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牲愛  作者: 久慈柚奈


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4/11

4

 私たちは卒業の日を迎える。

 とはいえ先生の言っていた通り、初等部を終えて中等部に進むだけで、真っ白な制服も、通う校舎も変わらない。それなのに「卒業式」と呼ばれる重々しい儀式をやるというから、慣例とはよく分からないものだ。

 卒業式の日を、私たちは丸一日学校で過ごす。朝いつも通りの時間に登校してから、次の日の朝まで。校舎中が全学年の手によって綺麗に片付けられ、あらゆる部屋を使って布団が敷かれた。ひとつの教室につき四組ずつ。真っ白な布団の両脇はレースのついたてで仕切られ、布団を並べて眠るルームメイトの姿を見ることはできないようになっている。私たちには卒業式のための特別な白い装束が配られ、それを着て布団に入った。消灯後は布団から出ることを禁じられている。私たちは暗い天井を見つめ、ついたて越しにおしゃべりをして過ごした。そのうちにみんな寝てしまった。

 真夜中、物音で目を覚ました。

 ドアが横に開く音と、スピーカーから流れた微かな通電音の、どちらを先に聞いたかもう思い出せない。

 とにかく物音がし、軽く頭を起こして見ると、先生が閉めていったはずのドアが開いていた。青白い満月の光が私たちの足元からさしていた。

「ねえ、南……」

 何かおかしいよね? 隣の布団に声をかける間もなく、それは訪れた。

 ひたひたいう足音。四つの黒い影がドアから入りこんでくる。不慣れで、ぎこちない。人影が四組の布団の前に佇んだ時、各教室についたスピーカーから先生の声がした。

「イザナミの娘たち。初等部からの卒業おめでとうございます。皆さんは国生みの女神の末裔(まつえい)として、そしてこの国に奉仕する女性として、今新たな一歩を踏み出します。皆さんの学びは新しい段階へ進むのです――より実践的に」

 廊下の向こうから叫び声が聞こえる。誰かが放送で目を覚まし、布団の足元に立つ人影に気づいたのだろう。私の両脇で南とさくらも息を呑んでいる気配がした。叫び声すら凍りついてしまっている。

 黒い影が私たちの上に覆いかぶさる。両手を押さえられる。振り払えない。体格と力の差を知覚した時、私たちは相手が男の子であることに気づいた。

 この日は私たちの卒業式であると同時に、この男の子たちが中等部を卒業する日でもあったのだ。

「この日を祝い、この国の輝かしい繁栄を祈りましょう!」

 スピーカーから祝詞が流れ出す。私は男の子たちがこれからするだろうことを察する。

 暗闇。予期しない状況。抗いがたい力。目の裏に夕日がちらつき、体の感覚が鋭敏になる。そして遠ざかる。私は凍りつき、脱力する。矛盾が私を包みこんで責め立てる。

 需要。愛。強制された悦び。この行為は祝賀であり、記念であり、めでたいことなのだ。一生私について回ることなのだ。耳に滑り込む祝詞と私の上を這いまわる息。これが、卒業するということ。

 それは確かに儀式だった。私たちは捧げものだ。イザナミの血を引いて生まれ、国に、男に愛と慈悲を分け与え続ける生け贄。

 すべては最初から決まっていたのだと思う。あの金髪の男は、きっと私より先に「それ」を知っていた。だから私を損ねた――私は損ねて良い存在だと分かっていたから。

 私たちは捧げられる。これから何度も捧げられるだろう。私たちに許された反応は一つだけだ。ただ受け容れる。イザナミが男たちのためにしたこと。いや、イザナミはイザナギを愛していたから受け入れたのではなかったか? 愛と需要はどちらが先に来るものなのだろう。

