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第6話 サクラメント水車


 村長に案内されて赴いたフィッシュホイールの設置場所だが、もうすごい大騒ぎになっていた。


 村人総出でいけすの鮭を回収しているような状態で、村長の言うように回収しきれない分をぼんぼん川に投げ戻してやってるありさまである。


「少しもったいないですね。せっかく捕れたのに」


 下顎に手を当て、オリバーがうーむと唸る。

 鮭なんて、子供が手をいっぱいに広げたくらいの大きさがあるからね。

 一匹あれば、数人分の食事になるんだ。


 脂っ気がなくてたいして美味しくはないけどさ。


 それをどんどん川に戻してやるのは、オリバーでなくてももったいないと思ってしまうだろう。


「とはいえオリバー様、腐らせてしまうだけですからな」


 村長の声も残念そうではあるが、それは事実だ。

 保存する方法なんて、乾燥させるか塩漬けにするか燻製にするかくらいないからね。


 塩漬けにするための塩をどっから調達してくるかって話だし、捕れた鮭を今ある燻製小屋でいぶすとしたら何日かかるか判らないし。


「さしあたり、内臓を捨てて天日干しするしかありませんわね」


 肩にのったアリエッタが俺だけに聞こえる声でささやく。

 それしかないだろうな。

 内臓の方も畑にまけば、肥料代わりくらいにはなるだろうし。


 結局、今日の漁獲は三百五十匹。川に戻した鮭の数もたぶん同じくらい。半分捨ててるって頭おかしい結果になった。

 最初のうちはさ、村人たちもほくほく顔だったんだよ。


 食料が自分から飛び込んできてくれるんだもん。

 けど昼過ぎくらいからうんざり顔に変わっていった。


 いけすから取り出しても取り出しても、まったく減らない鮭に。

 もう嫌だーって泣き出す子供たちまでいたんだぜ。


 さすがにもう無理ってことで水車をいったん止めて、今日の漁獲は終わりにした。

 日が傾くよりずっと前にね。


 つーか、三百五十匹の鮭を五百人の村人で食べるって、なかなかの苦行だと思う。

 しかも毎日ね。だって明日も水車回したら、同じくらい捕れるって予測がたっちゃうもの。


「とにかく内臓の処理をしてどんどん燻製にするんだ。ものが生だけに待ってくれないぞ。急げ」


 俺は村人たちにハッパをかけて作業に入らせる。

 さらに随行したオリバーに命じて、城から男爵領にある村々に伝令を飛ばさせた。

 手空きのものはリトリバ村に集まれってね。


 燻製小屋の増設といけすの拡大。最低限この二つはすぐに手を付けないといけない。

 もちろんいぶすための薪も必要だし、天日干しするための縄と物干しも必要だし、内臓を畑にまきに行く人もね。

 とにかくいまは人手がほしい。


「さすが旦那様。すばらしい決断力ですわ」


 耳元でアヒル姫が褒めてくれる。


「ここはすべての力を投入すべきだと読んだ。間違ってるかな?」

「正解だと私も思いますわ」


 フィッシュホイールによる鮭漁はサクラメント男爵領の産業になる。

 今日だって漁獲の半分を川に戻している上に、途中で水車を止めてるからね。


 遡上シーズンの間ずっと稼働されたら、何万匹の鮭が捕れるかちょっと想像つかないレベルだよ。


 何度も言うように鮭はべつに美味しい魚じゃない。

 だけど身体が大きいし、貴重な食料であることには間違いないんだ。


 味の問題だって調理の方法次第でなんとでもなるだろう。

 そのまま焼いて食べたら脂っ気がないってだけなんだから、たとえばバターで焼いてコクを出すとか、やりようはあると思う。

 じっさい、燻製にした鮭はけっこう美味しいしね。


「ただ、ひとつだけ注進してよろしいでしょうか」

「もちろんだ」

「狩人を配置した方がよろしいと思いますわ。それなりの数」

「なるほど。エサだらけだもんな」


 夜になったら野生動物やモンスターたちがやってくる可能性がある。

 燻製小屋は大丈夫としても、いけすの中の鮭や干してある鮭、畑にまかれた内臓など、狙ってくださいといってるようなもんだ。


 アリエッタの提案は、それを待ち構えて仕留めようってこと。

 獣は獣で利用価値があるからね。


 肉は食べられるし、毛皮や骨はいろんなものに加工できる。

 モンスターだって体内の魔石(コア)はすぐに現金化できるくらい貴重だ。


 襲ってくるって判っているなら、待ち構えて対応すれば良いだけ。

 ひとつ頷いた俺は、村長に必要な措置を執るように命じた。





 そして翌日、朝一番でリトリバ村を訪れると、さっそく猟の報告があった。

 猪が二頭、狼が四頭、熊が一頭。

 なかなかの結果である。


 村人の側の損害はなし。これは非常に良かったが、さらに嬉しい報告もあった。

 子狼が四匹も無傷で捕獲されたのである。


「こいつはラッキーだったな」

「ええ。うまく躾ければ優秀な兵士になりますわ」


 大昔から狼や犬は人間の相棒として活躍してきた。

 ただ、成獣になってから躾をおこなうというのはなかなか大変で、ふとしたきっかけで野生に戻ってしまうことも珍しくない。


 その点、子供から育成できるとだいぶ違う。

 最初から人間を仲間として認識させることができるのだ。


「リネカ。良い拾いものをしたな。育ったらフィッシュホイールを守らせる番兵にできるんじゃないか?」

「フィッシュ……? ああ、サクラメント水車でございますね。男爵様」

「なあ……本当にその愛称にしちゃうの?」


 ニコニコ顔の村長に渋い顔を向けたんだけど、一顧だにされなかったよ。

 

 

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