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第79話~救出~

 ひどく、腹立たしかったように思う。

 もはや過去系の感情に、僕は今の行動を制御されているような気がして、なんだか不思議な気持ちになった。

 クレアが奮闘していて、人を殺すとまで決意して、それで報われないというのはなんだか理不尽なような、あってはならないような気がして、静観を決めていた僕は行動した。

 即席で作った宇剣局長の『通行許可』……

 あの男の筆跡は一度みたことがあったからよかったものの、もし筆跡がばれたらどうしようかと、一度はひやひやしたものだが、なんどかこの方法で学校に入ったこともあることを思い出し、自信を取り戻した。

 とりあえずバリケードは外せたが、沙耶と出会うためにはあの扉を開けなければいけない。

 いくら稚拙に見えても、あれは宇宙船の外部に取り付けられる扉だ。拳銃程度では煤ぐらいはついても傷一つつかないだろう。

 そうなればあとは宇剣に頼んで開けてもらうしかない。また娘の役に立てることをうれしく思う反面、あの男を説き伏せなければならない苦労を考えて辟易するところもある。

 ……なんとかなるさ。

 なんたって僕は、『ペンタグラム』の家長なんだから。




 


 「……何か用ですか?」

 そう決心して三秒もしなうちに、僕は決意を鈍らせていた。

 クレアのいる橋のすぐそばの扉を開けると、この宇宙局を全貌できる局長室があった。そこには宇宙局の局長にして僕の説き伏せるべき相手、宇剣が沙耶を乗せたロケットを映したモニターを眺めながら局長室の椅子に座っていた。入ってきた僕を気にも留めず、何が面白いのかロケットを見続けている。

 この男、もはや隠す意味がないと思ってか敵意をむき出しにした口調でそう言った。

 「いえ、何も?ただ、少し世間話がしたかっただけですから」

 僕はいつもの笑顔でそれに負けないように心がける。ここで負けて沙耶を死なすわけにはいかないのだ。ここで沙耶が死んだら間違いなくクレアのあとの人生に差し支える。

 「……世間話などしている時間はないのですよ。誰かが私の『通行許可』を勝手に発行したようで……」

 おや、ばれていたのか。……まあ、この部屋にはモニターもあるし、外の様子は筒抜けだったのだろう。

 「まあまあ、あれはあなたの部下を守ってあげたのですよ。でなければあなた、今頃血の海を見ていることになりますよ?」

 「小娘ごときになにができるか。まったく、あなたも最近の子供の典型ですね。自分の信じたことしか信じない。そのほかは意味がないものだと考える」

 ははは、まさかこんな所で説教されるとは思わなかったな。的外れも度合いが過ぎると笑いがこみ上げてくる。

 「……何がおかしいのですか?」

 「いえ、何も?」

 うっかり表情に出ていたようだ。それにしてもこの宇剣という男、思っていた以上に面白い。

 まさか僕が本当に世間話にしに来たわけではないと悟っているはずなのに背中を向けたままでいる。死にたいのかな?ここにいるのがクレアだったら殺されてるよ、あなた。

 「さて、世間話をしましょう。……お願いがありましてね、ロケットのドアを開けてほしいのですよ」

 「無理だな」

 おや、ついに丁寧語が抜けた。……よっぽど怒らせたのだろう。おそらく、この男は地球を救うということに絶対の正義を感じているのだろう。だから、幼い子供を死なすことになんの罪悪感も抱いていない。

 「なぜでしょうか、その理由をお聞かせ願いたい」

 「決まってる、地球のためだ。地球のために、あの小娘には死んでもらわねば」

 おやおや、地球を救う英雄になんて言い草なんだろう。僕ならもう少し敬意を払うけど、この男は違うみたいだ。

 「へえ、そうなんですか。なら、彼女の友人に最後のお別れぐらい、言わせてあげたらどうです?」

 「……最後のお別れ、か。……まあ、いいだろう」

 よかった、この人がまだ人間・・で。もし人間以外だったらどうしようかと思ったよ。……まあ、これで僕の役目は終わり、あとはクレア次第。……じゃあ、頑張ってね。

 「ありがとうございます」 

 心にもない言葉を述べて、僕は部屋を出た。

 









 「沙耶!」

 「クレア!」

 私たちは急に開いた扉のおかげで、再会することができた。

 沙耶の体を抱きしめ、その背をなでる。

 大丈夫、沙耶はここにいる、幻なんかじゃない。

 「沙耶……逃げよう。ここにいたら殺される」

 本当は宇宙に放り出されるのだが、私的には一緒だった。

 さ、いこ、と私は沙耶の手を取り、そして――

 「……だめ」

 そして、逃げれなかった。沙耶に拒まれた。

 「……え?」

 振り返ると、沙耶は今にも思いつめた表情で、悲しそうな表情で、私の手を振り払っていた。

 「……ごめん、クレア。私、いけない」

 ……まさか、ばれたのか?殺人をしようとしたことを、知られたのか?だから、血に汚れた自分とはいけない、そう言っているのだろうか?

 「い、今はそんな、いやとか言ってる場合じゃ……」

 「違うの!私、生きてちゃいけないんだ!」

 私はその言葉を聞いて、さっきの予想通りだったらどれほどよかっただろうか、と思うのだった。

 「な、何言ってるのよ……?」

 私の声はかすれていたかも知れない。小さすぎて聞こえなかったかもしれない。それぐらい動揺していた。

 「私、もう生きてちゃいけないの!死ぬしかないの!私は死ぬべき人間なの!」

 「……そ、そんな……」

 沙耶は、きっと、心を造り変えたのだ。……死ななければならない、と思い込ませて、死にたくない、という思いを封殺したのだ。

 だから、……だけど。

 「私、沙耶の爆弾外せるかもしれない」

 だから、私は沙耶を助けなきゃ、って思う。

 こんな悲しい覚悟を沙耶にさせて、私だけが何も示さないなんて、おかしい。たとえ嫌われても、たとえ二度と口を利けなくなったとしても、私は、沙耶を救いたい。

 「ちょっと、ごめんね」

 そう言うと、いまだ驚きで二の句が継げない沙耶の首に手を当てる。

 私の能力、『ユージュアクション』。私はこれのせいで今まで散々な目に遭ってきた。

 でも、今だけはこの能力に感謝できた。感謝の気持ちしか湧いてこない。

 この能力のおかげで、私は沙耶を助けれるのだ。

 頭に情報が流れてくる……

 爆弾。

 爆弾、爆弾としての情報が、頭の中に次々に湧いてくる。沙耶の首にある爆弾の全てを理解する。まるで当たり前のように、解除方法がわかる。まるで当たり前のように、外し方がわかる。

 「ごめんね、ちょっと怖いかも」

 私はそう断って、コートからゴツめのナイフを取り出した。片刃の鋭いナイフだ。沙耶の首の皮と、爆弾の帯の間にその刃を滑り込ませる。ちょっと手元が狂ったら沙耶の首に傷がつく。

 「く、クレア、いったいどこでそんなの……」

 「今は黙ってて。すぐに終わるから」

 右、左、右……刃を滑らせ、表面を削っていく。

 すぐに、薄皮一枚のところに行き当たり、それが爆弾の基部だとわかる。

 これを破壊すれば沙耶は助かる。同時に地球も助かる。

 あと、少し……少し!

 









 「……やった!」

 沙耶を長らく苦しめていた枷が、ようやく外れた。

 

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