「愛シテル……愛シテル……」

 耳の奥にこびりついた残響が、目の前にいる男の子の息遣いと重なる。けれども彼は、まだ私を損なおうとはしてこない。

 廊下の向こう、さっきより近いところから涙声が漏れ聞こえていた。アリスの声だった。

「嫌! やめて! やめてよ! 近づかないで! あたしに近づかないで! こんなこと聞いてない!」

 慌ただしい数人分の足音が隣の教室へ入っていく。先生の声がアリスをなだめている。

「アリス。これは毎年あることなんですよ。みんなやっているんです。貴女は今日まで模範生だったじゃありませんか。みんなのお手本になるように、体を開いて見せるのです。ほら、力を抜いて」

「嫌! 嫌です先生放してください! お父さん! お母さん! 迎えに来て! 助けて!」

「良い加減にしなさい!」

 皮膚と皮膚がぶつかり合う音。アリスは叩かれたのだろうか。叫び声がぴたりとやんだ。

 怒鳴り声は知らない男の声だ。男の子たちの先生だろうか。

「君が今まで誇りにしてきた母親もここの卒業生だと聞いているぞ! 当然、この儀式のことは知っているのだ。知っていて、君を送りこんだのだ!」

「嘘……! そんな、そんなはずない……! こんな怖いこと、お母さんがあたしにさせるはずないもん……!」

「これが現実だ。君の両親はすべて知っていたのだ。君は今日この時のために学んできたのだ。儀式を投げ出すことは認められない。さあ」

「嫌ああああああ!」

 アリスの悲痛な叫びは、ほどなくして祝詞にかき消されてしまった。口を塞がれたのかもしれない。場を乱さないように、他のみんなの邪魔にならないように。

裏切り者にならないように。

物音も声も、祝詞に収斂(しゅうれん)するように乾いて規則的になっていく。もう誰の抵抗もすすり泣きも聞こえない。嬌声さえ漏れはじめている。隣の気配に酔わされて激しくなる。

 みんながみんなに酔わされる。……飲み込まなければやっていられない。

 その中で、私の上の彼だけが先へ進まない。

 彼は私をじっと見つめている。それで私も彼の目を見つめる。他にできることがない、ただそれだけの理由で。彼の目が泳ぐ。焦っている。ためらっている。怯えている。私にはなぜかそれが分かった。

 初めて、彼の顔の細部まではっきり見えるようになる。

 彼は、私が抱く「男」という印象よりもずいぶんとあどけない顔立ちをしていた。ゆるくうねった柔らかそうな髪。かすかな月光を背に光る黒っぽい目。優しそう、という言葉すら似合いそうだ。

 うるさいくらいに反響していた「あの日」の声が、急速に遠ざかって私は現在に着地する。あの金髪の男とは似ても似つかない、静かな彼の前に。

 廊下を見回っていた先生が、動かない私たちに気づいた。手を後ろで組み、のぞきこむように近づいてくる。

「なぜ先へ進まないのかね?」

 彼は先生の接近に気づいていなかったのだろう。憐れなほど体を大きくびくつかせた。この人も見慣れない先生だ。高圧的な話し方をする。

「進めたまえ。やるべきことは学んできたはずだ」

「で……でも、先生」

 彼は勇敢にも反論しようとしている。

「ぼ、ぼくにはできません、こんなこと。だって、みんな叫んでいました。観てきたのと全然違う……全然嬉しそうじゃない。怖がっているってことですよね? それなのにこんな。同意も得ないままでなんて」

「つべこべ五月蠅(うるさ)い!」

 先生の怒声が一瞬、祝詞を掻き消した。先生は器用に彼を私から引きはがすと、彼の胸倉をつかんで凄む。

「女々しい屁理屈を並べるな! 同意ならすでに取れている。なぜならお前が男だからだ。男だから好きなことができるのだ。好きな道を選び、好きな女を好きなようにしろ。男になれ!」

