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英雄の性

作者: 山本ひすい

興味を持っていただきありがとうございます。

「あの小さな姫を連れていこう!」


 突然の私の言葉に、部下たちは驚き唖然としている。

 何をしているのだ。早く彼女を連れていかないと、この城の者に気づかれてしまうではないか。

 理不尽ともいえる怒りの感情を顔に出すと、部下の1人が慌てて声を上げた。


「若様!そんなことをしたら誘拐犯になってしまいます!」


 誘拐?違うな、これは……、


「これは救済である!さみしき城に囚われた悲劇の姫君を救い出すのだ!」


 そう、これは誘拐ではなく救済なのだ。この私の物語は、後世に犯罪としてではなく、英雄譚として語り継がれるだろう!



 姫を救い出さんとする男たちは今、彼らの出身地である帝国から馬で東に7日進んだ先にある、とある小国にいた。その国は強大な力を持つ帝国の前に屈し、今は属国としてその形を保っている。


 その小国には嘘か真か、美しき姫の噂があった。世界を旅する吟遊詩人が言うには、

「2つの月を映す湖のほとりに佇む暗澹たる城、その内の1つの塔の頂上には、最も月に近い美しき姫が空へ飛び立つ日を夢見ている」

という。


 その城で行われたパーティーに帝国貴族として招待された男とその従者たちは見てしまったのだ。城の1つの塔の、空に一番近い窓から外を覗く、幼く美しい姫の姿を。


 そして、彼の英雄譚の幕が上がる。



「連れていくと言っても、まずあの塔の上までどう行くのですか?運よく塔まで辿り着いても、中には使用人や護衛がいるでしょう?」


 もっともな意見が部下の1人からで出た。

 実をいうと、私は方法について全く考えていない。本当に突発的な考えなのだ。


「小難しい手段は使わない。正面突破だ」


 私の言葉を聞いて、部下の顔がどんどん青ざめていく。まあ、当然の反応だろう。


「いやいや、若様。本当に犯罪者になってしまいますよ……」


 呆れながら部下が言う。呆れる前にもう少し私の話を聞いてほしいものである。方法は考えていないが、上手くいく確信はあるのだ。


「安心しろ。私には神がついている」


「神?若様、遂に頭がやられましたか」


 部下の顔には、呆れを通り越して絶望の表情が浮かぶ。

 

 しかし、その表情を見ても私の確信は揺るがない。いい加減なことを言っているわけではないのだ。


 この国の姫の噂を聞いた時、この姫は私を待っているのだ!と直感が訴えかけてきた。何故そう思ったのかはわからない。ただ、聞いた後、ずっと姫の話が頭から離れなかった。そして、窓に姫の姿を見たとき、天啓なのだと気がついた。


 神は私にあの姫を救い出してほしいのだ。そうでなければ、私がこの城に招待されることも、ふと塔を見上げた時に姫を目にすることなど有り得ない。


 しかし、この考えを部下に理解しろというのは酷だろう。説明するのも面倒くさい。神は英雄として私を選んだのだ。選ばれていない部下たちは、そもそも理解できないかもしれない。


「大丈夫だ。私について来い!」


「あ、お待ちください!」


 私を呼び止める声を無視して、パーティー会場を抜け出し塔のほうへと歩いていく。パーティーは終わりかけで、塔のほうへと歩いていく私たちに疑問を感じる人は少ない。


 会場となっていた大広間から、荘厳で深めの噴水と綺麗な花壇が並ぶ中庭へと出る。少し休憩に出ていた人が数人、ぱらぱらといるが、あまり問題はないだろう。


「おや、帝国の貴族様。いかがなさいましたか?」


 突然、後ろから声をかけられた。

 不自然に思われないようすぐに後ろを振り返ると、そこにはパーティーの参加者であろう中年の男性がいた。小国式の礼服を着ているので、この国の貴族だろう。


「いえ、庭が美しいと聞いたものですから、一目見ておこうかと思いまして」


「ああ、なるほど!確かにこの庭は綺麗ですよね。ほら、あそこに咲いている薔薇なんかはこの地方の名産だったはずです」


 何故小太りの中年男性と立ち話をしなければならないのか。私には姫をお救いするという使命が、いや神命があるというのに!


