表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
貧乏男爵とアヒル姫 ~領地改革で成り上がれ!~  作者: 南野 雪花


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

37/50

第37話 急いで帰るぞ


 急いでサクラメントに戻ることにした。

 もとより朝食を食べたら出発するつもりだっのだが、より急ぐ必要がでてきたのである。


「バカというのは、なにをするか行動が読めません。ですので、一刻も早く領内に入ってしまうのが肝要だと思いますわ」


 というアリエッタの言葉に、俺も大賛成だった。


 政治に関しては妻に及ばないものの、軍事には多少の知識がある。バカを相手にするのは、頭の良い敵を相手にするよりしんどいんだよ。

 なんといっても行動に整合性がないから。


 普通はね、こうすればこうなる、ああやればああなるって予測を立てて兵を動かすのよ。

 てきとーにやってるわけじゃない。


 何にも考えないで動かしちゃうと、糧食が足りなくなるとか兵士が疲労で動けなくなるとか、いろいろ問題が出てくるんだ。

 そしてそれはもちろん、損害が大きくなりすぎるとか、戦線を維持できなくなるとか、もっと大きな問題に繋がっていく。


 だから指揮官ってのは、お互いに敵の手を読み合うんだ。

 で、補給差とか戦力差とかをちょっと横に置いて考えれば、読み負けた方が負ける。


 軍師、なんて呼ばれる連中が怖ろしいのは、何十通り何百通りの読みが頭の中にあって、相手がどう動いても対応できるように策を立てているからなんだ。

 あるいは、予想の範囲内でのみ敵に行動を選択させたりね。


「ところがバカってのは、予想の斜め下をいくからなー」

「フォレスト村防衛戦を思い出すよな。ビリー」


 苦笑のルイスに頷く。

 七、八年くらい前だったかな。フォレストって名前の村を盗賊団から守るって仕事があったんだ。


 俺もルイスも、クロウやジョンも参加していた。

 数としては盗賊団の方が少ないくらいで、戦わないで退くかなーとか思ってたんだけどね。


 実際は攻めてきた。

謎の奇策を使って。


 夜陰に紛れて奇襲するとか、工作員を送り込んで内部崩壊させるとか、そういう奇策なら俺もクロウも予想していたし備えてもいた。

 ところが、盗賊団がやったのは正面決戦を挑むことだったのである。

数で劣るのに。


 ここだけでも驚きなのに、なぜかやつらは俺たちとぶつかる寸前、大きく右に曲がって側面を突こうとしたんだ。

わざわざ隊列の横っ腹を晒してだよ?


 そりゃあ上手くいったら、側面を突ける最高のポジションを占められるけどさ、上手くいくわけないじゃん。


 一瞬だけ驚いた俺たちだったけど、わざわざ弱点を晒してくれた盗賊団を散々に打ち負かしたわけだ。

こっちはほぼ損害ゼロで、タコ殴り状態だったよ。


百人くらいいた盗賊団は、三人くらいしか生きのこらなかった。


 で、生き残りから聞いた話だと、意表を突いた行動で唖然とさせて、その隙にサイドに回り込んでボコるつもりだったんだそうだ。

本当に唖然としたよね。


 その体勢を作るまで、俺たちはどのくらいの時間、唖然としてれば良いんだよって話さ。

 驚いたとしても一瞬だって。それが過ぎたら攻撃するでしょ、普通に。


「あのときの、「え? なんで攻撃してくんの?」っていう盗賊どもの顔は、反応に困ったよな」

「ああ」


 ルイスの述懐に深く頷いた。

 これほどかように、バカというのはわけのわからんことをするのである。

 命がかかっている局面なのに、一か八か、伸るか反るかの大ばくちを打つんだもの。


 謎の勇者ユーリくんだって、なにしてくるか判ったもんじゃないよ。




 帰りは二頭立ての馬車を使う。

 これで行程は半分になるんだ。一頭立てだと基本的に徒歩と同じスピードだからね。


 で、馬の方は宿の主人が用立ててくれた。なかなか力強そうな牡馬が二頭で、なんとなく軍馬上がりっぽい気風を感じる。 

 かわりに俺たちの馬を進呈したわけだけど、あきらかに向こうが損をしている取引だ。


 バカを引き受けてもらった迷惑料って意味らしいけどね。


「ていうか、これを出すってことは道中の襲撃なんても想定してるだろうな。あの主人」

「なかなかの御仁でしたわね。一国一城の主でなければ、サクラメントにスカウトしたいくらいでしたわ」


 とは、アリエッタのセリフだ。

 用心棒たちの動きもしっかり訓練されていたし、冒険者ギルドの後ろにいるという侯爵より、俺たちに味方すると一瞬で判断した胆力もある。

 街角の宿屋の主人にしておくには惜しい人材だろう。


 とはいえ、さすがに廃業してサクラメントにこい、とは言えないからな。


「縁が繋がった、というラインで満足すべきさ」

「ですわねぇ」


 残念そうなアヒル姫だ。

 人材収集欲に関しては俺よりもはるかに強い。


 たぶん父親譲りなんだろうね。


「出発してくれ」


 御者台に声をかけると、了解の声とともにゆっくりと馬車が動き出す。

 そこからどんどん加速して、車窓を景色が流れるようになっていった。

 この速度になると、徒歩で追いつくのは難しい。


 街道を歩く人々をはねとばさないよう、御者が素晴らしい腕前を披露する。

 俺的には、この人もスカウトしたいところだね。


「ルイスの十倍上手いよな」

「つーかちゃんと御者を雇えよ。俺らはあくまでもできるってだけで、専門でもなんでもねえんだからよ」


 行きの御者だったルイスが、ふんと鼻息を荒くした。

 

※著者からのお願いです


この作品を「面白かった」「気に入った」「続きが気になる」「もっと読みたい」と思った方は、

下にある☆☆☆☆☆を★★★★★にして評価していただいたり、

ブックマーク登録を、どうかお願いいたします。


あなた様の応援が著者の力になります!

なにとぞ! なにとぞ!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
コミカライズしたら、フォレスト村防衛戦、あとがきの1ページくらいにでも書いてほしいです 一コマで終わるかもしれないけど、腹の底から笑えそう
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