86
朝の野ばら亭は、夜の喧騒とは別の匂いがする。
石床の冷たさ、厨房から漂うハーブティの湯気、荷馬車の車輪音が窓越しに揺れる。
青司が一階に降りると、既にクライヴが外套を羽織っていた。
テーブルには帳簿が三冊、路銀袋、封された書簡が整然と並ぶ。
「……早いですね」
「仕事ですので。王都は遊びに来る場所ではありませんからね」
淡々と言いながらも、クライヴの手付きは軽い。
寝不足でも、商人は朝に強いらしい。
階段から降りてきたリオナは目をこすりながら、青司の袖をちょんと引いた。
眠気のせいか、耳がぴくっと小さく動き、後ろのしっぽはだらんと垂れている。
「……ねむい」
「おはようじゃないの、リオナちゃん。顔洗ってから言いな」
女将のツッコミが飛ぶのも、ここ数日のいつもの風景になっていた。
クライヴは外套の襟を整えながら、その様子をちらと見やった。
旅先ということもあってか、二人の距離は以前よりいくらか近い。
だがそれは甘やかしでも馴れ合いでもなく、移動や仕事を共にした結果として自然に育った“間”のように見えた。
クライヴはそれを悪い兆候ではなく、むしろ微笑ましく思っている――少なくとも、周りを気にしないで良いので素直になりやすい環境になっているのかもしれない。
そして青司へ書簡を一通手渡す。
「こちら、政務部宛ての報告です。リルト商会として提出する書類ですが、内容確認は終わりました。運ぶだけで結構」
「え、俺が?」
「はい。……ああ、安心してください。提出先は商業窓口です。兵士の中を彷徨う必要はありませんよ」
言いながらクライヴは薄く笑った。
そして次に、封もされていない一枚のメモを青司の胸に押し当てる。
「それから……ロマーヌ公爵夫人からの伝達事項。正確には“助言”ですね」
リオナが覗き込む。
「助言……?」
青司が開くと、そこには地図と簡単な箇条書きが並んでいた。
——水路旧跡
——東職人街
——古い果樹園跡(市場の原型)
——写本所と古地図室
——浴場(薬草文化の入口)
——東城門の起点碑(街道の始まり)
どれも軍でも政務でもなく“生活と歴史”の地点だ。
「……観光地、という感じでもないですよね」
「ええ。王都を“都市”として理解する場所です。軍も王宮も、こういう土台の上に建つわけですから」
クライヴは肩を軽く竦めた。
「それで――今日、私はリルトへ戻ります」
「えっ、帰るの?」
「ええ。商会としての処理が山ほどあります。納品の続処理、王都の仕入れ筋の確保、あとは……まあ、秘密です」
青司が目を細める。
「なんで秘密なんだよ」
「商売ですから」
きっぱり言うあたり、実に商人らしい。
クライヴは最後に、小さく声を落として続けた。
「二人は、夫人の助言の通り、王都を見て回るといいでしょう。
王城だけが王都ではありません。むしろ外側に“熱”がある」
「……熱?」
「産業、職人、労働者、市場、文化、宗教、物流。
都市というものは、権力ではなく“暮らし”で形を成します」
それは商業側の人間ゆえの言葉だった。
リオナはまだぼんやりしながらも小さく頷く。
「でも……道、分かるかな」
「地図に印を付けておきました。あと……」
クライヴは外套の内ポケットから小さな木札を取り出した。
商業ギルドのギルド員バッチだった。
「迷ったら、これを見せて職人街の人に聞けば大体通じます」
「それ……すごく助かる……!」
「ええ。王都の職人は気が荒いですが、商業ギルドのバッチは嫌いではないので」
クライヴは荷物を肩に担ぎ、玄関へ向かった。
馬車の蹄音がぴたりと宿前で止まる。
「帰りは数日遅れて構いません。王都は滅多に来る場所ではありませんので」
