第六話 そう簡単には帰れない
歩き始めて少し経つと、小屋が遠くに見えた。
「よかった〜」
安堵からか、思わず声が出る。
嬉しくなってついスキップしていると、倒木につまずいた。
「痛た...」
改めてその倒木を見る。
「は?」
思わず声が出る。その倒木は...いや、倒木だと思ったものは、微かに動く木の根だった。
ーーーーービュンッ!!!ーーーーー
瞬間、木の根が鋭くしなり、俺の首を狙う。
「ッ…!」
咄嗟に木の根を避ける...が、微かに頬を掠め、そこから血が出る。
まずい。
そう判断した俺は、一度退き、相手の出方を伺う。
ズズズッ!!!
木の根が蠢き、周りの木を薙ぎ倒しながら、位置をずらしていく。
すると、これでもかというほど巨大な、木の幹が現れる。その中心には、暗い緑色をした、ガラス玉のようなものが見える。
ついに、木の根の本体のお出ましだ。
*
ーーードゴオォォン!!!ーーー
「あぶねっ!」
上から降ってきた木の根を避け、そのまま、木の根をちぎる。
バキッという音とともに、抱えている木の根が、動かなくなる。
ーーが、さっきまで木の根がついていた部分から、新しい木の根が生えてくる。
この化け物巨木の正体は、《カタストロフツリー》
異常なまでの再生力と、無数の丸太のような根を持つ、S級の魔物で、樹齢4000年以上の木が、100分の1の確率で変異する魔物だ。カタストロフツリーを倒すには、幹に埋まっているコアを破壊するしかない。
「チッ...小屋まであと少しだってのによぉ...」
今までにないほどの危機に瀕し、思わず口が悪くなる。
自分の状態を確認すると、体力、魔力ともに、まだ余裕がある。
魔物とはいえ、木であることに変わりはないので、炎属性魔法を放つのが効果的だろうが、迂闊に放つと、周りの樹木に引火し、足場を狭める。最悪の場合、死ぬ。
だったらーーー
「身体強化三倍+玄武化!」
身体強化三倍を体に施し、全身を玄武化で固める。
このフォームは強いが、体が悲鳴を上げるので、長くは持たない。
「さっさとケリ付けてやるぜ、タコが!」
そう言い放つのと同時に地面を蹴り、カタストロフツリーに向かう。
「エアウォール! 」
風魔法で、空気抵抗を弱め、カタストロフリーと距離を詰める。
視界を覆い尽くすほどの根が一気に襲ってくるが、ちぎって、蹴って、殴って、なんとか応戦する。が、仕切れなかった根が、直撃する。
「ッ...!」
しかし、玄武化による強化でなんとか耐え、もう一度、距離を詰め、コアに手を伸ばす。全ての根が、一斉に襲いかかってくる。
ーーあと少し、あと少しでコアに一ー
襲いかかってくる根に抗うために地面を深く踏み込む。
「オァァァァァァ!!!」
やっとの思いで、コアを掴み、そのまま握りつぶす。
パキンッ!という、澄んだ音とともに、カタストロフツリーの動きが止まる。
ーーバキバキバキッ!!ーー
「!?」
轟音とともに、カタストロフッリーの亡骸が倒れる。
「ハア…ハア...勝っ...た...」
身体強化と玄武化を解除した瞬間、疲労がどっと押し寄せる。
「うっ...!」
そして、そのまま膝から崩れ落ち、意識を失った。