計算高い彼女は新倉君のことが好き
これは新倉君視点です。
「クソッ、負けた」
「よっし!俺の勝ち!じゃあ、新倉が罰ゲームな!」
「俺が・・・こいつらに・・・」
俺は新倉真司。どこにでもいる普通の男子高校生だ。今しがたこいつらにテストの点数勝負で負けたばかりの、だ。俺らがやっていた勝負は、自分のテストの点数をどちらが平均に寄せられるかって勝負だ。普通に合計点で競ったら俺に勝ち目がないからな。
そして、この勝負の別ゲームは嘘告白である。あの、卑劣で最低で人の心情を弄ぶ愚かな遊びだ。俺はそれを今からやらなければいけない。
というのも、この勝負はこいつが誘ってきたものだ。罰ゲームも当然こいつが考えた。小心者の俺が自分にリスクのある勝負をするわけないだろ。
で、この罰ゲームの対象はあの桜美林さんだ。
桜美林楓とは文武両道・・・とはいいがたいが、勉学の方は凄まじい成績を持ち、その上美少女。目鼻立ちは整いに整いすぎていて、きれいな黒髪を腰まで飾る、ザ・清楚な見た目をしている。そして、少し茶目っ気はあるが真面目で、男女問わず人気者だ。
そんな彼女に、告白を・・・しかも嘘告白をしようとしているのだ。嘘告白と言っても別に好意がないわけじゃない。俺も人並みの男子なのだから。だが、その好意は、LOVEではないのだ。当たり前だろう。彼女と俺には月とスッポン並みの差があるのだ。釣り合うわけがない。
「なあ、ほかの人にしないか?告白自体はいいけど、嘘告白ってバレたら刺される気がするんだけど」
「大丈夫だって。きっとバレないって」
大丈夫なんだろうか。もしばれたら、学校中の全生徒から死ぬまでボコボコにされる気がするんだけど。そんな俺の不安を搔き消すように目の前にいるこいつが話し出す。
「大丈夫だって。フラれて、あーまたいつものだ。ってなるだけだから」
「それはそうだけど・・・心配なのはお前だよ。言いふらすなよ」
「ああ。モーマンタイ」
ほんとに大丈夫か?俺の学校生活はこいつに懸かっているといっても過言ではない。マジで。それぐらい桜美林さんは人気なのだ。いつも誰かしらは隣にいるってくらいに。って言うかどうやって呼び出そう。
「なあ、桜美林さんの連絡先って持ってたりしない?」
「ん?持ってるぞ。最近貰ったんだよね~」
「そうか。なら教えてくれ」
こいつの自慢に構ってられるほど俺の精神に余裕はない。はーマジでどうしよ。俺はため息をつきつつ、こいつから桜美林さんの連絡先をもらう。って言ってもラインだけどね。
さて、登録したはいいけど、何を送ればいいんだろうか。明日までに告白しなきゃいけないわけだし。まあ、とりあえず無難に挨拶から送るか。
《こんにちは!自分は新倉って言います!勝手に追加してごめんなさい。これからよろしくお願いします!》
こんな感じでいいだろう。文は・・・お世辞にも良いとは言えないが・・・。そんな風に振り返っていると、今俺が持っているスマホから、ピロん♪と音が鳴った。それは、ラインの通知の音なわけだが・・・って桜美林さんからだ。早いな。
≪こんにちは!新倉真司君だよね?これからよろしくね≫
桜美林さん俺の名前知ってたのか。もしかして、全生徒の名前把握してるんじゃないか?ちなみに俺のラインの名前は新倉だけだから。
俺は、目の前にいる諸悪の根源にさよならを言って帰った。考えることが多すぎるのだ。告白の場所とか告白の言葉とか。夜、寝られるだろうか。