「仕事は?」
「仕事は逃げません。逃げるのは人だけです」
女将が笑いながら扉を開ける。
「まったく、相変わらず口が達者だねえ」
「生業ですので」
そう言って、クライヴは馬車に乗り込む前に青司へだけ視線を向けた。
「……セイジさん」
「ん?」
「昨日、貴方は“見られた側”でした。
今日は“見る側”でいてください」
その一言だけ残して、馬車が石畳を滑るように走り出した。
リオナがぽつりと呟く。
「……なんか、かっこいいね」
「まあな……」
そして青司は、手元の地図を見て小さく息を吐く。
(都市を見る……か)
異世界の王都。
滅多に来られない場所。
それをただ歩くだけで、何かが見える気がした。
「じゃ、行こうか。まずは……水路跡から?」
「うん。人混みじゃないなら……行ける」
リオナの個人的な条件もクリアである。
◆
二人は宿を出る。
石畳は朝の光を反射し、城壁の陰には露がまだ残っている。
王都は、まだ“動き始める前”の顔をしていた。
石畳の継ぎ目に、細い土埃が詰まっていた。
午前の陽はもう高く、王都の空に雲は少ない。
クライヴに渡された封筒を青司が鞄に収めると、クライヴは女将へ顔を向けた。
「では――女将さん、例の件を」
女将はにっこり笑って頷いた。
「はいはい、王都見物ね。ちょうど暇そうなのが玄関にいますから、案内させますよ。あの子たち、こういうのが良い小遣い稼ぎなんです」
クライヴが青司の方を見る。
「王都は道一本で雰囲気も治安も変わります。商人や旅人向けの案内役を雇うのは普通のことですから、ご安心を」
ほどなくして、玄関から下町風の少年が現れた。軽い身のこなしで手を挙げる。
「案内頼まれた。ついて来て」
青司は一礼して応じ、リオナと共に宿の外へ出た。
少年は軽い足取りで先を行き、リオナはその後ろを数歩あけてついていく。人混みの薄い方向だったので、リオナの表情はまだ落ち着いていた。
「じゃ、まずは“古い水の道”だよ。職人街行くなら、これ見とかないと」
少年の言葉に軽さはあったが、道は歴史を帯びていた。
石造りの低いアーチ。
道路の真ん中に、幅半間ほどの鉄の格子。
下から湿った空気がゆっくり抜けてくる。
青司は足を止め、しゃがんだ。
格子越しに覗くと、闇の奥にゆっくりとした流れがあった。
「暗渠か……昔は開渠だったんじゃないかな?」
「そうそう。俺たちのじいちゃんの頃までは、涼む場所だったらしいぜ。今は塞がれて、“衛生”ってやつで管理してるんだと」
少年が肩をすくめる。
リオナは格子から少し距離を置きながら、小さく呟いた。
「……水の匂い。もう少し先に井戸もあります」
「そう、地形の低いとこに井戸が多いんだよ。水が集まるから」
青司の頭は勝手に線を引き始める。
(地形が支配してる……水路と産業は繋がる。王都ってのは軍と貴族の街ってだけじゃなくて、こういう基礎の上に乗ってる……)
視線の端で、格子の掃除をしている男がいた。
腰に革エプロン、肩に水掻き棒。
青司が声を掛けると、男は意外なほど丁寧に答えた。
「昔ァ、染め物の余りも、革の洗い汁も、ぜんぶ流したもんだ。今は役所や医務院がうるさくてな。水路局が年に何度か蓋を開けて点検する」
「医務院まで絡むんですか」
「病が出るからな。水は街の腹の中だ」
短い返答だったが、十分だった。
——この時、王都の別の場所。
王城政務棟三階。
硝子窓から光が差す部屋で、秘書官が報告書を束ねていた。
「卿、軍務より購入通達の写しが回っております。物品は“肌着類”とのこと」
机に目を落としたまま、後見人は頷く。
「政務では売った。軍務では買う。筋は通した。あとは都市が証拠を残すだけだな」
