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VRゲームの世界でキミを待つ  作者: 一ノ瀬麻紀


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17/22

16 お休み

「うーん、今日はちょっと休まなきゃだめかな?」

「え……」


 朝の診察に来た僕の担当の先生が、少し困った顔で言った。


「疲れが出ちゃったのかな? いつもよりちょっと熱が高いんだよね」

「でも、僕いつもとそんなに変わらないし……。ゲーム内なら、走っても大丈夫なんですよね?」

「そうなんだけど……。今日の検査の数値もね、いつもより良くないんだよ」


 先生は手元のカルテを見て、小さく息を吐いた。


「キミが思うよりも、VRゲームというのは、疲れるのかもしれないね」


 目を閉じて体は休んでいるように見えるけど、脳は覚醒した状態だから、たった一時間のゲームでも相当負担がかかる。そんな話を聞いたことがある。

 一時間と言っても、ゲーム内時間は約一日だし、疲れるのは当然かもしれない。


 先生は、僕がVRゲームをどれだけ楽しみにしてるのかを知っているから、伝えるのをためらったんだと思う。

 でも主治医だから、時には厳しいことも言わなければならない。だから心を鬼にして、ドクターストップをかけたのかもしれない。


 それは僕にだってわかる。……わかるから、もう僕は高校生だし、もうこれ以上はわがままは言えないんだ……。


「わかり……ました……」


 僕は、消え入りそうな声で返事をした後は、もう何も言葉を口にすることはできなかった。


「また夜に様子を見に来るからね」


 先生は、またすぐにゲームができるようになるよ……とか、慰めみたいな言葉はかけなかった。それも、先生の優しさなんだ。

 中学生の時からの主治医だから、僕のことはよくわかってくれている。

 僕は返事の代わりに、無言で小さく頷いた。


コンコン


 先生が病室を後にしてから、僕はしばらくぼーっと窓の外を眺めていた。

 大きくため息をついた後、窓から視線を外したタイミングで、病室のドアがノックされた。

 いつもこの時間に来るから、このノックの主が誰なのかわかる。


「はい、どうぞ」

「こんにちは」


 ドアを開けて入ってきたのは、いつもこの時間にやってくる(すばる)さんだった。

 紙袋を持った昴さんは、いつものように入ってきて、いつものようにパイプ椅子を持ち出してきた。

 そして、おもむろに紙袋の中をガサガサと探ると、中から白くてふわふわしたものを取り出した。


「……?」


 僕が首を傾げると、昴さんはにっこり微笑んで「はい」と言って、僕の手の上に白いもふもふを乗せた。


「……あ! ユキ!」


 僕の手の上に乗せられたぬいぐるみは、間違いなくユキだ。

 メプさんのところで触った、サポートキャラのぬいぐるみと全く同じ。大きさも重さもふわふわとした手触りも。

 でもなんで、現実世界にあるの? なんでそれを昴さんが持ってきたの? わからないことばかりだ。


「これね、リベラリアに出てくるサポートキャラなんだけど、今試作品を作ってるんだ」

「試作品……? このうさぎ、僕がリベラリアの世界で、二番目に友達になった子なんです!」

「そうだったね、この前話してくれた子かな」

「嬉しい! 今日は会えないと思ってたから。……この子、撫でてもいいですか?」

「これは、真白(ましろ)にあげたくて持ってきたから、たくさん可愛がってあげて」

「昴さん、ありがとう!」


 僕は思いがけないプレゼントに、さっきまで沈んでいた心がぽっと温かくなるのを感じた。

 昴さんは、僕が寂しかったり、辛い時だって、いつもそばにいてくれる。僕にとってヒーローと同じなんだ。


「今日は、会えないって言ってたけど……」

「……先生から止められちゃいました。僕はいつもと変わらないつもりだったけど、先生の言うことなので、休むのが正解なんです。だから今日はゆっくりします」

「そうなのか……。じゃあ今日は、僕にリベラリアの話を聞かせてくれないか?」

「ふふふ。……昴さんは、しっかり休めって言うのかと思いました」


 僕は、昴さんも看護師さんたちと同じように、しっかり休んでって言うのかと思ってた。なのに、リベラリアの話をしてって言うから、思わずクスッと笑ってしまった。

 でもこれが、昴さんの優しさ。昴さんのそばにいると心が休まるし、温かい気持ちになるし、ずっと一緒にいたいと思える人……。

 この気持ちを言葉にするなら、なんと言うのだろうか。

 ……今の僕には、うまく当てはまる言葉を見つけることはできなかった。


 その日はベッドに横になりながら、リベラリアでの出来事を、昴さんにたくさん話した。

 ログインはできなかったけど、こうやって他の人に話すことで、また楽しかった日々を思い返すことができる。そして、次にログインした時に、ラパンやユキにもこの話をしてあげたいなって思った。


 しょげていた気持ちが、昴さんのおかげで前向きに考えられるようになった。


「昴さんは、製作者側なんですよね? ログインしないんですか?」


 僕はいつも気になっていたことを聞いた。


「製作中とか、テスト中はログインして動作確認したけど、今の体験版はまだログインしてないんだ」

「そうなんですね。今度一緒にプレイできたら楽しいのに」

「うん……そうだね」


 昴さんの返事が、なんとなく歯切れが悪いような気がしたけど、忙しくて無理なのかな……と、僕は思った。

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