 合間にはさまる彼のすすり泣き。先生から顔を逸らした視線の先で、ちょうど私と目が合った。彼の目は恐怖に見開かれ、同時に私を逃れられない運命のように見つめている。

先生は彼を私の上に引っ立てた。

「さあ、お前が価値ある男であることを証明しろ! 今ここで!」

 彼が歯を食いしばる。先生が投げつけた雑言が私たちの頭にこだまする。これまで持ち上げられ、支えられてきた彼の自信が優しさによっておびやかされようとしていた。

 彼はそうしなければならなかった。

 突然、彼は私の上で咆えた。両手で顔を覆い、髪を振り乱して絶叫した。

 それから猛然とそれを始めた。

 獣、を私は見たことがなかったけれど、この荒々しさを「獣のよう」と形容することは知っている。彼は私に襲いかかり、非常に男らしく振る舞った。それを見て先生は満足した。

 いつの間にか祝詞は止んでいた。気がつくと男の子たちも見知らぬ先生もいなくなっていた。みんなが同じ悪夢を見ただけのように、先生が穏やかな顔で朝を伝えにきた。


*


 枕元のタイマーが鳴り、ベッドの(きし)む音が聞こえる。男が体を起こしたのだ。

 私も彼の動きに追従する。

「あ……時間、だね」

 私が発した言葉はかすれていてぎこちなかった。オーナーや(ねえ)さんたちに教えられたことを思い出す。私は延長を誘う言葉をかけてみたが、むっつりと黙りこんだ客の反応は芳しくない。

 私たちは黙々と服を着た。

 連れだって部屋を出て、エレベーターで一階まで下りていく。フロントにたどり着くと、私の他にも客の見送りに来ている令嬢たちが数人いた。

「ねぇ~。織田さんもう帰っちゃうの? もっといっしょにいようよー」

「ごめんね、みやこちゃん。絶対、また来るから」

「みやことの約束だよ? 待ってるからね!」

 みやこ姐の常連なのだろうか、帰っていく客と親しげに手を振り合っている。

 オーナーに言われたことを思い出した。

「君ももう少しこう、明るく? みやこちゃんをお手本にしてごらん」

 そうだ、みやこ姐をお手本に。屈託なく笑って、明るく話して「また来てね」と言うのだ。そうすれば良いのだ。

 いざ思い立ったことを実行しようとするも、喉が詰まったようになって言葉がうまく出てこない。

 結局、会計を終えた客にぎこちない言葉をかけることしかできないまま、客は夜明けの近い雑踏の中に消えて行ってしまった。

 また、うまくできなかった。

「……」

 私は客だった男の後姿を見るともなく見送る。客のはけたフロントで、みやこ姐が私をあざ笑った。

「あんたまだそんな陰気な見送り方してんの? やばすぎ。お店のイメージ下がるからやめてよね」

「……すみません」

 私は謝罪する。どうしてできないのか分からないままだけれど、とにかくこれは私の失敗なのだろうから。

 だって、これは私の仕事だ。客としてやってきた男たちをもてなすこと。奉仕すること。彼らの腹の底に渦巻く欲望を癒して鎮め、また日常の中に送り返す神聖な仕事。やはり、私にはこれしかできないのだ。

 場数を踏めば慣れることができると思っていた。みんなそうやって慣れていくと教わっていた。どうして私は一年経っても変われないのだろう。

 姐さんたちみたいに、自然に、愛想良く、振る舞うことができないのだろう。

 みやこ姐の叱責は続いていた。

「ほら、またぼーっとして! あのね、すみません、すみませんていつもおんなじこと言うけど、全然反省してるように見えない! 謝れば済むとでも思ってるんでしょ。言われたことを直してはじめて、ちゃんと反省してるって言うと思わない? 誠意を見せなさ……」

 みやこ姐の肩に手が置かれる。

「まあまあ、みやこ? そう熱くなりすぎないで」

 別の声が割り込んできて、みやこ姐の説教を中断させた。私たちが見上げれば、頭ひとつ高いところから胡蝶(こちょう)姐が笑いかけている。みやこ姐の勢いは簡単に収まらなかった。