秘書官は「都市」と言う言葉に反応し、手元の別冊を開いた。
そこには、浴場や職人組合、商業ギルドの管轄図が精緻に描かれていた。
「……民間の動きも早いようです。黒猫亭を中心に噂が走っています」
「噂が先に走るのは良い。制度より人間のほうが軽い」
後見人は一枚の指輪を指で弄びながら、小さく笑った。
その笑いは、政務の勝利というより、“都市”を見ている政治家のそれだった。
——再び町中。
水路跡を離れると、道幅が少し狭くなった。
窓を開け放った家々から、槌で金属を叩く音が重なって聞こえてくる。
「ここからが、職人街のはじっこ!」
音と匂いと熱が混じる一角。
鍛冶屋が槌を振り下ろし、革屋が皮を伸ばし、染め物屋が桶を揺すっている。
青司は目を細めた。
匂いと音が懐かしさに似ていた。
「ここ、いいな……工具も材料も見える」
少年が笑う。
「気ぃつけろよ、兄ちゃん。店によっては客を客と思ってねぇからな。わかるやつだけ相手する奴らだ」
「そういう場所がいいんだ」
青司がそう言った瞬間、横でリオナが小さく頷いた。
「……うん。ここは匂いがたくさんで、人は少ないから、好き」
染料の匂い、煙、油、革、そして汗。
すべて“生きている都市”の匂いだった。
ちょうどその時、染物屋の前で、青司は興味深いものを見つけた。
木箱の中に、瑠璃色のコットン地がきれいに畳まれている。
(おそらく藍。だけど深い……媒染が違うか?)
手を伸ばそうとしたとき、染物屋の親父が顔を出した。
白髪で腕は太く、無駄な言葉を嫌いそうな目をしている。
「触るなら手を拭いてからだ」
少年が慌てて言った。
「親父さん、この兄ちゃんは悪い奴じゃないんだ。布にも詳しいんだとよ」
親父は青司の手を見た。
革の匂いと木の跡が残る指先。
「ああ、仕事の手か。なら触れ」
許可は一言だったが、歓迎に近かった。
青司が布をめくると、色の層がわかる。
何度も浸して引き上げるやり方だ。
深さと艶が出る。
「これ……いい仕事じゃないですか」
親父は鼻を鳴らしただけだったが、目は嬉しそうだった。
——その頃、王城の別棟。
軍務局兵站部。
紙の束が何枚も机に広げられ、物資仕分け官が判を押していた。
「肌着類……肌離れの良いもの……“縫製済み”……なるほど。汗落ちと摩擦軽減ですか」
副官が小声で問う。
「兵站にとっても重要か?」
「補給で汗は運べません。衛生は士気に響きますし。地味ですが効果が出ます。問題は、どこから流れてくる品かです」
副官が書類を見て眉を上げた。
「……“ホヅミ商会”とあります。できたばかりの、小さな商会です」
「小さくても構わん。都市は小さな管から栄養が流れてくる」
物資仕分け官は淡々と言い残し、次の印を押した。
都市は静かに回っていた。
誰も声高に語らないまま。
——再び職人街。
青司は布を戻し、親父に短く礼をした。
「いつか材料を買いに来ます」
親父は背中を向けたまま言った。
「買うだけなら来るな。使うなら来い」
青司は笑った。
「……最高だな、ここ」
リオナもくすっと笑い、尻尾を揺らした。
職人街の奥へと進むほど、“人の仕事”が増える。
青司の胸の中で、さっきの暗渠と今の職人の音が一本の線で繋がっていった。
(水と産業。基礎と筋肉。都市はこうやって生きてるんだ……)
次は浴場へと向かう道だ。
その先に、クライヴから渡された封筒の行き先——行政府が待っている。
そして裏では、政務と軍務が同じ都市を別の角度から動かしていた。
都市は表と裏で同期していた。
職人街の北端を抜けると、音の熱がすっと引いた。
代わりに石造りの建物と、水の気配が増えていく。
案内の少年が指を伸ばした。
