが、迎えに来てくれる。そう信じて――。

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