 嫌悪の表情を明らかにしても、相手はこちらを見ていないのか、なかなか話し終わらない。


「あそこのアーチもたいしたものですよね!ここの庭師の仕事は一度直接見てみたいものですな」


「本当にそう思います。では、急いでいるのでこれで」


「ああ、美しいといえば、この城には美しい姫がいると、もっぱら噂になっていますな」


 突然の男の言葉にハッと息をのむ。

 いや、大丈夫だ。何も疑われているわけではない。雑談の一つのネタとして会話に出てきただけだ。


「え、ええ。勿論、知ってはいますよ。本当なら、一度お話してみたいものです」


「おや、貴方様はご存じないのですね。帝国の方からいらっしゃったから当然ですかね。この城には本当に美しい姫がいるのですよ。囚われの、という飾り文句は真実ではありませんがね」


「と、いうと?」


「この城の主人とは少し親しくて、お嬢様ともお会いしたことがあるのですよ。美しい、というところは真実でしたね。ああ、そういえば先ほどお会いしたいと仰っていましたよね?城の者に話をつけてきましょうか?」


 やはり、神は私に味方している。こんな中年男性と話して何になるのか、と思っていたが……。どこに幸運が転がっているかわからぬものだ!


「それはそれは。是非お願いしたい!」


「わかりました、少し庭でもご覧になってお待ちください」


 そういって中年の貴族はパーティー会場へと戻っていく。


 私はその姿が視界から消える前に、興奮を隠しきれず、部下たちを見る。


「そらみたことか!今の私について来れば何事もうまくいくのだ!」


「なんかうまくいきすぎている気がしますけどね……」


「なんとでも言え!結果だけが全てだ!」


 やはり部下にはこの運命を感じられないらしい。神は私だけに天啓を与えてくださったのか。

ああ、早く姫を救い出してさしあげたい。汚らしい小太りの貴族が闊歩する城には置いておけない。


先ほどの貴族を待っている間、言われた通りに庭を見ることにした。彼が言う通り、本当に美しい庭である。隅々まで手入れがいきわたっており、庭師の実力と熱意が伝わってくる。


そうして部下たちと庭を愛でながら歩いていると、手に持ったはさみで植物を切りながら庭を手入れしている少年を見つけた。


彼が、ここの庭師か。思っていた倍は年が若そうだ。せっかくの出会いだからと彼に声をかけてみることにした。


「やあ、君がこの庭を手入れしているのかい」


 突然後ろから声をかけられた少年は、一度ビクッと体を震わせた後、恐る恐るこちらを振り返った。


 うん、顔だちもなかなかではないか。


「驚かせてすまないね。ただこの庭が美しくて、庭師を探していただけなんだ」


「いえ!すいません!」


 彼はこちらが貴族であることを確認すると、慌てて頭を下げ、挨拶してきた。


「それで、君がここの庭師かな?」


「は、はい!そうです!ここでお庭の手入れをさせて頂いております!」


 やはりそうか。年齢の割に素晴らしい仕事をするものだ。ただ、ここまで若いと前任者がいたはずだが、どうなっているのだろうか。


「以前は祖父が手入れしていたのですが、年のせいで上手く動けなくなって。去年から僕が手入れを任されているのです」


「なるほど。それでそんなに若いんだね。その年齢でここまでの庭を造るとは立派だね」


「そう言っていただけるとありがたいです。この庭はお嬢様もご覧になりますから、力を入れているのです」


 お嬢様。

お嬢様とは、あの幼い姫のことだろうか。何故彼の口からその言葉が出てくるのか。彼はただの庭師のはずだが。


確かに、この庭から塔の窓はよく見えるし、逆もまたしかりだ。彼が姫のことを知っていてもおかしくはないのか。


何にせよ、姫を救い出す際に、彼がここにいたことは覚えておかなければならない。見つかって騒がれると困る。この出会いも、出来る限り不安要素を消しておけ、という神が導いてくださった運命なのかもしれない。


