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第61話〜海水浴、開始!〜

 海、海、海!

 見渡す限りの青い水!

 一体、この海の向こうには何があるのだろう?

 ああ、知りたいな!

 「クレア、行きすぎてはいけませんよ」

 「あ、わかってるって!」

 浅瀬で遊んでいたら、私の思考を読み取ったみたいにミリアお姉ちゃんが忠告してきた。

 「あはは、なんかクレアそのまま向こう岸まで泳いでやる、って顔してたもん、誰でもわかるよ?」

 「む、そうなの?」

 そんなわかりやすい顔してったっけ、私?

 ふと気になって周りを見渡すと、皆がほかの観光客にまぎれてだがはっきりと見えた。

 みんな思い思いの方法で、思う存分海を楽しんでいる。

 お父さんお母さんは浜のビーチパラソルの下で二人っきり(ほかに観光客もいるのだが)で楽しそうに会話している。

 リリーお姉ちゃん、コトリお姉ちゃん、ララお姉ちゃんの三人は姉妹仲良くビーチボールで遊んでいる。……ララお姉ちゃんがアクティブに遊んでるとこ初めて見た。結構楽しそうに遊ぶんだなあ……。顔は無表情のままだけど。

 ということはミリアお姉ちゃんとアゲハだけが私たちのお守をしてくれているのか。

 「アゲハ、遊んできたら?」

 ミリアお姉ちゃんが母親っぽくそう言うと彼女は、

 「え……いいの?じゃあ……」

 そう言ってララお姉ちゃんのところへと向かって行った。

 「ごめんね、お姉ちゃん」

 私は一応そう言っておく。お姉ちゃんだって遊びたいはずなのに、私たちがいるせいで遊べなくなってしまったから。

 「子供はそんなこと気にしなくていいの!私はクレアと沙耶ちゃんと遊べるだけで十分よ」

 「私も!」

 沙耶がうれしそうに言う。

 「クレアはうれしくないの?」

 「……そんなわけないじゃない。うれしいわ、ありがとう、ミリアお姉ちゃん」

 「どういたしまして」

 私はコートのまま、遊びを再開する。

 ん〜今度はもぐってみよう。どこまで潜れるかな?

 浅瀬だからそう深くはないけど、試してみたい。

 そう思うと同時に、私はもぐった。















 ―――ルウ達の場合――

 「くすくす、あんなに楽しそうにしてる。よかったよかった。来て正解だったね、サラ」

 ルウは海を見ながら、となりで子供たちの遊ぶ様を見てほほ笑んでいるサラにそう言った。

 「……そうね」

 サラも海を見たまま答える。

 彼女は『家族』と海に来たということよりも、『ルウ』と海に来たということがうれしくてうれしくてたまらないのだ。

 サラは感情が高ぶりすぎるとかえって冷静になるようで、今もその状態になっていた。

 「……ルウさあ……私女の子よ?しかも完璧フリーの。一緒に泳ごうとかみじんも思わないわけ?」

 サラが不満げにつぶやいた。ルウが朴念仁なのは今に始まったことではないが、海に来てまでその朴念仁っぷりを発揮することはないでしょうに、とか思いながら。

 「出会ったときに川で自殺未遂していたのはどこの誰だったかな?水が苦手なのに泳ぎに誘えるわけないだろう?」

 痛いところをつかれてぐうとうなるサラだったが、すぐに、

 「今なら大丈夫かもしれないわよ?泳ぐ?」

 そう強がった。

 「……水着も持ってない人がどうやって?」

 もう、サラには何も言えなくなってしまった。

 「この……この………この……」

 『この』、に続く罵倒の言葉が『朴念仁』以外に思いつかず、黙るサラ。もしここでルウに

 『ボクネンジンって何?』と訊かれた場合まともに答えられるかどうかわからないからだ。

 「……っく」

 サラにできることと言えば、そっぽを向いて不機嫌を知らせることぐらいだった。

 














      ―――リリー、ララ、コトリ、アゲハの場合―――

 


 


 「たぁ!」

 ポーン、と丸いビーチボールが海上で上がる。

 それをしたのは背の高い、ペンタグラム家の三女コトリだった。

 金に輝く髪は太陽の光を反射して輝き、その先端は海の中でたゆたっている。

 つまり彼女たちが水上バレーをしているのは足が届かないほどの深いところだった。身体は全て母なる海に預け、己の腕力、バランス感覚だけでボールを打つ。

 「とあ!」

 コトリのトスを受けたのは、超がつくほどのスポーツ大好きっ子、リリーである。

 リリーはコトリからのふらふらと揺れるトスをなんなく敵陣に返すと、すぐさまレシーブができる体制にうつる。溺れるかもと心配しているコトリとは大違いだ。

 「………………!!」

 無言で正確に受けやすいよう機械みたいに冷静にトスを上げたのは、終始無表情のララ。

 一見無表情に見えるが、トスがきれいに決まったのを見て「……………よし」とうれしそうに言うところから見ても、楽しんでいるようだった。

 「行きます!とりゃー!」

 その練習の時のようなトスをすさまじい勢いでアタックしたのは、最近あたらしく家族になった吸血鬼、アゲハだった。

 夜の住人のはずの吸血鬼が真昼間まっぴるまから海で遊ぶなど本来はあり得ないことなのだろうが、アゲハは『唯一変化を許容された吸血鬼』、シイナのクローンである。その本質に変わりはないようである。

 彼女のアタックはリリーのブロックむなく海中に潜った。

 「あ〜あ!負けちまった!」

 悔しそうにリリーは言うが、どこか楽しそうな声だった。

 ――ふと、その時。

 「……………………………え」

 ララが、雑多な観光客の中に異質な『心』を見た。

 ララは『心透視』という人の心を見透かす能力を持つ少女である。夏の海のようにたくさんの心を一度に見る状況は慣れていたが、今のように特殊な心の持ち主に会ったことは少なかった。

 「………………………気のせい」 

 はやる気持ちを抑えながら、彼女はそうつぶやいた。

 そう決めると、ララはもうそのことは気に留めず、リリー達との水上バレーに集中した。

 
















 そんな風に各々《おのおの》が過ごしているうちに、あっという間に時間が過ぎた。

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