「胡蝶姐! いつもこの子のことばっかり甘やかして!」

「あたしはただ、いろんな接客スタイルの子がいても良いんじゃないかなって思うだけだよ。みやこみたいにはきはきした子も、この子みたいに落ち着いた子も、好きだっていうお客さんがいるよ、きっと」

「こっちはただ陰気なだけ! だっていつも一見(いちげん)だけなんだもん! あたしはリピーターだってたくさんいるし、あたしの方がかわいい!」

 みやこ姐はさらに言いつのるが、胡蝶姐は何を言われても動じないし、当たり障りのない言い方で受け流してしまう。腹を立てつづけるのにも体力が要るのだろう。みやこ姐は次第に涙目になりはじめた。

「そんなに言うならもういいもん! 胡蝶姐はいつもその子を庇うんだから! でも、あたし間違ってないもん! 学園出のあたしの方がえらいんだもん!」

 身を翻して従業員通路に姿を消してしまう。きっと地下に戻って、自分のベッドで哀れっぽく泣くのだろう。みやこ姐はいつもそうだから。

 学園。あの学校にいたことがそれほどの権威になるものか、私にはよく分かっていない。だが周りから見るとどうやらそうらしい。そもそも学校に通えていたことは権威だし、あの学園出身ともなれば、店では非常に珍重され、優遇してもらえる確率が高い。

 とはいえ、学歴がすべてではない。令嬢として働きはじめれば、物を言うのは過去ではなく売り上げだ。現に売上二位のみやこ姐は、一位を保ち続けている胡蝶姐にいさめられれば引き下がるしかない。 

ここは、そういう場所。

 胡蝶姐が目を輝かせて私を見下ろす。

「ねえ、もうすぐ閉店じゃん? アイス買いに行こうよ。疲れちゃったし甘い物食べよ」

「えっあ……はい」

 もう小遣いは残り少ないのだが、上手く言い出せずに了承してしまう。私たちは財布を取って出かけた。

 裏口から外へ出る。壁に囲まれた街のほとんどはまだ薄暗く、ネオンの光がけばけばしく光っていた。けれども夜は明けはじめていて、ビルと壁にふちどられた空は白く明るい。

 最寄りのコンビニにたどり着くと、自動ドアが開くと同時にかしましい女の子たちの声が私たちを包んだ。お菓子の並んだ棚の前で、八、九歳くらいの子どもたちがあれこれとお菓子を選んでいる。

 いや「子ども」と呼ぶのは無礼かもしれない。彼女たちもまた、自分で働き金を稼ぐ、自立した令嬢たちのひとりだろうから。

 私と胡蝶姐はお菓子の棚を通り過ぎ、奥にあるアイスケースの前で立ち止まった。さっそく選びはじめる胡蝶姐の隣で、私はまずがま口の小銭入れを開けて残金を確かめる。

 今週の小遣い、残り二百円。買えるものはおのずと決まってくる。

「ねえ!」

 いちばん安いものに手を伸ばそうとした時、胡蝶姐の呼びかけが私の進路を塞いだ。

 見ると、胡蝶姐の手には二種類のアイスがある。

「買うの決まってる?」

「あ……決まってるというか……なんというか」

「良かったら、あたしにこれおごられてくれない? どうしても両方食べてみたいけど、ふたつまるまるは厳しいからさ。分けっこしようよ。ひとくちだけもらえれば、それで良いから」

「え……」

 悪気のない笑顔に、胡蝶姐が私を気遣ってくれているのかもしれないと思う。店から支給される小遣いは売上の多寡で金額が変動する。たくさん遊びたければたくさん稼がなければならない。胡蝶姐は、当然私の何倍も多くもらっているのだろう。そしてコンビニにたどり着く前から、胡蝶姐はこの提案をするつもりだったのだろう――私が申し訳なさを感じず済むように。

