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貧乏男爵とアヒル姫 ~領地改革で成り上がれ!~  作者: 南野 雪花


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第27話 完勝と展望


 ゴブリンジェネラルが討ち取られると、残りのゴブリンどもは戦意を喪失して逃げ始めた。

 この瞬間から戦いは掃討戦へと移行する。


 逃げる背中を斬りつけたり、突き刺したりね。

 ただまあ、あんまり追い詰めすぎると、死なば諸ともの必死の反撃を受けちゃうから、さじ加減が大事だ。


 ウルフ軍団あたりが上手いね。

 数頭がかりで一匹を背後から襲って引き倒すんだ。


 数的優位が確立されてるから反撃の心配もないし、ゴブリンどもとしては僚友を犠牲にして自分だけは逃げようとするし。


 こうして掃討戦までひっくるめて二刻ほどで戦いは終わる。


 戦場に遺棄されたゴブリンの死体は二百三十二。

 サクラメント軍は人間もウルフも損失なし。軽傷を負った者はいるけど、命に関わるような怪我をしたものはいない。


 完全試合(パーフェクトゲーム)だ。


「男爵閣下。戦闘の終了をご報告いたします」

「苦労である。剥ぎ取りを許すゆえ、魔石(コア)を分配してやれ」

「御意」


 従士グレイスとして報告したクロウに、俺は男爵として答える。

 面倒な話だけど、こういうのは形式だから。


 ちなみに剥ぎ取りってのは、敵の死体から物品を奪うことね。

 相手がゴブリンなんでお金とか持ってる可能性はゼロだけど、モンスターは体内に魔石があるんだ。


 こいつの有無がモンスターかそうでないかの違いだったりもする。

 で、その魔石が様々な魔道具の原料になったり、エネルギー源になるわけだ。


 ゴブリンの魔石なんてクズ魔石ばっかりだけど、それでも売ればそこそこの金になる。

 まして数が数だからね。

 初勝利のボーナスとしても充分だろう。


「コアを抜いた死体はどうするのです? 旦那様」

「森にぽーいさ。穴を掘って埋めてやるほど親切にもなれないし、手間だしな。捨てておけば肉食獣がエサにするだろう」


 そして充分なエサが確保できるなら、サクラメント水車もイノシシ牧場も狙われないって寸法さ。


「ゴブリンならそんなものですか」


 やや残念そうなアリエッタだ。


 モンスターってのは良い素材になるからね。皮も骨も、血液や臓器すら。それこそドラゴンなんて「捨てるところなし」なんて言われるんだよ。

 ぶっちゃけ一財産だね、一頭狩ったら。


「ただまあ、強いモンスターはそれだけ倒すのも大変だ。欲はださんに限るよ」


 ひとまずの仕事を終えた俺は、ぐーっと身体を伸ばした。






 ゴブリン軍は壊滅して軍団としての体を失ったけど、それでも七十匹近くが生存している。

 これは充分に脅威となる数だ。


「番兵たちの訓練を兼ねて哨戒活動をしようと思うんだ」

「それは良い考えだ。差配は任せるから鍛え直してやってくれ」


 リトリバ村の臨時本部へと戻る道すがら、クロウの申し出に頷く。

 なにしろサクラメントの兵士たちって、いままで城館の門番しかやったことがないんで実戦経験ゼロなんですよ。


 もちろん、たまに村を襲ってくるモンスターや獣を追い払うくらいはやったことあるけどね。

 あんなもん、せいぜい三、四匹だし、戦闘なんて呼べるしろものじゃない。


 だから今回の会戦も、番兵たちはなんにもできなかったんだよね。

 本陣で俺とアリエッタを守っていた、といえば聞こえがいいけど、実情はアリエッタと一緒に俺に守られていただけだ。


 これはいかにもまずい。

 農家の小倅がたまたま城勤めをしていただけとはいえ、ちょっとお粗末すぎる。

 毎日、剣を振ったり城の周りを走ったり、訓練はしてるんだけどね。


「いきなりジョンやジャスパーと組ませるのはしんどいだろうからな。しばらくはわたしが指導しよう」


 クロウの言葉に頷く。

 トマホークジョンにしても双剣ジャスパーにしても、人を教え導くのが得意そうにはまったく見えないからね。

 やつらにビシバシ教育されたら、かえって人材はスポイルされてしまう。


 人当たりも良くて理路整然としたクロウはまさに適任だろう。


「もちろんビリーも教えるのに向いてないしな」

「まったくですわ。旦那様にどうやってホブゴブリンを倒したのか訊いたら、普通に切っただけなんて答えましたのよ」


「さもありなん」

「そんな説明があるかって思いましたわ。こっちは一ミリも見えてねーですのに」


 カラスとアヒルが笑ってる。

 あんたたち、陰口ってのは本人がいないところで叩きなさいよ。

 泣くよ?

 男爵様が泣いたら、ちょっと恥ずかしいぞ?


「こいつは昔から言語化能力が低いんだ。頭が悪いわけではないんだけどな」

「長くもない結婚生活で悟りましたわ。あと、警戒心もゼロですわね」


 従士と奥方から、いらんレッテルを貼られてしまう。

 哀しい。


「とはいえ、ゴブリンを倒したから終わりというわけではない。ビリーも判ってるとは思うが」


 ひとしきり笑った後、クロウが真剣な声で言った。


 ゴブリン軍は、北の森でそれなりの位置を占めていたと考えて良いだろう。単体では弱いけど数は力だからね。

 これが消滅したってことは、勢力図が変わるってこと。


 より強いやつが台頭して、ふたたびサクラメントを狙ってくるだろう。

 モンスターにとって、恒常的に得られる食料ってのはそれだけ魅力的な財産だからね。


 そして食料だけでなく財貨が貯まってくれば、モンスター以外も狙ってくる。


「勝てば勝つほど敵は強く厄介になっていく。考えたら馬鹿馬鹿しくなるな」

「そういうものだろう。自国が軍備を整えれば、それをみた隣国も増強する。際限のない軍拡競争というわけだ」


 俺の言葉にクロウが皮肉な笑みを浮かべる。

 人間の方は魔導人形なんだけど、とてもそうは見えないよなぁ。


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