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愛の導  作者: 瀬名柊真
四章 疑惑
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7

再び”side沙良”

「千秋せ……」


「先輩はいらないって言ったでしょ?」


「う……千秋……」


「なぁに?」


「距離が近すぎるよ……もうちょっと離れて」


「えー?」


千秋と沙良がこんなにも甘々な会話をしているのには理由がある。というのも、つい先程沙良が拓海のことを話題にしたからだ。


「一ノ瀬くん、用事があるって帰っちゃったけど。大丈夫かな?」


「大丈夫じゃねぇの?別に心配する必要ねぇだろ」


「それもそっか。ていうか、経営学って言ってたよね?楽しいのかな?」


「知らねぇけど、そうなんじゃね?ところでさ、沙良……俺といんのに他の男の名前出すの?」


「え?……あ、ごめん」


「じゃあ、お仕置きとして俺のこともっと甘やかして」


こうして、お仕置きと称して千秋が甘えているのだ。

まぁ確かに、千秋といるのに拓海の話を出してしまった沙良も悪い。というか、沙良が悪い。もともと拓海に嫉妬してたくらいだし、話題に出せば嫌がるのは当然だろう。

それでも一緒に買いに行っていたから行けるのではないかと思ったのだが。帰ってきたときにはなんだか仲が微妙そうだったし、沙良が話題に出すことで仲良くなってくれればな、とも思っていたが逆効果のようだ。

だが、いつも沙良のことをリードしてくれる千秋が、こんなふうに子供っぽくなるときは可愛いし、照れるけれど嬉しいことでもある。しかも、そういうときはたいてい二人きりだから周囲の目を気にする必要もない。

沙良は普段から千秋に甘えているが、千秋からなんて本当、少ないのだ。に、してもだ。千秋が嫉妬した後は、こんなふうに甘えたりはしない。絶対に。

甘える時は基本的に不安なときだが、嫉妬のときだけは違うのだ。

取られるかもしれない。

離れられるかもしれない。

そう思った時は、沙良が離れないように束縛する傾向のほうが強い。

そちらのほうが安心考えられるからだろう。だから、こういう時は、嫉妬の他になにか原因があるのだと考えるべきだ。

それに、普段の千秋なら絶対に教室でなんて甘えない。その場に誰もいないときでも、校内でやるのはリスクがあるからだ。例えば、忘れ物を取りに戻ってきた人に見つかったら?たまたま警備が見回りに来たら?そういう事が起こりえる場所が教室だ。沙良との関係はなるだけ知られたくないため、千秋はこういうところは避ける。何故知られたくないのかは沙良にも教えてくれないが。

とにかく、こういう事をしてるということは、なにかしら千秋の心に異常が生じている証拠だ。

沙良は千秋のことが心配でならなかった。


「千秋……なにか嫌なことでもあった?」


「嫌なこと?そりゃ、一ノ瀬なんかと沙良が話してんのは嫌だし、一ノ瀬の態度だって気に食わない」


「嫉妬してるってこと?」


「あぁ、まあ」


千秋にしては歯切れが悪い。必ず他にもなにかあるはずだ。何年の付き合いだと思っているのか。沙良のことを舐めないで欲しい。


「それだけじゃないよね?なんか他に隠してるでしょ」


「……いや、ほんとうになにも……」


「嘘。絶対、嘘。本当のこと教えて?千秋」


「……ズルい……」


「え?」


千秋の言葉の意味が分からなくて思わず聞き返す。何がズルいのか。そういわれるようなことをしただろうか?


「なんで沙良ばっかり俺のこと気づくんだよ!俺だって、沙良のこと気づきたいのに……」


「そうは言われても……ねぇ?」


「ハァ……俺の努力が足りないってことかな。それで、悩み事、だっけ?」


「うん。そうそう。絶対なんかあるよね?」


「……会うんだ」


いやいやというように千秋が言った。会う?誰と?どこで?千秋が会いたくないような人物って……まさか。思い当たる節がある。だが、それが事実だとしたら、千秋のことが心配でならない。


「まさかと思うけど、あの人、だったりする?」


「……あぁ」


「千秋、大丈夫なの?私もついていこうか?」


「大丈夫だよ。俺も成長したんだし、今更ビビんねぇよ」


そうは言うが、千秋は少し震えている。やっぱり怖いんだろう。そりゃそうだ。沙良だって千秋の立場なら会いたくないし、怖い。


「またお金せびられるんでしょ?もう、断ればいいじゃん」


「俺もそうしてぇんだけど、それで沙良に手を出されたらやだし」


あいつ、情報網だけは広いから。と、忌々しげに千秋は言う。どこまでいっても沙良のことを考えてくれる優しい人だ。千秋は。少しだけ不器用だけれど。


「何時に会うとか決まってるんでしょ?時間大丈夫?」


「あ゙……、沙良……今何時?」


「今?だいたい五時前だけど……」


「やっべ!今日買い物いかないとなんだった!あいつと会う前に終わらせねぇと!」


「え?それ間に合う?大丈夫?」


「今から帰ればギリなんとか!わりぃ沙良。俺、先帰るわ。ゴメンな送ってやれなくて」


「え?あ、うん。気を付けて?」


先程までの甘えたがりが嘘のように千秋は教室を飛び出していった。千秋のことは心配だが、この調子ならなんとか乗り切ってくれるはずだ。

それにしても急遽残された沙良は、戸惑うばかりだ。教室には、千秋も居ないし、テストの振り返りも出来ないし、というかやる気が無くなったし。

誰かと話そうにもそんな人もいない。せめて拓海がいてくれたらなぁ。なんて思うのだが、帰ってしまった。というか、拓海と話したら千秋が怒りそうだ。いなくてよかったかもしれない。

結局、することは見つからないし、沙良も帰ることにした。

適当に荷物をカバンに詰めて、携帯を見る。

通知が溜まっていたが大体は公式だ。来てるのは母親からの連絡だけ。


『今日は遥斗くんとデートだから、自分たちでご飯を用意してね』


自分たちで用意、か。冷蔵庫何が入ってたっけな?なんて考えながら、沙良は教室を出た。

「また明日」


誰もいない教室に、沙良の声が響いた。

今後、視点の転換が多くなると思うので、毎回誰sideか書くことにします。

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