そんなことを考えていると、いつの間にか中年の男性が帰ってきており、私に話しかけてきた。


「ああ、ここにいたのですか。話をつけてきましたよ」


「いや、すまないね。こちらの庭師君を見つけてね。つい話しかけてしまったのだよ」


 小さな庭師を見る。

彼は二人目の貴族の登場にいささか緊張しているようだ。私には姫を救うという神命もあることだし、そろそろ解放してあげよう。


「時間を取らせて済まないね。話してくれてありがとう」


「いえ、こちらこそありがとうございました!」


 一つお辞儀をして、彼は小走りで仕事へと戻っていった。


 彼が去っていくのを見送り、残った中年貴族に声をかける。


「改めてありがとうございます。ではいきましょうか」


「ええ、塔まで案内しますね」


 塔までの道を中年貴族とともに歩く。その後ろには私の部下もついてきている。

彼はしきりに庭の美しさについて話しかけてくるが、それを話半分で聞き流しながら、私は庭を見渡して逃走経路に目星をつけていく。


この庭は結構入り組んでおり、それでいて私の背丈ほどの高さがある生垣があるため、人間サイズの迷路のようになっている。これは逃げる際に有効活用できそうだ。


「着きましたよ。ここがお嬢様のいる塔です。彼女はこの上にいるのが大好きなのでなかなか出てこないのですよ」


 男の話をほぼ無視しながら考えていると、塔に着いたようだ。近くに来て見上げると、首が痛くなりそうなほどの高さはある。


 ついにあの姫と対面することができると考えると、さらに興奮して鼓動が高まってきた。


「さあ、中へどうぞ。話は通してありますので、私はこれで。あとは執事たちが案内してくれますよ」


「ええ、何から何までありがとうございました」


 中年貴族に別れを告げ塔の扉のほうを見ると、高齢の執事がこちらに向かって微笑んでいる。爺とか、爺やとか呼ばれて良そうな雰囲気がする。


 彼に近づくと丁寧にお辞儀をして、私に挨拶をしてきた。


「お待ちしておりました。帝国の貴族様がわざわざお嬢様と会ってくださるとは。本当はこちらから伺うのが筋なのですが、なにぶん未だ成人もしていない故、ご容赦ください」


 嫌がっているような素振りはないようだ。私たちを純粋に歓迎してくれているらしい。

 これはこちらからすると好都合だ。勿論、ある程度の警戒はしているだろうが、それでも思いっきり不信感を持たれるよりは遥かにましだろう。


「いやいや、突然の頼みで申し訳ない。噂のお嬢様を一目見たいと思いまして」


「ははは、確かにお嬢様は美しいですが、噂は噂ですよ。空に飛び立つなど、まるで意味がわからないではありませんか」


 まあ確かに、それはそうである。ただ、噂とはどこか空想的で刺激的な部分がないと広まらないものだ。それが今回は空に飛び立つ、だったのだろう。深く考えるものでもない。


「噂ですからね。尾ひれがついたのでしょう」


 簡単な返事をしながら、塔の中を案内してくれる執事に着いて螺旋状の階段を登っていく。部下たちは塔の前で待たせてある。さすがに同行させることはできなかった。立場を利用して着いてこさせることもできたが、無駄に不信感を持たせることもあるまい。


 数分登ったところで、扉が見えてきた。あそこが姫のいる部屋だろう。

 待っていてください姫。もうすぐ助け出してあげますから……。


「着きましたよ。少々お待ちください。失礼いたします。お嬢様、お話しした方が来てくださいましたよ」


 そう言って執事が扉を開けると、窓から見えた、あの美しい姫がそこにはいた。彼女は知らない人が来て緊張しているのか、執事の方をちらちらと見ながら、それでもお嬢様として毅然とした態度で私に挨拶してきた。


