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愛の導  作者: 瀬名柊真
四章 疑惑
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8

side沙良

しとしとと降っていた雨も収まり、夕暮れに虹が映えていた。

だが、そんな景色とは対象的に沙良は一人だ。上を見上げればきれいな虹があるけれど、それを見ようという気にはなれない。


(一人で帰るのってこんなに寂しかったっけ?)


最近はずっと千秋と一緒に帰っていたから前までがどうだったか思い出せない。ただ道路側だけがどうも淋しい。

ハァ。と重苦しい溜息ばかり吐いてしまう。


「ねー!沙良ちゃん!だよね?」


久しぶりに聞く声に思わず振り返る。この声は、間違いなくーー。


「彩夏ちゃん!?久しぶりだね!」


大親友の彩夏だ。大学に入学して以来、互いに忙しくてほとんど遊べなかったが、こんなところで会えるとは奇遇なこともあるものだ。


「沙良ちゃん、こんな時間に一人とか珍しいね?東城先輩は?」


「用事があるって先に帰っちゃった。彩夏ちゃんこそどうしたの?いつもこの時間は塾があるって言ってなかったけ?」


沙良の言葉に、決まりが悪そうに彩夏が頬を掻く。


「実はさぁ~。塾長が倒れたっぽくて。いきなり塾が閉まっちゃったんだよね」


「え?嘘!?そんなことあるんだ。塾長さん、早く治ると良いね」


「そうだねー。でも、うちとしては、暫くは塾なしのほうが良いかもしれない。不謹慎だけど」


「あははっ!私も彩夏ちゃんだったらそう思うかも!」


LINEでやり取りしていたとはいえ、やっぱり直接話す方が楽しい。

繁華街を歩きながら話していると自分たちが高校生の頃に戻ったようだった。たった一年間がこんなにも昔のことに感じるとは思わなかった。


「あ、そうだ。実は今日さー、近くの……」


「姉ちゃーん!」


彩夏が何かを話し始めたときに、圭吾がこちらに向かってダッシュしてきた。最初は小さな影だったのに、あっという間に眼の前にきている。さすが、小中高とエースをやってるだけあった。

美術部じゃなくて陸上部のほうが活躍出来そう。なんて思ったのは心の中だけに留めておく。やっぱり、圭吾には圭吾の行きたい道を進んで欲しい。


「やっぱり姉ちゃんだ!と、隣にいるのは……」


圭吾は、彩夏を見た瞬間に喉を引くつかせた。「あ、ふ、古谷さん。お久しぶりです」

圭吾と彩夏の間に面識がないわけではない。わけではないのだがーー。


「やっほー!圭吾くん。久しぶりだねー?」


彩夏は呑気に挨拶しているが、沙良は知っている。圭吾は今、凄く逃げ出したいと。かといって、本当にそうするわけにもいかないし、どうしたものかと葛藤していることも。原因はおそらくアレの所為だ。沙良としては、彩夏には安心しといてほしいという気持ちがあるのだが、それを求めるのは難しい話だろう。母と沙良には怯えていないだけ、満足すべきなのだ。きっと。


「圭吾!なんで此処にいるの?」


「テストの日って、大体この時間に彼氏と帰ってるだろ?だから、会えると思って」


「え゙。見てたの?」


「うん」


話しながら少しづつ、圭吾を彩夏から遠ざける。距離が開けば、圭吾も少しはマシになるだろう。


「そういや、冷蔵庫の中って何は言ってたっけ?」


「んー?卵と、肉と、キャベツと……覚えてないな。あ、あとは姉ちゃんがこっそり買ってたマカロン」


「……何故それを知っている……。巧妙に隠したのに」


「なんかないかなー?って探してたら見つけた」


「食べた?食べてない?」


「……一個だけ……」


さて、沙良と圭吾の間で姉弟喧嘩でも勃発しそうな雰囲気を綺麗に壊してくれた人がいる。


「ちょっと、そこの二人?うちのこと忘れてない??」


彩夏だ。先程から話に入るタイミングを見失っていたらしい。


「忘れてないよ!そういえば、さっき何話そうとしてたの?」


慌てて、忘れていないアピールをする。ついでに話題のすり替えも。


「え?あーとね、そーそー。東城先輩と一ノ瀬くんが喧嘩?口論?してて」


「千秋先輩と、一ノ瀬くんが!?」


あの二人が一緒にいるところ、ましてや口論しているところなんて想像出来ない。そもそも一体いつそんな事をしたのだろうか。


(あ……!)


ふと思い当たったのは、つい先程の勉強会。可能性は低いけれど、二人で自販機まで行っていた。それに、そうだとすれば、拓海が帰ってきてから直ぐに用事だと言ったのも納得がいく。


「うん。うちも意外だったけどねー。一回東城先輩と話したけど、ふつーにいい人そうだったもん。とにか

くね、その時に、東城先輩が、一ノ瀬くんに沙良ちゃんと関わんなとか言ってたし、束縛?とか言うワードも聞こえたから一応忠告しとこうと思って」


「そう、なんだ。分かった。ありがとう。気をつけるね」


丁度、分かれ道ま出来たのでそのまま「ばいばい」とだけ言う。


「圭吾。大丈夫だった?」


「……まぁ、ちょっとしんどいけど、姉ちゃんがいたから。それに、あの人は姉ちゃんの友達だし……」


「そっか。家に帰ったら、ゆっくり休んでね?」


「うん」


少し歩くと、直ぐに家に着いた。

それから、ご飯の準備をする。圭吾が言っていた食材を聞いて作ろうと思っていた料理は作れそうだ。というか、マカロンが三つ買ったはずなのに残り一つだ。もしや、一個だけとは、一個だけ残したということだったのか。こすい。

マカロンの仕返しに、たっぷりとご飯をもってやった。少食な圭吾のことだ。食べきるのは難しいだろう。

これを食べきって、もっと大きくなれってんだ。

仕返しと言うよりも、余計なお世話と呼ぶほうが正しいかもしれないが、そんなことは無視だ。

適当におかずも作って、圭吾を呼ぶ。どうせ下りてくるまでにラグがあるだろうから、湯船も張っておく。

それから一緒にご飯を食べた。二人だけだと、両親の前では出来ない雑談が出来て楽しい。話す内容は様々だが、一番多いのは学校の話だろうか。両親がいると愚痴なんて吐けないし。

ご飯を食べ終わったら、お風呂に入って、それから各々眠りについたのだった。

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