「んじゃ次は浴場通り。昼過ぎは客が少なくて見やすいんだ」
その言葉通り、昼の浴場周辺は落ち着いた空気を纏っていた。
広い石畳、低い街路樹、そして建物から立ちのぼる白い蒸気。
建物は木と石の混構造。
入口には大きな桶が二つ置かれ、薬草や油の香りが漂っている。
青司とリオナは足を止めた。
「……湯の匂いと、葉っぱの匂いで溢れてるわね」
リオナが鼻をひくつかせ、少し表情を緩める。
少年が説明を挟んだ。
「男湯と女湯で分かれてるけど、手前は“洗い場”っていってさ、市井の医師とか薬師とかが来るんだ。体の具合を見てくれるんだよ」
(医療と衛生が繋がってるのか……)
青司が興味深そうに見ていると、背後から声が飛んだ。
「そこの若いの、見学か?」
振り返ると、腰に布を巻いた屈強な男が桶を担いでいた。
髪は短く、腕は太い。だが目は穏やかだ。
少年が答えた。
「客じゃねぇ、見物。王都初心者」
「なら、いいもん見せてやる」
そう言うと男は桶を指で示した。
「これ、薬湯の元。医務院の監修だ。季節で配合が変わるんだが……今年は“夏の咳”が出やすいってんで葉を増やしてる」
青司は桶の中身を覗き込む。
刻まれた葉、砕いた樹皮、乾燥柑橘の皮、岩塩。
(これは……清涼と去痰、血行……あと香りづけか。温浴で吸わせるのか)
「触りてぇなら乾燥のやつ触れ、濡れたやつは後」
男が差し出した袋には乾いた葉だけが入っていた。
青司はひとつ摘まんで指の腹で砕く。
指先にわずかな粘りと香り。
「ミントと……タイムに似てる香りも?」
男が少し驚いた目をした。
「……お前、何処で覚えた」
「森です」
リオナが横から即答した。
男は声を出して笑い、袋をしまった。
「医務院に勤める気はねぇか? 森の鼻を持ってる奴は少ねぇぞ」
リオナは慌てて首を振る。
「む、無理……です……!」
男は笑いながら浴場の奥へ戻っていった。
青司はその背中を見送りながら呟く。
「これ……軍にも効くな」
少年が「は?」という顔をする。
「軍はどうしたって体力を削る。戦場に限らず、鍛錬でも。休養できないと兵士の能力は戻ってこないだろ」
知らずに出た軍的視点に、自分で少し苦笑した。
少年は鼻を鳴らす。
「軍の保養施設は、ここよりずっと良いって噂だぞ。
むしろこういうのは街の連中とか職人のほうが使うもんだ」
青司は少し驚いて少年を見る。
「保養施設?」
「軍の領地内とか、城下の南にあるって聞いた。
ほら、城勤めの衛兵とか騎士が“湯治に回された”とかいう話な。
普通の奴には縁がねーよ」
(軍専用の衛生機能……とっくに存在してたのか)
思わず心の中で感心しながら、青司は小さく頷いた。
「じゃあ、市井に開かれてる浴場は……」
「民とか商人とか職人用。軍は軍で別。
ここは“町の肺”みたいなもんだ」
その言葉は素朴だが、政治的にも構造的にも正確だった。
リオナが横で小さく言う。
「……ここ、好き。匂いがきれい」
たしかにここは人混みは少なく、匂いは優しかった。
その時、少女二人が薬湯用の葉を抱えて浴場に入っていった。
肩には医務院の印。
——その頃、王城南棟 医務院兼書庫。
白衣ではなく、淡い灰色の衣服を纏った書記官が机に広げた表に目を落としていた。
患者数の推移。
季節ごとの症状。
王都の衛生状況。
その横に置かれた別紙には軍務の補給計画があり、さらにその下に小さなメモが添えてある。
《吸湿速乾導入効果》
・汗疹/皮膚炎/裂傷/真菌感染 減
・汗冷え/低体温 減 → 熱中症/体調不良 減
・匂い/不快感 減 → 集団生活ストレス↓
・訓練/行軍時の回復効率↑
・擦過傷/摩擦減 → 行軍距離↑
・衣類交換頻度↓ → 洗濯/乾燥設備負担↓