「は、はじめまして」


「はじめまして、小さなお姫様。突然来てしまいすいません。お美しいといううわさを聞いたものですから。ただ、その噂は嘘だったみたいですね。だって、噂以上にお美しい」


 緊張しながらの挨拶があまりにも愛らしくて、つい長々と美しさを語ってしまった。引かれては救い出すときに困るが、大丈夫だろうか。


「あ、ありがとうございます」


 姫は顔を少し赤らめながらそう答えてくれた。うん、やっぱり愛らしい。


「お姫様はこの部屋にいるのがお好きと聞きましたが、何故ここが好きなのですか?」


 ここで、建前の疑問を口にする。彼女はここに囚われているのだ。そうでなくてはならない。


「こ、ここから見るお庭が好きですの」


 違う。


「同じくらいの年の男の子がお世話していますのよ」


 違う!彼女は小汚い中年貴族たちにここに囚われているのだ!まだ幼くてそのことにも気づけていないのか……。


「美しい庭園でしたね。ただ、下ばかり見るのではなく、たまには上を見てみませんか」


「上?」


「はい。空に浮かぶ2つの月も庭園に匹敵するほど美しいですよ」


 そう。貴女は下賤な者たちが蔓延る下に目を向ける必要はないのだ。気高く、美しく、空に浮かぶ双月を見て、外の世界に夢を見るべきなのだ。


「で、でも私、お月様は苦手ですの。少し不気味に感じて……」


 月が不気味?何をおかしなことを。私たちが生まれる前からずっと輝いている月のどこが不気味なのか。神秘的という言葉が一番似合うのが月であろう。


 ええい、もうよい。ここからは強行突破だ。

 大丈夫。私には神がついている。


「大丈夫ですよ。ほら来てください。窓から月を見てみましょう」


 姫の腕をつかんで、多少強引に窓の方へ連れていく。


「や、やめてください……」


「おやめください!」


 そういえば面倒くさい爺がまだいたのか。さて、もう後には引けないがどうするか。


 その時、私の頭の中に噂の一節が浮かび上がってきた。


『最も月に近い美しき姫が空へ飛び立つ日を夢見ている』


 なるほど。神よ、そういうことだったのですね。


「姫、行きますよ!」


「え?」


 私は姫を抱きかかえ、そのまま窓から空へと飛び立った。


「お嬢様!」


 小うるさい爺の声が上空から聞こえる。

 大丈夫。このまま月へ行くことは出来ないが、私には神がついている。確かこの下は、


バッシャーーーン


 そう、下には噴水があったのだ。それがある程度の深さがあることはすでに確認済みであるし、この周りは生垣で大きな音を立てても、パーティー会場からは直接見えないはずだ。


