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第1話 アヒルと政略結婚!?


 なあ諸兄、貧乏ってつらいよな。


 世の中お金より大切なものがあるなんてよく言われるけどさ。お金がないと悪いことがいっぱい起きるんですよ。


 たとえば、隣の領地から強引に結婚話を押しつけられたりね!


「べつにおかしなことでもないし、貧乏はまったく関係ないですね」


 息をするように俺の内心を読んだ秘書のオリバーが、やれやれと首を振る。


 貴族の結婚なんて基本的には政略だ。

 恋愛なんぞが入り込む余地がないことくらい、ど田舎の貧乏男爵である俺だってしっとるわい。


「けど、そんな愛のない結婚は嫌だ。政略なのは百歩譲って認めるとしても、婚約までに文通とか一緒に食事とか、夜会とか、いろいろあったって良いじゃないかー!」


 拳を握りしめて力説する俺に、オリバーが冷たい目を向ける。

 なんというか、この乙女脳のぼんくら領主が、と語っているような、まるでゴミを見るような目だ。


「この乙女脳のぼんくら領主が。いい歳こいて夢見てんじゃねえ」

「ホントに言いやがった! しかも付け加えて!」


「期待してたでしょう?」

「そんな馬鹿な!」


 さて、出だしから大騒ぎで申し訳ない。


 俺はウィリアム・サクラメント男爵。名前の通り、ここサクラメント男爵領の領主だ。

 で、さっきから俺をいびってるのが、秘書であり乳兄弟でもあるオリバー。

 同じ乳母の乳を飲んで育ったのに、こんなに意地悪なんですよ。


「そもそもサラソータ侯爵家は当家よりもはるかに格上です。どんなとんでもない姫を押しつけられたって、断れるわけないじゃないですか」


 オリバーの言うとおりだ。

 侯爵と男爵では、そりゃもうびっくりするくらい違う。

 誰もが見上げる秀峰と、ほいほーいってピクニックに行けちゃう丘くらい違うんだ。


「まして侯爵家からはかなりの額を融通してもらっていますし」

「それなー」


 我がサクラメント男爵領は大変に貧乏なのである。


 土地は痩せていて作物があんまり育たない。寒い地方特有なんだけど森の獣はでかくて凶暴だから、狩人もあんまり獲物をとれない。

 特産品とかもなくて、行商人もあんまりやってこない。


 領民たちは良く働く性質で、一生懸命がんばってはくれてるけどね。

 働けど働けど暮らしは良くならないんだよ。


 なので毎年のようにサラソータ侯爵からお金を借りてるんだ。やれ道が崩れたとか、橋が老朽化して危ないとか、そういう陳情に対しておこなう公共工事の費用としてね。


 増税できるほど領民たちの暮らしぶりは良くないからね。

 でも、正直にいってサラソータからの借金を返す見込みも立たないのである。


 もし今回の結婚話を断って、じゃあ貸した金を返せなんていわれたら、もう詰みですよ。

 家人みんなで首をくくるか、夜逃げでもしないといけない。


「はぁぁぁ、いっそオリバーが女だったら、手に手を取って駆け落ちってのもよかったかもなぁ」

「ウィリアム? 仮に僕が女だったとしても、選ぶ権利ってもんがあるんですよ?」


「俺にはないじゃん!」

「貴族ですからね」


 いけしゃあしゃあと答えやがった。

 ほんっともう、貴族なんてろくなもんじゃないよな!





 そして婚礼の日である。

 俺の気分としては、死刑執行を待つ囚人だ。


 顔も知らない、性格も判らない、そもそも年齢すら聞かされてない花嫁を迎えなくてはならない。しかも拒否権なしで。

 誰か代わってくれないかな。


「ま、どうしても気に入らなかったら、事故に見せかけて殺っちまいましょう」

「こわっ! なに真顔でしれっと怖いこといってんの? おまえ」


「追い詰めて自殺ってのだと角が立ちますからね」

「事故だって角立つよ! たちまくりだよ!」


 オリバー、怖すぎる。

 ホントに同じ乳のんで育ったのかよ。


 それとも血筋? 俺の乳母であるオリバーのお母さんって、そりゃもう気の強い女性だったからなぁ。気が強いっていうか肝っ玉母さんだった。

 俺、領主の跡取り息子だったのに、悪いこととかすると普通にゲンコツで叩かれてたんだよ。


 おかげでしっかりとした倫理観が身についたわけだが……って、あれ? そしたらオリバーだってもっと真人間のはずじゃないか?


「なにを考えてるかだいたい想像つきますが。男爵公子と家臣の子供が同じ教育のわけないじゃないですか」


 なんも判ってねーなこいつって顔でため息を吐かれちゃった。

 秘書にため息を吐かれる男爵、それがこの俺である。


 悲しいでしょ?

 つらいでしょ?


 そして他の家臣たちも、にまにま笑いながら俺たちのやりとりを見てるんだぜ。

 サクラメント男爵家って、なんかいろいろ緩すぎるよなー。


 そんなこんなで式部官が入来を告げ、サラソータの姫君を乗せた輿が陳情の間に入ってきた。


 王城にある謁見の間みたいに立派でもないし、広くもないないけど、俺の城にもその程度はある。

 というより、領民からの陳情を受ける部屋と他国や他領や客人を迎える部屋が同じって時点で、小城だってのはお察しだよなあ。


 屈強な四人の兵士がしずしずと輿を絨毯のうえにおろす。

 豪華な輿だ。

 中が見えないように下ろされていた御簾がゆっくりとあがっていく。


 まったく望んだ結婚ではないけれど、どんな姫なのか気になってちょっと覗き込むような感じになってしまったのは、哀しき男のサガというものだろう。

 まず柔らかそうなクッションが見え、その上に鎮座しているのは……。


「アヒル……?」


 鳥だった。

 白いやつだ。


 目が点になる。

 これはなんの冗談だろう。


 サラソータ侯爵というのは、姫だといってアヒルを送ってよこすような、そんな愉快な為人(ひととなり)だっただろうか。


 俺だけじゃなくオリバーや家臣たちの頭上にも疑問符がぴょんぴょん跳ね回っている。

 見ている光景を頭が理解できない。


「失礼ね! アヒルじゃなくて白鳥よ!!」

「「鳥が喋ったぁっ!?」」


 陳情の間、大混乱だ。

 静かな音楽を流していた楽士すら、とち狂った曲を奏で始めちゃったよ!


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[良い点] 嫁さんが人ですらねぇって、そりゃビックリするわ!事情があるだけで本来は人間なのはわかったけど! (ゴリラを嫁さんにした主人公の作品もあるので、読者としては受け入れOK!) でも、なんかセ…
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