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愛の導  作者: 瀬名柊真
五章 トラウマ
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9

初の”圭吾side”

それは少しだけ昔のこと。


「ねぇ、お姉さんについてこない?」


そうやって声を掛けてきたのは顔すら思いだしたくない女だった。まだ、年若くて、それなのに化粧品の臭いと、強い香水の臭いがした。


「いや、あの、そういうのは……」


当時は、そんな女への対処方法など分からなくて、しどろもどろに返答するしかなかった。すると決まってアイツらは言うのだ。


「そうはいっても、本当は気になるんでしょう?」


違う。別に興味なんてない。ついていきたくなんてない。そんな事を紡ぐ前に、奴らは腕を引いて勝手に進んでしまうのだ。

昔からほんの少しだけ背が高かった。足が速かった。勉強が出来た。だから、同級生や後輩問わず、モテていたのはモテていた。そして、それを特段嫌に思ったことなどなかった。

変わったのは、あの女と出会ってから。そいつは、見た目でかっこいいからと話しかけてきた。

何も言わせてくれはしない。興味がないことも、今直ぐにでも逃げ出したいことも。ナンパの常套手段だから仕方ないのかもしれないが。

その女のときは無理やりカフェにまで連れ込まれた。寂れた、小さなカフェ。その時から女という生き物が無理になってしまったのだ。

思いだしたくない。忘れたいのに。いつまでも記憶の底を気持ちの悪い薄ら笑いを浮かべた怪物が巣食っている。

今でも時折吐き気がしてくる。


「こうしてみると良いものでしょう?付き合ってみない?」


なんて言ってくるけれど、そんなことは全然なくて、とてつもなく不快で。けれど、大人に反抗するのは怖い。

大人に子供が勝てるわけがない。

だから、ただただなされるがままだった。

女が連絡先を交換しようと、無理やりスマホを取ってきた時、ようやく危機感を憶えた。その時までは、何も出来ないという先入観が邪魔をしていたのだろう。

女が連絡帳を開こうとした直前で、勝手に体が動いた。

女の体を蹴飛ばし、手に持っていたスマホを奪い取る。幸いにも投げられる前に取ることが出来た。蹴飛ばした女は吹っ飛んで、近くの棚にあたり気絶してしまったらしい。あんな女がぶつかってしまった棚には申し訳なく思った。

スマホを取った時一瞬だけ躊躇した。本当は、こんな女が触れたものなど触りたくもなかったからだ。だが、家族に余計な出費を出させるわけには行かない。

忘れ物の有無も確認せずにカフェを飛び出した。会計を求められたが、全部あの女につけておいた。連れ込んだのはアイツなのだから文句はあるまい。というか、小学生に会計を求めるのもどうかと思う。店内で人が気絶したというのに金を請求するあたりは狂っているとしか思えなかったが。

見知った通りまででて、ようやく一息つく。

痛いほどに心臓が脈打って、まともに呼吸すら出来なかった。景色もぼやけてはっきりと見えない。ただ、人が多いことだけが分かった。

それでも、家に帰ろうと呼吸を整えると、ようやく周りの景色がはっきりと見えてきた。


「大丈夫ですか?」


丁度その時、しんどそうだったから見かねたのか一人の女が話し掛けてきた。

女だ。そう認識した途端、思わず手を叩いてしまった。

きっと先程の影響だ。そんなつもりはなかったのに反射的にやってしまった。


「ちょっと!せっかく声を掛けたのに何すんのよ!?」


その声すら、頭に響いて、とにかく早く去ってほしい気持ちで一杯になった。吐き気がする。気持ち悪い。

女は嫌気が差したのか、願い通り直ぐに何処かへ行ってしまった。女が居なくなったことにホッとした。けれど。


「見ろよ。せっかく心配してくれた人、あいつ叩いたぜ?」


「あの高校生、まじやばい。どこの高校か分からないけど、分かったらクレーム入れとこ」


「よく見たら服も乱れてるし。親の品性を疑うわ」


色んなところから自分に対する嘲笑が聞こえる。やめろ。やめてくれ。違うんだ。俺は……。

自分の所為で親にまで矛先が向いたのは嫌だった。気がつけば、往来だというのにもかかわらず、そいつのことを殴っていた。

そいつは年が行った中年の女だった気がする。とにかく、女であることに変わりはなくて、さっきまで自分が受けた恥辱を晴らすかのように警察が止めに入るまで殴り続けた。

長身の所為でいつも嫌な目にあった。だが、こうして、自分よりも圧倒的に年上のクソを難なくボコせる。それだけは感謝した。

幸いにも、長身に生んだ両親に恨みはない。女であるおふくろも姉ちゃんも、俺は大好きだ。

往来で激しくやりすぎた所為か、警察に事情聴取をされる羽目になった。家族まで呼び出されるらしい。

それは止めてくれと頼んだが、結局聞きいれてもらうことは出来なかった。

例の中年女は意識不明で救急搬送されたそうだが、それを聞かされても何も思わなかったし、むしろ一生目覚めるなとさえ思った。あぁ、我ながらひどく荒れていた。家族を貶したとはいえ、別に俺自身は手出しされていないのに、そんな事を思っていたのだから。


「何故殴ったのですか?」


「家族を馬鹿にされたからです」


「そんな子供じみた理由であんな事をしたのかい?全く、高校生なんだからもっと我慢出来たでしょ。で、どこの高校に行ってるの?」


まただ。また、間違えられる。女の警察官だとまともに話せない所為か、男の警察官になったが、こいつはこいつで俺のことを舐め腐っている。


「俺は小学生です」


そういったのに、まともに取り合おうとすらしない。


「もういいよ。そういうの。怒らないからとっとと白状してくれない?あとで親御さんに聞いたら全部分かるんだよ」


そうしか言わない。聞くなら勝手に聞いてくれ。それで間違いでもお前らはなにもしないくせに。事務的に、不服そうに謝るだけのくせに。

なんの進展もない押し問答に不快感が募り始めた頃、ようやく親父と姉ちゃんが来てくれた。

あんなに女が嫌だったけど、姉ちゃんは嫌じゃなかった。逆に安心すらした。

後からおふくろもきて、家族皆で説明してくれた。

あとでこっぴどく叱られたけど、それでも良かった。でも、家族に、女に連れて行かれそうに鳴ったということだけは話せなかった。誰にも話す気はなかった。

心配なんてさせたくない。

同情もされたくない。

全てなかったことにしたかった。

だって、姉ちゃんたちは着いてそうそう言ってくれたんだ。


「圭吾!大丈夫?」

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