「若様!」


 塔の前で待機させていた部下たちが集まってくる。


「お前たち、姫をおぶれ!このまま連れていくぞ!」


 飛び降りたショックで姫は気を失っているが、命に別状はないだろう。

 姫、このまま救い出してみせますよ。


「ええ、ちょっと!」


 部下たちは突然姫を渡されて困惑している。まさか本当に姫を連れてくるとは思っていなかったのだろう。


 ただ、音を聞いて人が集まってくる気配がする。急がないと逃げ場所がなくなってしまう。


「お前たち急げ!」


 塀を目指し、姫を連れて庭園の迷路を駆け抜ける。塀まで辿り着いたら、部下たちを足場にして外に出て、その後部下たちを引っ張り上げるつもりだ。


 爺が報告したのだろう。衛兵の鎧がこすれる音がだんだんと近づいてくる。

まずいな、流石にしっかりとした装備の衛兵たちを倒す術はない。絶対に追いつかれてはいけないな。


 必死に庭を走り抜けるその刹那、しゃがみ込んで植物をいじっているあの少年と目が合った。


 少年の目は驚きで見開かれていたが、次の瞬間に部下が背負う姫を見つけ状況を判断したのか、キッとこちらを睨みつけながら私の身体にしがみついてきた。


「お嬢様を返せ!」


「放せガキ!」


 身体を揺らして振りほどこうとするが、少年は必死にしがみついている。よほどお嬢様を留めておきたいのだろう。彼はなかなか離れてくれない。

 そうこうしているうちに、どんどん鎧の音が近づいてくる。


 くそっ。

 もう手加減している場合ではないな。そもそも私は姫を救い出すためにここにいるのだ。私以外は皆悪じゃないか。何を迷っていたのだろう。


 そう思い、身体にまとわりついている少年を何度も殴る。

子供の比較的柔らかい骨が折れる感覚が、少年を殴る私のこぶしに伝わってきた。


 その感触に、多少の不快感とそれを抑えて余りある納得感が生まれる。


 ああ、これが正義か。

 子供を殴っても不快感で包まれないのは、この行為が神命だからであろう。さらに言うと、私は彼を殴ってしかるべきだったのだ。だからこそ、この納得感が湧き上がって来ている。


 ついに少年は崩れ落ちるように私から離れた。


 すまないな、少年。これが正義。これが力だ。私には神がついているが、君には姫を閉じ込める薄汚い貴族しかついていない。


 ただ、一つ心残りがある。それは、彼の造ったこの庭園には素直にすごいと感じたことに嘘偽りはなかったということだ。

 このまま去っても構わないが、それは私を感動させたこの少年にとってあまりにもひどいではないか。

 そんな考えが興奮と多幸感にあふれる頭をよぎった。


「これを治療費にでも使うんだな」


 そう言って、足元に転がっている少年に金貨を数枚投げる。彼は今にも気を失いそうな様子だが、それでも恨みのこもった目でこちらを見てくる。


「おいおい、そんな目で見てくれるな。これは神のご意思だ」


 やはり、この少年も神の命を理解できないか。神よ、世界はこんなにも汚らわしかったのですね。


「若様、はやく!」


 部下が私を呼ぶ声が聞こえる。もう鎧の出す金属音がすぐそこまで迫ってきた。


「ではな、少年。いつか神の命が君に下ることを願っているよ」



 そのまま私たちは城を脱出し、姫を救い出すことに成功した。現在、帝国までの帰り道を歩いている。塀を乗り越えて逃走するとは考えていなかったらしく、追手が来る気配も今のところはない。


 私の確信は間違いなかったのだ。神はここまでわかった上で、私に道筋を示してくださっていた。


 すると、一緒に歩いている部下の1人がこちらを見て、不安そうに私に質問してきた。


「若様、うまく姫を連れ出したのはいいですけど、この後どうするんですか」


「どうって、このまま姫を帝国まで連れて帰るだけだ」


「いやいや、我々の身元もわれていますし、国から国に連絡が行きますよ!」


 それはそうだ。

しかし、私たちが何者なのかを忘れてはならない。


「私たちは帝国に所属する貴族だ。あの程度の小国など恐るるに足らず。何も知らぬと突っぱねれば良いのだ」


 質問してきた部下は呆れた表情を浮かべ、返事もせずに私から離れていく。


 そんな部下の態度は気に食わないが、まあいいだろう。なんたって今は気分がいい。囚われの姫をまた一人救い出すことができたのだから。



 達成感に酔いしれる彼の後を、部下たちは少し遅れて着いていく。


「まーた若様がやらかしたな。これで何人目だ?」


「さあな。いちいち数えてられねーよ」


 そう言ってからあくびをした部下の1人につられ、他の部下にもあくびが伝播していく。


 空を見上げると月が地平線に沈み、青い太陽が昇り始めていた。

彼の英雄譚は未だ続いていく。


お読みいただきありがとうございました。

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