21 アイテム生成
「では、一番簡単な回復薬から作ってみましょうか」
ルナさんはそう言うと、棚から何か葉っぱと液体の入った小瓶を取り出した。
「これは、薬草です。このままでも小回復できるのですが、生成すると効果がアップします。そしてこっちが精水。山の湧き水のように特定の場所で採取できます。両方とも、普通に道具屋で売っていますが、採取したほうが安価で作ることができます」
薬草と精水の説明をした後、隣に置いてある、ルナさんの肩までの高さのある大きな釜を指さした。
「そしてこちらが、生成釜。大きいほうが成功率が上がります。携帯用釜もあるのですが、もう少し先の町に行かないと取り扱っていません。釜の性能と、生成する者の能力値などで変わってきますが、それはまた追々ですね」
僕は、ルナさんの話に聞き入っていた。
簡単な生成だとしても、成功させてユキとラパンに自慢したいんだ。僕一人でもできたよって。
「ではシロさん、薬草と精水を入れて、念じてみてください。特別な魔法などはいりません」
「はい!」
僕は元気に返事をし、薬草と精水を生成釜に入れた。そして、回復薬ができますようにと、一生懸命念じる。
初めはなんの変化もなかった釜から少しずつ光が漏れ、一気にぱぁっと光を放った。光が落ち着くと、『生成成功』とパネルに表示され、緑色の液体の入った小瓶がぽんっと現れた。
「できた!」
僕は緑色の小瓶を手に取ると、高く掲げた。
「上手に生成できましたね。その調子です。もう一つ、モンスターを寄せ付けない「聖水」を生成してみましょうか」
「はい!」
「聖水は、浄化草と精水で生成しますが、浄化草は薬草より採取が難しいので、初期は道具屋で買うことが一般的ですね。先ほどと同じように、生成釜に入れて念じてください」
ルナさんから材料を受け取ると、さっきと同じように生成釜に入れ、一生懸命念じた。
すぐ目の前に、ポンっと水色の液体の入った小瓶が現れた。
「あれ? さっきより完成が早い?」
「初回は生成過程を見られるのですが、それ以降は省略されるようになっています。慣れてくると、もっと早くなりますよ」
「それは何気に便利ですね」
僕は、キラキラ輝く小瓶をニヤニヤしながら眺めた。少し成長した気がして、早くユキとラパンに見せたいなって思った。
「完成したアイテムは、差し上げますので、お持ち帰りください」
「ありがとうございます!」
「またいらしてくださいね」
「はい、また来ます!」
僕は元気に挨拶をすると、初心者の部屋の外に出た。そんなに長居をしたつもりはないけど、気づけば空はすっかり茜色になっていた。
「結局、ユキのメンテナンスは終わらなかったし、ラパンにも会えなかったなぁ……」
誰に言うでもなく、ぼそっと口から出た独り言は、高くて広い茜色の空に吸い込まれていった。
「よし、今日は夕飯を食べないで帰ろうかな」
いつもなら、ゲーム世界ならではの食事が楽しくて、必ず何か食べてから帰る。かといって、現実世界に戻ったら、普通にお腹が空いているんだけどね。
僕は今日はもういいかなと思いながら、ログアウトをしようと操作パネルを出した。
行動履歴が見られるんだけど、今日はとても寂しいものだった。ユキとラパンが一緒の時は、行動内容がぎっしり書き込まれているのに。
「明日は、ユキにもラパンにも会えるよね!」
僕は願いを込めて『会えますように』と言葉にした後、ログアウトボタンを押そうとした。
……え? ……あれ? ない?
いつもならパネル右下に必ずあるはずの文字が、どこにも見当たらなかった。設定ページや行動履歴も全部探したけど、ない。
何度パネルを閉じても、開いても、やっぱり……ない。
「なんで、ログアウトボタンがないの!?」
僕は慌てて、案内所へ走った。普段はユキがいるから必要ないと思うけど、もし困ったらそこに行けばいいと教えてもらった。
僕が初心者だから知らないだけで、対処の仕方はあるはずだ。だから問題ない、すぐログアウトできる。
そう心の中で叫びながら、ひたすら走る。初心者の部屋から街の入り口までだから距離があるけど、ゲームの中の僕なら走っても大丈夫なんだ。
「あの、すみません! ログアウトボタンが、ないんですけど!」
「ログアウトボタンですか? パネルを開いて、メインパネルの一番下に……」
「そこにないんです! いつものとこに、ないんです!」
案内所の人は、僕がログアウトボタンの場所を知らないと思って、説明してくれたけど、違う、違うんだ。僕が聞きたい答えはそれじゃない。
僕は半泣きになりながら訴えた。周りの視線が目が痛いけど、それどころじゃない。
「少々お待ちください」
案内所の人が何やらパネルを操作するけど、うーんと首をひねる。
「こちらでは障害など報告されていませんので、もうしばらく様子を見ていただくことしか……。また何か進展がございましたら、お知らせに表示されると思いますので」
どれだけ優秀なAI搭載のNPCでも、やはり人間ではないんだと、痛いほど実感した。
僕は、約束の時間が過ぎても、ログアウトができない事態に陥ってしまった。
なすすべもなく、街の中をトボトボと歩いた。
周りの景色も、行き交う人々も、いつもと何も変わらなかった。