・布の腐敗/劣化減 → 支給サイクル延伸
書記官は淡々とインクを走らせた。
扉が開き、医務院の助手が葉束を持ち込んだ。
「本日の浴場薬湯、使用量です。予定通り夏型に寄ってます」
書記官は頷き、小さく呟いた。
「市民が咳を減らせば、兵士も減らせる。都市の健康は軍の底にある」
裏の同期は、声を上げずに前進していた。
——再び浴場前の道。
案内の少年が手を叩いて言った。
「んじゃ次は最後。行政府。そこで書類出したら今日の分は終わり」
リオナは小さく息を吐いた。
「……人、いる?」
「昼過ぎはそんなでもねぇよ。窓口で順番待つだけ」
青司は鞄に手を当てた。
クライヴから渡された封筒の重みが地味に効いている。
行政府は浴場から少し離れた、丘の上にあった。
白い壁、赤茶の屋根、そして隊商や馬車が静かに行き交う広場。
街の“制度”が詰まった建物だ。
中へ入ると、涼しい空気と紙の匂いがした。
整理された椅子、区分の札、大理石の床。
「窓口三番。商務」
少年に促されて列に並ぶ。
前に並んでいるのは、布を抱えた商人、帳面を持った少年、手紙を束ねた組合員らしい男。
待つ間、青司は掲示板に目をやった。
——納税期のお知らせ
——浴場料金改定
——井戸水点検
——職人資格更新
——軍務物資の取引申請簡略化
(軍だけじゃなくて、市民も浴場も井戸も並んでる……)
都市が“生活全体”で回っているのがわかる。
順番が来た。
窓口の女書記官は無駄のない手つきで帳簿を開いていた。
「書類を」
青司は封筒を差し出す。
書記官は中身を確認しながら淡々と言う。
「軍務局経由の受領確認……商業証票……ホヅミ商会名義……はい、問題ありません」
判が押され、控えの控えまでセットされる。
「こちらが控え。三か月以内に再提出は不要です」
(……異世界、紙の管理文化が強いな)
横でリオナは静かに周りを見渡していた。
人は多いが、争う気配がない。
番号と窓口があるだけで人の動きが整理される。
少年は鼻を鳴らした。
「な? お役所ってみんなかてぇんだよ」
リオナはきょとんと目を瞬かせた。
「かたい……?」
「軍も似たようなもんだ。規則と書類で動く」
青司がそう言うと、少年が「ほらな」という顔で腕を組んだ。
建物を出た瞬間、青司は胸の中で水路・浴場・行政府が一本で繋がったのを感じた。
(水→衛生→制度。人→産業→軍。
今のところ都市は六角形で動いてる……やろうとしているのは“持続する強さ”の構築か。たぶん、偶然じゃなくて意図的なんだろうな)
王城が都市を直接支配しているのではなく、都市が王城を支えている。
(水路→浴場→衣類→衛生→労働→軍事。
水があるから洗える→洗えるから身体も衣類も保つ→
衛生が保てれば病気が減る→労働力が維持される→
軍は徴募も訓練も安定する……こんな考え方もできるのかもしれないな)
その構造を、青司は初めて“身体で”理解した。
丘を降りながら、少年が言う。
「今日はもう終わり。あとは好きに見物してけ。帰りゃぁ王都の印象も変わるだろ」
リオナは青司の袖を引いた。
「……ねぇ。」
「ん?」
「王都って……怖くない」
青司は少しだけ笑って答えた。
「それは、たぶん、そうなるように作られてるからだよ」
——その頃、王城の政務棟。
後見人は控えの一枚を受け取り、目を細めた。
「商務局まで通ったか。都市はよく仕事をする」
秘書官が問う。
「卿はご満足で?」
後見人は首を横に振った。
「いいや。“都市が満足”しているかどうかだ。政治は都市に追いつかねばならない」
静かな声で続ける。
「動くのは王ではなく、都市だ」
王都は今日も表と裏で同期していた。




