第39話 傭兵と冒険者と
談笑しながら俺とルイスは冒険者どもの方へと歩を進める。
ユーリと取り巻き、あと冒険者ギルドのロビーで見かけた連中もいるみたいだな。
「よう。久しぶりだな、ユーリ」
五十歩ほどの距離を置いて立ち止まり、フレンドリーに片手をやる。
「男爵野郎……」
返ってきたのは、ぎりっと歯ぎしりの音が聞こえそうな唸りだ。
ていうか、男爵野郎ってのは斬新な罵詈雑言だな。
クソ野郎とか馬鹿野郎とかなら理解できるんだけど、男爵と野郎をくっつけるってのは珍しいね。
まあ、この子はアホの子なんで、野郎をつければなんでも悪口だと思ってるんだろうけど。
「タイタニアにいると思ったのに、こんなところで会うなんて奇遇じゃねえか。もしかして、俺を振り向かせたくて待ち伏せしてた?」
「てめえ……」
「わりいなぁ。俺、女房いるんだわ」
「殺せ!」
軽口には付き合ってくれず、一斉に突っ込んでくる。
寂しいなぁ。
もうちょっと時間を稼がせてくれよ。
「煽りすぎだぜビリー。勇者ユーリくんなんて、顔真っ赤にしてるじゃねえか」
「もともと二対六。数の多い方に冷静な判断なんかさせてたまるかよ」
のんきに会話をしながら待ち受ける。
五十歩、つまり十間ちょっとの距離って一瞬で埋めれるほど短くないからね。完全武装で全力疾走をしたいっていう冒険者たちを止める気はないけど、俺たちはちょっと嫌かな。
「ルイスは左からな」
「あいよ」
互いの立ち回りを邪魔しないよう距離を開ける。
残り四間。
狙いは……よし、ユーリの横にいる軽戦士っぽいやつにしよう。
二間。
冒険者たちの動きは目に見えて鈍くなった。
そしてこっちはそろそろ攻撃範囲ですよ。そんな動きで大丈夫ですか?
一間。
くん、と、俺は飛び出した。
棒立ちからのいきなり動いたことで冒険者が面食らう。
先制できると思ってたんだろうね。こっちが動かないから。
でも甘いな。
静から動にいきなりチェンジすることで戸惑わせるってのが目的のひとつだよ。
すれ違いざまに抜いた剣が、間抜け面の男の首をはねた。
一拍遅れて、血が噴水のように立ち上がる。
事態を飲み込めず、冒険者たちが蹈鞴をふんだ。
遅いね、遅すぎる。
こいつらだって荒事は生業のはずなんだけどね。もしかして自分より強い相手と戦ったことがないのかな?
返す刀で一人、さらに踏み込んでもう一人。
あっという間に、三人の息の根を止める。
でも四人目は、振り下ろした俺の剣を音高く弾いた。
ユーリである。
「思わせぶりに登場したわりには弱いな。ユーリ」
「だまれ! 不意打ちしかできないクソ貴族が!」
不意打ちてあんた。
お前らが勝手に走って勝手に消耗したんだろうが。
なんのために距離を置いて対峙したのか、ちょっと考えてみようと思わなかった?
俺が相手をしているのはユーリと、あと二人。
ルイスの相手は四人で、すでに一人倒している。残りの二人は最初の位置からあまり移動していない。
魔法使いとプリーストっぽいからね。
このあたり冒険者って多彩だよな。傭兵にスペルキャスターなんていないぞ。まあ、数を揃えないと戦争では役に立たないからってのはあるんだけどさ。
冒険者の世界って基本的に個人戦で、せいぜいが四から六人のチーム戦だもの。
俺たちみたいに、最低でも二十人とか五十人って単位じゃない。
で、さっきから魔法使い女はこっちを攻撃しようとしている。
これが厄介なんだ。
ドッグファイトしているときならいいけど、ちょっと間合いが開いちゃうと攻撃魔法が飛んでくるからね……って、言ってるそばから飛んできた!
いわゆる初級っていわれるマジックミサイルだけど、もろに喰らったら死ぬからね。
油断できる相手じゃない。
「ただ、魔法ってのは基本的に必中だ。それこそが弱点でもある」
戦っていた三人のうち、一番どんくさそうなやつとの間合いをぐっと詰める。
「な!?」
「ていっ」
剣で攻撃するのではなく、左手で腕をつかんで引き寄せる。
互いの息がかかる距離まで。
そして、くるりとまわって位置を入れ替えた。
直後、男の背にマジックミサイルが着弾し、絶叫が響く。
「同士討ち! お疲れ様です!」
くっそ馬鹿にした口調で言い放って、苦しむ男を袈裟懸けにした。
そしてもう一人、って思ったところでユーリが斬り込んでくる。
ち、と内心で舌打ちし、ふたたび一騎打ちに近い格好へと移行していく。
嫌なタイミングで突っかかってくる。
たたみかけたかったな。
こいつと遊んでる間に、また魔法使い女が詠唱を終えてしまう。
あと、傷を負わせてもプリースト女が回復魔法を飛ばして癒やしてしまうのがうっとうしい。
あいつらから先に片付けないとじり貧だ。
余裕綽々っぽく振る舞ってるけど、こちとらもう四人殺してるから疲れが出てきてるんだよ。
ルイスだってそうだ。
四対一で戦って一人倒したとはいえ、まだまだ数的に圧倒的劣位にいる。
「どうするかな……」
ユーリと近接格闘戦を繰り広げながら内心で呟く。
こっちの相手はユーリともう一人。
ちょっと無理してでも一人倒して、魔法使い女を倒しに走るか。
いや、ちと厳しいな。
ユーリくんはバカだけど、背中を見せられるほど弱くない。
もう一手、もう一手なにかあればなぁ。
そう思ったときである。
魔法使い女がぐらりとよろめき、そのまま地面に倒れた。
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