観覧車の中の“僕”と〇〇
彼女は僕の膝の上に顔を乗せている。
観覧車に乗った僕たちはゆっくりと上へと登ってゆく。
僕は今日あったことをぼうっと思い出していた。そして彼女を見て微笑んだ。
「なつみ、今日は楽しかったね。君はジェットコースターが苦手だったなんて意外だったよ」
ジェットコースターは待ち時間が長かったがなつみは楽しそうに話していた。
学校のこと、友だちのことなど色んな話題になったがしばらくするとジェットコースターの話になったのだ。彼女がこう言った。
「私、ジェットコースターは苦手なんだけどなぁ。でも君が乗りたいっていうから思い切って乗ることにしたんだよ?」
彼女はちょっと緊張していたが、少し頬を赤らめていた。
だから代わりになつみが好きな乗り物に乗ろうって提案したんだよね。
僕は思い出し笑いをした。
「まさか、まだ100円玉を入れて動くパンダに乗りたいと言われるとは思わなかった」
彼女はパンダを見つけると乗ろうと誘ってきた。
今どきパンダはないだろうって言ったのにパンダがあるのは珍しいし思い出になるからって言うので、なつみはパンダに乗った。
写真を撮ると喜んでいたな。
「その後、お昼にクレープを食べたね。君はいちごチョコだと思ったのにバナナチョコを頼んでいたね」
なつみはいちごチョコを勧められたのに、それを断ってバナナチョコを頼んだのだ。
それでも嬉しそうな顔をしていたから、いいかと諦めたんだ。
美味しそうな顔をしてバナナチョコクレープを頬張る姿は可愛かったなぁ。
「その後は⋯⋯そうだ、変な放送が流れていたね。
“連続殺人らしき人物がこの遊園地で目撃されました。見かけたらくれぐれも注意して警察、または近くの係員にご報告下さい”って。
なつみも気をつけようね。でも僕たちはもう観覧車に乗ったから安全だね」
僕は彼女に微笑みながらこう告げた。そして少し怒ったような顔をして。彼女を見た。
「それからなつみ、さっきまで遊園地に一緒に来ていた男は誰だったんだい? 僕は慌てて木の影に隠れていたよ。
朝から、ずっと。
いつもそうなんだけどね。
⋯⋯まぁ、もう答えてくれないか」
彼は文字通り“朝からずっと”隠れて見ていた。
やりとりは一つとしてしていない。
「それでも僕は満足だったよ」
彼女の胸元からポトリと何かが落ちる。僕は気が付かなかった。
それは学生証だった。
その学生証に書かれた彼女の名前は“高橋理香子”だった。
はじめまして、二角ゆうです。
お読みいただきありがとうございました!