そしてやってきた翌日。夜はぐっすり眠れ、クマもなく快調な朝だが、俺は気分が落ちている。それはそうだろう、昨日桜美林さんとのラインで今日の朝に校舎裏呼び出してしまったのだ。仕方ないだろ。朝しか桜美林さんが一人になる時間ってないんだから。
フラれるのがわかって告白するのは憂鬱だ。ああーもっと点数上げときゃよかった。なんで頭のいいあいつが俺より点数低いんだよ。平均もいつもより低かったしさ!ドンピシャで当てんなよ。
この憂鬱は誰かにあたらないとやってられない。諸悪の根源はあいつだし罪悪感は一切ないんだが。俺は昨日から百回はついているため息を百一回にした。桜美林さんも可哀そうだ。こんな俺に時間を取られるなんて。はあ。百二回目。
ここは校舎裏。桜美林さんよりも早く来て待っている状態だ。もうすでに覚悟は決めてある。あとは、事前に決めていた言葉を出して、フラれるだけだ。
そんな風に考えている。ふいに足音が鳴り。目の前に来た桜美林さんに言葉を発す。
「来てくれたんだね」
「うん!で、話って?」
「うん。実は・・・桜美林さんのことがす――」
「ちょっと待ってッ!」
「き――。え?」
不意に止められた俺は素っ頓狂な声を上げる。え?なに?そんなに俺に告白されるのが嫌だったの?え?嫌われるようなことしたか?俺はそんな嫌な考えが頭をぐるぐる駆け巡る。次に彼女がこんな言葉を発した。
「ちょっと待って。私から先に言わせて」
「う、うん。いいけど・・・」
先にってなに?呼び出したのはこっちの方なんだが・・・。そんな考えは次に発せられた彼女の言葉ではるか彼方に飛んでいくことになる。
「すぅーー。新倉君。好きです!私と付き合って!」
深呼吸して発せられた言葉は俺が言おうとしていた言葉だった。
「え?それは俺が――」
そこまで言って俺は気が付いた。俺たち以外に人がいることに。近くにはいないが、声が聞こえる範囲にいる。しかも、桜美林さんと特に仲がいい女子だ。しかも五人。
やられた。俺はそう思った。ここで、桜美林さんの告白を断ったら俺の学校生活は終焉を迎えるだろう。そして有耶無耶にすることもできない。しかも、俺のしたか分からない告白も嘘と言えない状況だ。
そこで俺は桜美林さんに視線を向ける。その顔には覚悟としてやったというドヤ顔がある。こんな状況なのに俺は可愛いと思ってしまう。
「それで、私の告白の返事を・・・」
「あ、ああ。そうだね。・・・いいよ。俺からも付き合ってください」
「やった!」
観念したように俺は了承の言葉を発す。それにしてもなんで・・・はッ!もしかして気づかれてたのか?嘘告白に。そしてその趣返しと言わんばかりに嘘告白を・・・ってないか。演技でこんな笑顔はできないと思う。
ハッっとなって周りを見回す。そこにはもうあの女子たちの姿はなかった。いたのは、うれしさ満点の笑顔で、俺の腕に抱きついている桜美林さんだけだった。
そのまま、ホームルームの予冷が鳴り、腕を組まれたまま教室へと行った。ドアを開けたら、クラス中のみんなは驚いていた。当たり前だろう。これは実写美女と野獣なのだから。でも、一部には桜美林さんを祝福する人もいた。当然あの五人だ。
そのとき、諸悪の根源が血気迫る顔で俺に迫る。
「お前!ほんとに成功したのかよ!」
「ああ。成り行きで・・・」
「くそッ」
と、桜美林さんを睨む諸悪の根源。なんだ?どうして桜美林さんを?するなら俺だろうに。
「おいおい、そんな睨むなよ」
「けっ、もう彼氏気取りかよ」
「彼氏だからな」
急に辛辣になったな諸悪の根源。こいつ、情緒不安定か・・・?まあ、いいか。
ホームルーム開始のチャイムが鳴り俺は席に座る。そこには俺の彼女・・・桜美林楓がいた。




