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愛の導  作者: 瀬名柊真
十七章 発覚

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side響也

「ただいまー!」


「あれ?響也!帰ってきたんだ!」


 仕事の時の威厳とは無縁の、一種幼児退行を感じさせる響也の声が響く。対して、返ってくるのは少し上品さを纏ったナターリアの声。

 玄関先で靴を脱ぎつつ、響也はナターリアに声を掛けた。


「今日、相談乗ってくれない?」


「相談?いいよ」


 ナターリアは相談に快く応じてくれた。だが、経営もうまく行っている中、相談といえば、拓海の事の外ありえない。だからか、少しだけ不安そうな顔をしていた。

 響也の所為でナターリアが不安になるのは嫌だ。しかし、このまま拓海を放置するのも嫌なのだ。将来的に見て、拓海のことを放置すれば、ナターリアはきっと不安に思う。だったら、その不安を今持ってきて、後々安心させてやるほうが良いのではないだろうか。

 そう考え、響也は相談を持ちかけたのだ。


「ごめんな。不安にさせるつもりはないんだけど、どうしても解決しなきゃいけなくて」


「ううん。大丈夫。やっぱり……拓海のこと、だよね?」


「うん。ナターシャとなら、なにかいい案が出るんじゃないかと思って」


 響也がそう言うと、ナターリアはしばし思案していた。それから小さく息を吐くと、元気溌剌な顔になり、大きく頷いた。


「わかった。ご飯は用意出来てるから、食べながらにしよっか」


 そう言うと、ダイニングに戻ってしまった。きっと食事をセッティングしているのだろう。響也は、どう話を切り出そうかと考えながら、ナターリアの後を追うようにダイニングに向かった。

響也もナターリアも、もう直ぐ五十近くになるというのに、傍から見ればバカップルと変わらないことをしていると思う。いや、傍から見れば、そもそも五十には見えないから別に構わないか。

 ただ、響也に比べて、ナターリアのほうが見た目の若さが変わっていないから、少しアレだが。

 それで言えば、今回の話の中心である拓海もそうだ。ナターリアの血を引いているだけあってそこら辺の男性よりかはよっぽどきれいな顔立ちだ。しかも、それが、日本人らしいというのがこれまた厄介で、誰も拓海のことをハーフだとは思わないのだ。分かって見れば、肌の白さや、造形の人形らしさはナターリアのようなのだが、響也の血が濃いのか、中々気づかない。まさしく、両親のいいとこ取りをしたような子だ。風の噂では、拓海のファンクラブが他校でも出来ているのだとか。親としては複雑な心境である。

 それはさておき、テーブルの上にはピロシキだのが置かれている。とても美味しいから、普段なら嬉しいのだが、相談の場となっては、別の日に食べたい気持ちがある。


「美味しそう。やっぱりナターシャは料理上手だね」


「そう?響也にそう言ってもらえるならすごく嬉しい」


 ナターリアおすすめのボルシチを食べる。口内に広がる風味が、ナターリアの国を思いこさせた。仕事の関係で数度だけ行ったことがあるが、中々に寒い。次に行くなら夏にしようと思いながら常に冬に行ってしまうのをどうにかしたいくらいだ。


「それで、拓海のことなんだけど……」


 改まって言うとなると緊張する。親なのだから間違いはない。無いと思うのだが、如何せん拓海は子供の頃から何を考えているのか分からない節がある。間違っていたら申し訳ない限りだ。

 そんな響也の悩みを見透かしたかのように、ナターリアは言った。


「間違ってても大丈夫。不安に思ったのなら、早めに言っておかないと」


「……そうだね。分かった。実は、最近の拓海の様子が変なんだ」


「変?」


「そう。前まで引き継ぎの話とかは拓海の家でしてきただろ?それが、数年前くらいから断られるようになったんだ」


「彼女がいるからじゃないの?」


「そうも考えたんだけど、だとしたら紹介位はすると思うんだ。だから、なにか問題が起こっているか、見せられないような彼女なのか……。どちらにしても拓海が心配だ」


「……そう、ね。それなら拓海に聞いても答えないはず……。だから相談してるんだよね?」


「そういうこと。というか、拓海が答えないこと、よく分かったね?」


「これでも母親だよ?拓海のことくらい知ってるよ。自分に不利益を被るものを簡単に話したりはしないはず。それこそ、大きな損失になるからね。こういうとこ、響也と似てる」


「え゙。嘘!?」


 知らなかった。響也と拓海に似ている性格など無いと思っていた。自分でも気づかないところをナターリアは知っていたのか。しかしながら、似ているところがあるというのは嬉しいことなのだが、そのポイントが問題である。

 会社経営をしていくならこの考え方は非常に重要になるし、むしろ無いといけない。だが、日常生活でこんな生活をしているのは良くない。非常によろしくない。

 道理で拓海に彼女の一人も出来ないわけである。こんな隠し事をするようなやつとは一緒にいたくないだろう。

 拓海の気持ちも分からなくはないのだ。響也だって同じことをするのだから。不利益があることは、弱点に等しい。その弱点をむざむざ出そうという気にもならない。否、隠そうとするのが自然のことだ。弱点を晒してしまえば、それこそ更なる不利益がやってくる。

 本当に信用している人でなければ、親戚だろうと話す気は起こらない。……つまり、拓海にとって響也もナターリアも信用出来ないということなのだろうか。

 それならば、淋しい。

 愛する子どもから信用されていないことほど悲しいものはない。何が信用に足りないのかは不明だが。


「……どうすれば良いんだろう……」


 思わずボソリと零してしまう。信頼しているナターリアの前だから出来ることだ。他の人の前では絶対にこんな事は出来ない。


「響也!考えたんだけど、拓海の家に行っちゃうのはどう?」


「でも、鍵が……」


 いや、鍵はあった。拓海に万が一の時があったように合鍵を作ってあるのだ。拓海が鍵を変えていない限りは入れるはずである。


「グズグズ考えてても仕方ないでしょ!親なんだから入って良いに決まってる。このまま此処でもやもやするほうが良くない!」


 いつまでも優柔不断な響也に堪えあぐねたのか、ナターリアは元気よく叫んだ。


「え?でも、拓海が嫌がる……」


「Все в порядке!!拓海のためだから仕方ない!さ、分かったら今度の月曜日に行くよ!響也も仕事は休みでしょ。ちょうどいいじゃん」


 確かに月曜は休みだ。ナターリアはこうなれば意地でも行こうとするだろうし、響也だって、真実を知りたい。此処は一丁ナターリアに乗っかってみることにした。


「よし。分かった。今度の月曜に行こう」


「そうこなくちゃ!それじゃ景気づけにウォトカ、ウォトカっと」


 ルンルンでウォトカとかを取り出すナターリアに、水を差すなど出来るわけもなく……。

 響也はあまりの度数の高さに一杯で酔いつぶれたのだった。せめて、水割りすればよかったと思いながら……。

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