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愛の導  作者: 瀬名柊真
二章 家族
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「よし……!なんとか守りきった……!」


鬼ごっこの結果は沙良の勝利。といっても、圭吾には追いつかれたのだが。逃げながらデータをメールで送ったのが勝因だ。おかげでスマホのデータは消されたが、写真自体は残っている。


「あれはズルじゃね?」


「はっ!ズル?だとしても私の勝利だから!」


「はぁ!?おっとなげねぇ!それでも年上かよ!」


圭吾の言う通り、三歳も離れているのに大人げないとは思う。そもそも、高校性と大学生で追いかけっこをしているのも問題だとは思うが。

だけど、これは譲れない戦いなのだ。なにせ可愛い弟の普段見せない照れ顔なのだから。永久保存しなければならない。そう、沙良は重度のブラコンなのだ。圭吾大好き。圭吾可愛い。能の半分くらいは圭吾と千秋かもしれない。何なら、千秋よりも圭吾のほうが断然大事だ。こんなこと、千秋に知られたらメンタルがヘラりそうなので言えないが。


「そんな事して良いんだな?俺だって、姉ちゃんの照れ顔持ってるんだぞ!」


そんな姉の弟だ。勿論、圭吾も重度のシスコンである。向けられたスマホに思わず沙良は喉を引くつかせた。

なにせ、そのスマホに映っているのは、およそ自分とは思いたくない、まさしく恋する乙女の顔をした自分だったからだ。


(こんな物いつ撮ったの!?)


「いつ……って、千秋?とか言う人のことを話すときはいっつもこんな感じだぞ」


思ったことが声に出ていたらしい。圭吾がそう言ってくる。もう、恥ずかしすぎて死んでしまいそうだった。まさか、弟にこんな惚気顔を見せていたなんて。思わず顔を覆って崩れてしまった。


「うおっ。そこまで恥ずかしいか?まぁ、そろそろダイニング戻ろうぜ」


おふくろも早く戻ってこいって思ってるだろうしな。そう、圭吾は続ける。

だが、沙良が中々動かないからか、圭吾は沙良のことを無理やり立たせて、引きずっていく。

思っていたよりも圭吾の力は強くて、男の子なんだなぁ。と改めて思う。ずっとただの弟だったから、一人の男の子だと理解したのは初めてかもしれない。それでも、可愛い弟であることには変わりないのだが。

沙良が弟の成長を感じてにやけ付いている所為で、ズルズルと引きずっている人と、引きずられているに笑っているという気色の悪い構図が出来あがってしまった。


「ーーで、あのときは怖かったなぁ」


ドアに近づくと、父が何やら話している声が聞こえた。


(これって……話し終わるまで入らないほうが良いよね?)


そう思って躊躇する沙良の気持ちなどつゆ知らず、圭吾は無遠慮にドアを開けた。


「戻ってきたー!で、おふくろと親父はなんの話ししてたんだ?」


「ん?おかえり。今は、真奈さんと初めてであったときのことを話してたんだよ」


「親父とおふくろの馴れ初め?なんそれ。気になる」


「気になる、かぁ。じゃあ、いつか話そうな」


「えー。今じゃないのかよ」


圭吾が不満げに唇を尖らせる。父は苦笑いするばかりで、本当は話す気がないんだろうな。と沙良は思った。

いつもそうだ。父は、昔から過去の話を茶化す。けれど、その話をしている時の父の顔は真剣で、少しだけ寂しそうだから無理に深入りは出来なかった。そして、それは今日とて例外ではなかった。

だが、いつか。いつか心変わりをしないだろうか。大切な家族のことだ。沙良だってちゃんと理解したい。だから、いつかきっと話してくれるだろう。そう思って、沙良は家族の会話に混ざるのだった。

数時間もすると、眠たくなってきた。圭吾はとっくに寝落ちしている。部屋に戻らなかったのは不思議でならないが、圭吾も家族と一緒にいたかったのだろう。

なにか良い夢を見ているのだろうか。落ち着いた顔をしている圭吾にそっと毛布をかけてやる。


「沙良、ありがとう。でも、そろそろ沙良も寝たらどう?」


母が心配そうな顔で話し掛けてくる。


「ううん。もう少し起きてたい……ふわぁ……」


起きていたいといった矢先からあくびが出てしまうのはいかがなものか。ほら、母も父も早く寝ろという顔をしている。

まだ寝たくない。だが、あやすように頭を撫でられるとぼんやりと意識が飛んでいってしまった。

どこか、浅瀬にいる。記憶の中の浅いところ。誰かが話しているような気がした。

水音がして、此処が夢の中であると気がつく。所謂明晰夢というやつか。

人生で初めてかもしれない。眠りが浅いから明晰夢を見ているのだろうか。

話している人影はぼんやりとしている所為で定かではない。話の内容もなんだかよく聞き取れなかった。

自分の夢なのにおかしな話だと思う。

それでも何を話しているのか少しでも聞き取ろうと耳を澄ませる。


「……だから、……で……」


「でも!だからって……あの子も……」


「だが、それで……どうする?」


「そんな事……だって……でしょ?」


「……そう、だな」


それぞれ男性と女性の声だった。どこか聞き馴染みがあるような気がするが、はっきりと思い出せない。

頭がうまく働いていないのだろうか?それとも、ただ単に覚えていないだけ?

腕を引っ張られる感覚がしてそちらに意識が向く。

引っ張っている人物は知っているはずなのに、顔だけがボケて見えない。黒塗りされたようだった。

謎の人物に引き摺られて進んだ先は、湖だった。こんなところに入れば溺死してしまう。

そう思って立ち止まるが、構わず謎の人物は進む。

沙良など簡単に動かせる力強さの所為で、どんどんと湖の中に足が浸かっていく。やがて、全身が湖の中に入ってしまった。

しかし、不思議と息は出来る。

湖の底には他にも人が居た。はっきりと輪郭が見えるその人物は千秋だ。

何故千秋だけはっきりと見えるのだろうか?

そんな疑問は直ぐに吹き飛んでしまう。

千秋が「沙良」と口を動かした瞬間に、水面が揺れ、拓海が現れたからだった。

夢にまで見るほど拓海のことに興味はないはずだが、何故だろうか?

答えが出ないまま、ゆらゆらと拓海を眺める。


「むかえ……から」


拓海の口が動いた瞬間、息が出来なくなった。ゴボッっと吐いた息だけがやけに鮮明だった。

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