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貧乏男爵とアヒル姫 ~領地改革で成り上がれ!~  作者: 南野 雪花


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第38話 まちぶせ


 歩いて十日の距離も、二頭立て馬車なら半分の五日で移動できる。

 宿場でいうと、ひとつ飛ばしに泊まってる感じ。


 まったく無理のないペースだから馬の負担もほとんどない。ただまあ、御者は一人だと大変なので、俺やルイスが御者台に座ることもある。

 貴族が御者台に座るんじゃないってまた怒られたけどね!


 ともあれ昼前は俺かルイス。宿場町で昼飯を食って一刻くらい休憩して、宿泊する次の宿場町までは御者が手綱を握っている。

 ちなみこの御者、モイジーって名前で宿に雇われているわけじゃなくて、タイタニア御者連盟に所属しているフリーランスなんだそうだ。


 サクラメントの街に着いたらスカウトしちゃうことを、じつは俺とアリエッタで決めている。

 馬に負担をかけない安定した手綱さばきといい、休憩のたびに馬を気遣い、不調がないかチェックする心配りといい、得がたい人材だ。


 あと、クインが懐いていて、馬の扱い方を教わったりしているのも大きい。

 技術を秘匿せず、広く伝えようとしているってことだからね。


 サクラメント男爵府の厩務長は、もうモイジーしか考えられないってレベルである。


「男爵様。前方に賊です」


 そのモイジーが警告を発したのは、王都を発って三日目の午後遅くだった。

 もう間もなく夕暮れ。

 半刻ほどで宿場町に到着するかなって頃合いである。


「あいつら……どうやって先回りしたんだ?」


 キャビンから御者台に顔を出して前方を見晴るかせば、十名ほどの男女が完全武装で待ち構えていた。

 装備もまず立派なもので、盗賊団などには見えない。


 にもかかわらずモイジーが賊と断言したのは、ユーリとその取り巻きが混じっているから。

 徒歩移動の二倍の速度で進んでいる俺たちに追いつくどころか先回りできるなんて、どんな魔法を使ったんだか。


「……魔法ではありませんわ。旦那様」


 とんと肩に乗ったアリエッタが押し殺した声を出す。

 ただならぬ様子に、俺は無言で先を促した。


「この主街道は、たぶんわざと蛇行させて敷いています。なぜなら……」

「先回りする道を用意するため、か」

「はい。そしてこの道に隣接する土地を領有しているのは」

「フィリップ侯爵か!」


 繋がった。


 俺たちを邪魔に思っている人間がたしかに存在するのだ。

 サクラメント男爵領で進められている測量、これを王国全土に普及させて「正確な地図」なんてものを作られたら困ってしまう人間が。


 フィリップ侯爵領を通れば、二頭立て馬車が三日半で移動した距離を先回りできる。

 もしそれが徒歩でだったら、大変なことだ。


「……いや、間違いなく徒歩だろうな」


 目算で十二名。全員分の馬を用意するというのは、なかなか金がかかる。もちろん金満家のフィリップ侯爵にとってははした金だろうが、冒険者みたいな無頼漢どもにくれてやるほどお人好しではないだろう。


 そんな無駄金を使うくらいなら、フィリップ侯爵軍の正規兵を使うよね。


「侯爵は私たちを亡き者にしたい。でもそれを「正確な地図」を作ろうとしている人間を排除したいから、と思われては困る」

「冒険者どもが逆恨みで殺した、というあたりが理想的だな。俺が死ねば後継者のいないサクラメントは終わりだ」


 現在の家臣団も空中分解してしまうだろう。

 もしかしたらサラソータ侯爵が丸抱えしてくれるかもしれないけど、今やっている事業はすべてストップだ。

 測量だって自然消滅である。


「手のかかることを……いったいいつから画策していたのか……」

「おそらくあちこちに密偵を放っているのでしょうね。もちろんサクラメントにも」


 経済成長が著しい注目の土地である。

 測量の情報をキャッチされていても不思議ではない。


「私たちが人を集めるというのは自明の理ですからね」

「いずれは冒険者ギルドにも声をかけると踏んで罠を用意していたわけか」


 となれば、走らせていた策はひとつやふたつではないだろうな。


 殺されたフィッシャーも踊らされているユーリも良い面の皮だろうが、しょせんは平民で無頼漢である。

 フィリップ侯爵にとっては、彼らの命や尊厳なんか羽毛枕より軽い。





「どうする? ビリー」

「難しいところだな。モイジー、突破できそうか?」


 こちらは馬車が一両。

 相手は十二名。


「強行突破が不可能とは思いませんが、もし小細工をされていたらそこで終わりです」


 プロの御者としての意見を軽視することはできない。


 馬車を引いている馬は元軍馬である。びびって恐慌に陥ったりしないだろうが、なにしろ敵の数が多い。

 足など切られたら横転してしまうし、仮に突破したとしても、前方に網とか置かれていたらやばい。


 ユーリたちに工作する時間があったかどうかすら判らないのだ。


「突破は諦めて迎撃だな。一人あたま六人だ。余裕だろ」


 俺はにやりと笑ってみせ、ルイスが簡単に言うなと肩をすくめた。


「旦那様……ご武運を」


 キャビンから降りる俺たちを、アリエッタが声を詰まらせながらも応援してくれる。

 止めるようなことは言わないのは、貴族の妻としての心得だ。


 全滅するわけにはいかないのである。

 俺かアリエッタ、最低でも一人はサクラメントに戻らないと領地を治める人間がいなくなってしまう。


 もし俺とルイスがピンチになったら、彼女らは見捨てて逃げなくてはいけないのだ。


 義務としてね。




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