15 力を合わせて
声のした方を見ると、――そこにいたのは、ラパンだった。
「ラパン!」
ラパンは僕の声に応えるように軽くウインクをすると、ユキが対峙しているオオアリクイに照準を定めた。
一匹だけだと思っていたオオアリクイは、視界が開けて全貌が見えてくると、ざっと数えても二十匹はいた。ユキが強いと言っても、多勢に無勢だ。
「待ってろよ、さっさと終わらせてやるから! ユキ、いくぞ!」
「任せて!」
ラパンの声かけに、ユキが応える。気付くとユキは、うさぎ獣人の姿に変身していた。この姿の方が戦いやすいのだろう。
ラパンは地面を蹴り、大きく飛び上がった。――と同時にユキも高く飛び上がる。
ユキの大剣は再び氷と強い冷気で包まれ、ラパンの大剣は炎と熱気で包まれた。
ユキの大剣が振り下ろされると、白銀の氷の粒がスパークするように地面に広がり、次々と強固な氷となってオオアリクイの足元を固めていく。
絶妙なタイミングで振り下ろされたラパンの大剣が、逃げ場を失ったオオアリクイを襲う。灼熱の炎が焼き尽くし、跡形もなく消え去っていった。
二人が僕たちのところに戻ってくる頃には、草原は何もなかったかのように、穏やかな風が吹き抜けていた。僕はもう大丈夫だと安堵し、バリアを解いた。
「もう大丈夫だよ〜」
木の木陰でほっと息をついていると、ユキがうさぎ獣人の姿のまま、軽やかに走って近づいてきた。
「ユキ、獣人の姿にもなれるの? もう何でもできちゃうじゃん」
「えへへ〜。サポートキャラだからね〜」
自慢げに言うユキを見ながら、このゲームの仕様はまだまだ知らないことも多いなぁと思った。
体験版とはいえ、サポートキャラの扱いが正直チートすぎるような気がする。どうせチートなら、僕にももっと戦闘能力とかつけて欲しかったのに……。
「シロ、終わったら連絡してって言っただろ? 何で勝手に街の外に出たんだ?」
ユキに続いて、ゆっくりと歩いてきたラパンは、僕を見て大きなため息をついた。
「ごめんなさい。うさぎさんが困ってたから、送り届けてから連絡しようと思って。……それに、僕、連絡の仕方がわからなくて……」
僕はラパンに素直に謝り、でも連絡が取れなかったんだと伝えた。しょんぼりと項垂れる僕を見て、ラパンは再びため息をついた。
「そうだな、それは俺も悪かった。……でも心配したんだぞ。急にいなくなるから」
「うん、心配かけてごめんなさい」
「ねぇ、ラパン。その話は後でちゃんとするとして、うさぎさんを送り届けてあげようよ」
ユキが間に入り、提案してくる。うさぎさんが、僕たちのやりとりを、困ったように黙って見ているのに気づいた。
「あ! ごめんなさい。ご迷惑をおかけしてしまって……」
「ああ、こちらこそごめんね。怖い思いさせちゃったね。さぁ、行こうか」
のんびりしていたら、またモンスターが襲ってこないとは言い切れない。今のうちにさっさと移動してしまった方がいいだろう。
ユキは再び姿を変え、先ほど下ろした座席と荷台を背中に移動させた。
「俺が先頭で進むから、ユキは俺の後ろをついてきて」
「りょうかーい!」
こうして僕たちは、再び草原を、先ほどよりさらにスピードを上げて駆け抜けていった。
◇
無事うさぎの街『ホワイトバロウ』に到着し、うさぎさんの家まで荷物を運んだ。
僕の大好きなうさぎがたくさんの街でゆっくりしたかったのに、気づけば空の色が変わり始めていた。
「今日は本当に助かりました、ありがとうございました。なかなかグリーンヒルに行く機会がないので、街を見て回るのが楽しくなってしまって。今度はもう少し計画的に過ごすようにしますね」
「わかります! ワクワクしてつい夢中になっちゃいますよね」
特にあのお土産屋さんは、キャラグッズもあるし、お菓子もたくさんであっという間に時間も過ぎてしまう。僕も、依頼じゃなくて今度はゆっくりお店に行きたいと思っているんだ。
「今度お礼をしたいので、ぜひ遊びに来てくださいね」
「もちろん遊びに来ます! 僕、うさぎが大好きなんです!」
僕は自分がうさぎ獣人だということを忘れて、興奮気味に話すと、助けたうさぎさんは楽しそうにくすくすっと笑った。
「では、帰り道気をつけてくださいね」
「はい、ありがとうございます」
名残惜しいけど、僕たちはホワイトバロウを後にした。
空はすっかり茜色に染まり、もうすぐ今日一日が終わることを示している。
僕のプレイ時間はゲーム時間で一日と決められているから、もうすぐ楽しい時間が終わってしまうことを意味していた。
「今日ももうすぐ終わりかぁ」
「シロは明日もログインするんだろ?」
「その予定だけど……なんか、この世界に慣れれば慣れるほど、ログアウトするのが寂しくなっちゃうな」
「そうだな。でもまた明日もあるし、ゆっくり休んでまた明日会おう」
「そうだね」
僕はユキの背中で揺られながら、真っ赤に染まる夕焼け空を眺めていた。




