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VRゲームの世界でキミを待つ  作者: 一ノ瀬麻紀


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09 体験版

 (すばる)さんは、僕が高熱を出してしまって、引っ越しもして、孤独で寂しい思いをしていた時からずっと僕のそばにいてくれる。

 なぜこんなによくしてくれるのは分からないけど、昴さんは、リアルVRゲームを僕のために作ってくれるって約束したんだ。そうすれば、僕がゲーム内で制限なく思い切り動くことができるから。


 僕はずっと、ただの慰めだと思っていたけど、本当に作ってしまったんだ。

 昴さんのお父さんがゲーム会社を経営していて、元々リアルVRゲームの開発は進んでいたけど、RPGタイプのゲームシナリオはまだなかったんだって。

 だから、昴さんが企画発案して、制作が実現したと言っていた。


 正直、僕には難しくてよく理解できないけど、僕にでもわかるのは、昴さんが僕をとても大切にしてくれているということ。


「ごめんね、そろそろ仕事に戻らないといけないんだ」

「あ! お仕事なのに、様子を見にきてくれてありがとうございます」


 昴さんは腕時計に視線を落とすと、申し訳なさそうに僕に言った。

 僕が今日初めてログインするから、気にかけて様子を見にきてくれたんだ。


「また明日来るからね。ゆっくり休むんだよ」

「はい! ありがとうございました!」


 僕はベッドの中から失礼だと思いながらも、病室から出ていく昴さんを見送った。


 昴さんを見送った後、僕はタブレットを取り出した。高校の今日の課題を進めておこうと思ったんだ。

 僕は、オンライン対応している高校を選んだから、検査入院の時も、病室から授業を受けることができて助かっている。


 友達のいない僕だけど、定期的に検査入院するから、病院のスタッフとか、顔馴染みの入院患者もいる。

 その人たちが、僕にとって、友達や家族のような存在になっている。


 そんな中、少し特別なのが昴さんだ。高熱で入院して目を覚ました後から、ほぼ毎日お見舞いに来てくれたし、退院後も何かと僕の世話を焼いてくれる。

 なんでなのかわからないけど、昴さんにとっても、僕は特別な存在なんだって。


 何か、とても大切なことを忘れている気がするけど、思い出そうとすると、頭がすごく痛くなってしまうんだ。

 胸もざわつくし、苦しくなる。でも、何も思い出せない――。



 次の日の昼食後、僕は病院内に設置してあるVRマシンの前まで来ていた。

 朝の往診で問題はなかったし、午前中の検査も無事終わった。昨日と同じく一時間だけという約束で、今日も僕はVRゲームにログインする。


 『リベラリア』は、RPGタイプのフルダイブ型リアルVRゲームだ。


 僕が昨日から遊んでいるのは体験版で、リベラリアの世界が少しだけ楽しめる。

 体験版仕様になっていて、レベルの概念はなく、程よいHPとMPがある。

 魔法も世界観を楽しむ程度には覚えていて、装備もアイテムも初めからいくつか持っている。


 あくまでもリベラリアの世界観を体験してもらうのが目的で、現時点では、製品版には引き継がれない予定になっているそうだ。


 僕は、マシンのスイッチを入れ起動した。そして、中に入ってチェアに腰を下ろした。

 初回ログインではないので、色々スキップしながら操作をすると、目の前のパネルに『ログイン完了』の文字とAIアシスタントの声が聞こえた。


『ログインを確認しました。リベラリアの世界をお楽しみください』


 AIアシスタントの声が遠くなったと思った瞬間、微かな浮遊感を感じた。

 数秒後そっと目を開けると、もう目の前には見覚えのある街並みが広がっていた。


「良かった。今度はちゃんと街の中だ」


 僕はまた、草原のど真ん中に現れてしまうんじゃないかと、ちょっと心配していた。だから、ちゃんと街の入り口に立っていることに安堵した。


 僕はログインして真っ先に、パネル操作をしてサポートキャラ呼び出しの項目を選んだ。

 サポートキャラの登録はしてあっても、毎回必ず呼び出さなくてもいいらしい。

 だけどピンチの時には、プレイヤーの指示がなくても呼び出されるって聞いた。やっぱり、従魔みたいな関係なのかな。


「シロ、おはよー」


 僕がユキの呼び出しボタンを押すと、のんびりした声とともに、目の前にポンっとユキが現れた。


「ユキ、また寝てたの?」

「シロだって寝てたでしょー」


 ああ、たしかに昨日は夜に宿屋で眠ったと同時にログアウトをした。

 宿屋やテントなどで寝ると、自動で朝になるみたいだ。これも、家庭ゲーム機のRPGと同じような感じなのかな?……ということは、仮眠みたいなこともできるのかな?


「シロー。今日は何するのー?」


 定位置である僕の肩の上に乗ると、ユキはいつものようにぴょんぴょんと跳ねた。うん、この肌に触れるふわふわの毛は、やっぱり気持ちがいい。


「うーん、どうしようかなー。外での戦闘はユキと二人きりじゃ不安だし……」

「むーっ! シロとユキだけでも戦えるのにっ!」


 僕の言葉に、ユキは不満そうに後ろ足をダンッと蹴り上げるように動かした。


「いたたた! ごめん、ごめん。ユキは強いけど、僕が不安なんだよ」


 普段は軽くてふわふわなユキなのに、足ダンするとけっこう痛い。こういうところは、うさぎらしいのかな。

 僕が「ごめんごめん」と言いながら優しくユキを撫でたら、「撫でてくれたから、許す!」だって。

 ちょっと偉そうなこんな態度も、かわいくて、僕はしあわせな気持ちになった。

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