表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】愛の導  作者: 瀬名柊真
六章 異常

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/40

11

side?

 その部屋は散らかっていた。

 けれど、壁には何もあたっていなかったり、散らかり具合にどこか美しさを感じたりと、もともとは理路整然としていた部屋だったのだろうと思う。この部屋の主のように。

 しかし、その主は部屋の中央で椅子に座って項垂れていた。

 それは、自分で部屋を散らかしたものの、後から片付けなければならないから。というのもあっただろうが、何よりも、沙良の所為だった。厳密には千秋の所為というのが正しいだろうか。


(初恋……なのに……)


 彼の思考はそれ一色だった。誰が信じられるだろうか。初恋の彼女に、すでに彼氏が居ただなんて。これも全部、あの男の所為だ。アイツさえ居なければ。そう考えてしまう。

 そこまで考えて、ふと妙案がひらめいた。

 彼は部屋を見渡した。前々から薄々勘づいては居たが、物が移動したことではっきりと存在を確認した物体がある。

 黒くて小さなそれは、間違いなく盗聴器と見ていいだろう。何度もネット通販で見たことがあるのだから間違いない。幸いにも、監視カメラはないようだった。


(それにしてもまさか、絵画の裏に仕掛けられてるとはね)


 部屋にある数枚の写真。衝動に任せて壁から外した事に気がついたときは、やっちまったと思ったものである。それのお陰で盗聴器を確認出来たとなっては感謝しかないが。

 盗聴器があるということは、誰かしらが自分のことを尾けているとみていいだろう。となればこれを利用しない手はない。

 うまくいかない可能性もあるが、千秋が死んだら、邪魔者は消えてばんばんざい。それだけの話だ。

 千秋に死んで欲しい。しかし、そうともなれば、ストーカーは崇拝型タイプでないと問題がある。そういったタイプは少ないが、今回はこのタイプと見れるだろう。なにせ、直接的なコンタクトがないタイプだ。近づきたいけど近づけない。認知されたいけどされたくない。そういう考えをしていると思うのが妥当だろう。

 そこまで考えて、盗聴器には気づかなかったふりをし、彼は演技を始めた。いや、それは演技というよりも、心の内を暴露してるようなものであった。本人にその気はなかったが。


「何なんだよ!あの東城とかいうやつ。先に出会ってたからって調子に乗りやがって。僕のほうが!僕のほうが沙良を愛してるのに!中学からの仲だかなんだか知らないけど、僕と沙良には運命があるんだよ!それなのに、邪魔をすんなよ!僕が中学の頃に出会ってれば、今頃沙良は僕の腕の中なのに!所詮、所詮不良のくせに調子付いてんじゃねぇよクソが。死ね。死んじまえ。いや…もう、僕が殺そう。そうしよう。きっと彼女だって喜ぶはず……」


 言い切ってからはたと気づいた。思わず激情に任せてしまったが、盗聴器を仕掛けたやつが自分に恋情を懐いている場合、沙良が危険な目に合うのではないかと。タイプ的には大丈夫だとは思う、思うが。心配なことに変わりはない。崇拝型タイプだったとしても、沙良は釣り合わないなどと勝手に決めつけるタイプだったら、沙良に手を出す可能性が否めない。だが、過ぎたことは仕方ない。どんな手を使ってでも沙良を手に入れることに変わりはないのだから、準備をしなければ。

 それに、だ。たとえ、沙良が殺されても死体は残る。


(死体だろうと沙良は可愛いんだろうなぁ)


 想像しただけで頬が緩む。今、彼のことを見た人間がいたのなら、その表情の恍惚さに驚くかもしれない。いや、何も見なかったことにしようとこっそりとそっぽを向くかもしれない。

 だが、死体の保存は面倒くさいし、出来れば沙良には生きたまま愛して欲しい。

 そのためには、沙良を殺さないための準備が必要だ。

 そう思った彼は、唯一何も動かさなかった棚に手をかける。

 引き出しの中にはチャラチャラとしたものがはいっていた。そのうち、というかもう直ぐ使う機会があるだろうが、目当てはこれではない。引き出しの中には他にも、ファイリングされたルーズリーフや、現像された写真などもはいっていたが、そこまで注視するほどのものではないだろう。最後に黒い物体。目的物はこれだ。これさえあれば、なんとかなるだろう。

 目的のものを見つけたことで、冷静な思考が出来るほどには落ち着いた彼は、ようやく片付けに手を出し始めた。

 絵画を元の位置に戻し、散乱したものも定位置に戻す。このときには、盗聴器の位置も元に戻しておくことを忘れずに。

 床上にひとまとめにされていた写真は壁に。この時テープや画鋲は使わない。そんな事をすれば写真に汚れが付着したり、穴が空いたりするからだ。小さめの木製額にいれた後、それを画鋲で固定するのが正しいやり方。

 そうして、一時間が経つ頃には、部屋はすっかり原状復帰していた。

 だが、それでもどこか違和感がある。原因はわかりきっている。写真が一枚足りない。一枚、足りないのだ。壁にあったはずの写真が。

 せっかく落ち着いたというのに、これではまた感情的になってしまう。


(どこだ!?どこだどこだどこだ……僕の、僕だけの沙良が……!)


 ファイルを漁る。ない。棚の上。ない。引き出しの中。ない。どこにも、ない。


(なんで?絶対、絶対なくさないように壁に物は当てなかったはず……)


 残っている写真の日付を確認する。四月一日、二日、三日……なかったのは、一昨年の六月八日二十時五八分四三秒。誕生日ケーキを頬張っている写真だった。彼のベストショット三選に含まれるくらいにはお気に入りだった。どこでどうやって取ったのか?それは些細なことだ。問題ではない。ただ単に、沙良の家にカメラがあっただけだ。

 天罰、だろうか。千秋のことを消そうだなんて考えたから。だが、それは本当に悪いこととは思えなかった。彼にとってそれは正義で、そうすることで彼女が幸せになれると信じてやまなかったのだ。

 それもそうだ。彼にとって、彼女の居場所は彼の隣だけなのだから。それを遮るものを消すのは彼にとって絶対的な正義なのだ。

 だから、天罰な訳が無い。そんなわけ、無いのだ。そもそも天罰だなんて非科学的だ。この世界には神も偶然もこの世界には存在しない。存在するのは必然のみだ。

 プロファイリングをして、行動を予測し、選んだ選択肢から好みを割り出す。

 好みのタイプが分かったら努力でひたすらそれに近づける。

 それだけが全てだ。それより他に正しいことなど無い。

 運と偶然なんてありえないのだから。運も偶然も、努力と必然の末なのだから。

 だったら写真も見つかる。努力して、努力して、努力したら見つかるのだ。

 存在が急になくなるなんてことは無い。ありえない。物質なのだから消失はしない。だから、絶対にあるはずなのだ。

 まさか、絵の裏?いや、絶対にそんな事は無い。いや、でも……。

 それから何時間経っただろうか。

 結局、写真は見つからず仕舞いのままだった。

 途方もない虚無感に襲われながら、例の写真のデータを探す方向に切り替えた。そもそも現像した写真だけなんて馬鹿なことをするわけがない。当然クラウドにも保存している。それを再び現像すればいいだけの話。

 それだけの話だったのだ。

 無駄に探す必要なんてなかった。そう、思うことにした。

 そうでもしないと、彼が壊れてしまうから。

?にはしてるけど誰かは分かるよねっていう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