「じゃあ、お言葉に甘えます。ありがとうございます」

「いいって、いいって。むしろありがとうね。これでおいしいもの二倍!」

 さっぱりと応じ、アイスをふたつ持ってレジへ向かう。女の子たちはいつの間にかいなくなっていた。

 会計を済ませてコンビニを出る。アイスを食べ比べながら、ひとけのなくなっていく街をのんびり戻った。

 早朝の、静かな街はいいな、と思う。

 まだ放送の鳴らない時間帯。仕事を終えた人々が家路につき、眠り、気配をうすくしている。まるで街のすべてが私たちだけのものになった気がする。まどろむ人々は世界の外にいて、実在しているのは視界に入る私たちだけであるような。

 誰にも侵されず済むような。

「なんか早朝の街って、いいよね」

 唐突に胡蝶姐が言う。見上げると微笑んでいる。それ以上は何も言わなかったけれど、私は嬉しく思った。

「そうですね」

 少しずつ日が高くなる。だんだん通りに人の姿が見えてくる。彼らは小柄で、目立たないように小さな体をさらに縮めて、道端のゴミを拾っている。あ。と思った。「ストリート」の子どもたち。

 どこの店にも所属せず、路地裏で眠る男の子や女の子たち。服を着こんでいるのでぱっと見は分からないが、彼ら彼女らの多くが痩せて頼りない体格であることを、私は知っている。

「あ」

 胡蝶姐も声を上げた。思わず批判を予期して身構えてしまう。

「ストリートの子って、こんなに早くから働いてるんだ」

 胡蝶姐はただそう言っただけだった。口調には感心も批判も含まれてはいない。胡蝶姐に失望せず済んだ、私は安堵した。

 道の先で、ゴミ袋をいっぱいにした男の子が立ち上がろうとしている。袋が重かったのかふらついて、袋の中身が辺りにぶちまけられてしまった。

 考えるより先に体が動いていた。

「大丈夫。手伝うよ」

 男の子に駆け寄り、落ちたゴミを拾っていく。素手だろうが気にならない。近くの人が落ち着いた態度を見せることが今は大事だ。

 おろおろしていた男の子も、だんだんと落ち着きを取り戻してきた。小さな声ですみませんと言って、一緒に拾いはじめる。ゴミは紙くずからジュースの蓋つきカップ、しわくちゃの雑誌までいろいろあった。

「すみません。すみません……」

 私がゴミをひとつ袋に入れるたび、男の子は謝った。私はそのたびに大丈夫と言った。同じやりとりが何往復も続いた。

 散らばっていたゴミは元通り袋に収まる。今度はしっかり立ち上がれたようだった。

「はい」

 そこへもうひとつゴミがさしだされる。胡蝶姐だった。

「あ」

 思わず息を呑んでしまう。胡蝶姐の綺麗な手の中に、誰が捨てたかもわからない肉まんの袋。

「風で飛んでってたからさ」

「すみません!」

 私と男の子の声が重なった。よりにもよって胡蝶姐にゴミを拾わせてしまうなんて。

「朝早くからご苦労さま」

 軽く手を振って男の子と別れた。

 胡蝶姐はアイスの最後の一口を頬張って言う。

「優しいね」

「はい?」

「他の子は、ストリートと関わろうとしないから。あたしはあんたのそういう優しいところが好きだよ」

 棒についた残りまで綺麗に舐めとってから、胡蝶姐はアイスの棒をきちんと通り道のゴミ箱に捨てる。

 優しい、か。

「そう、なんでしょうか」

 優しいことは、いいことだろうか。優しい私は、いい子なのだろうか。

 もう会うことはないだろうに、鮮明に覚えている横顔が抗いがたく思い出される。

 ジャンヌと呼ばれるあの人と別れてからもう一年も経つなんて、とても信じられない。


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