第59話〜沙耶と旅行!〜
流れるような白い雲。どこまでも続く、空と海の混じった水平線。照りつける太陽。そして、夏の風物詩、青く、広く、そして何よりも冷たい海。
「うわ〜!!!」
私はここ、琴乃若のはずれにある海に海水浴にきていた。この時期になるとここは観光客でにぎわうらしく、今も海水浴にきた人たちがこの着替え場所兼海の家からでも見えた。
「ははは、あまりはしゃぎすぎてこけても知らないよ?」
普段着のお父さんが浜辺に向かって走り出した私に注意した。
「もう、クレアだってもう子供じゃないのよ?そう注意しなくてもいいんじゃない?」
同じく普段着のお母さんがお父さんをたしなめた。
「そうだね。……みんなは?」
「えっとね、ミリアお姉ちゃんたちはまだ水着に着替えてるよ!もうすぐ来ると思うから!」
この海には私、お父さんお母さん、ミリアお姉ちゃん、リリーお姉ちゃん、ララお姉ちゃん、アゲハ、それからあと一人、の8人で来た。お父さんとお母さんは泳ぐ気ゼロで、水着すら持ってきていない。どうやらお母さんは水が苦手で、お父さんは泳ぎが下手だから嫌らしい。
ちなみに私はいつものコートを羽織っている。コートは防水性だし、中に水着も来ているのでこのまま海に入っても何ら問題はない。すこし周りから変な眼で見られるぐらいだ。
「クレア〜!」
「あ、沙耶!」
海の家から花柄ワンピースのかわいらしい水着で出てきたのは、私の親友、黒月沙耶。
彼女は私の浜辺まで走ってくると、一緒に泳ごう?と提案してきた。
「あ、待って。お姉ちゃんたち待たなきゃ」
「あ………うん!そうだね、皆で泳いだ方が楽しいよね!」
沙耶は最初は残念そうにしていたが、すぐに明るい顔になった。
「待たせてごめんね、クレア、沙耶ちゃん」
最初に出てきたのは、ミリアお姉ちゃんだった。
長い黒髪とミリアお姉ちゃんに合う清楚な白のセパレートタイプの水着を着ている彼女は、男どもが群がらないか心配になるほどきれいだった。
「どう、似合う?」
お姉ちゃんはそう言ってくるりとその場で一回転。
「似合う、似合うからあんまり目立たないで!」
もし男どもに目をつけられたらどうするのよ!
「え〜どうしてそんなこと言うのクレア?ミリアさんきれいだよ?」
「きれいだから困ってるの!」
私の気苦労、二人は全くわかってくれない。
そんな風に私が四苦八苦していると、海の家の方から声が聞こえた。
「お〜い!クレア!ミリア姉ちゃん!」
「みんな楽しんでる?」
「……………………恥ずかしい」
リリーお姉ちゃんはスポーツ好きらしく競泳用の水着で、コトリお姉ちゃんが派手なオレンジのビキニ、ララお姉ちゃんは上は普通のスポーツブラのような水着で、下はジーパンを短く切ったような水着だった。ララお姉ちゃんが白のキャミソールしかきているところ見たことがない私としては、かなり新鮮な姿だった。
恥ずかしいというのだから、お姉ちゃんなりに冒険したんだろう。似合ってるからいいけど。
「………さて、みんなで泳ご!」
私は沙耶の手を引いて海へ突進する。うわ〜!とかきゃ〜!とか声をあげていたかもしれない。沙耶も私とおんなじ感じだ。
いつもよりも浮かれた私をお父さんたちはぽかんとした顔で眺めていたが、そんなの気にならない。
なぜなら今は、人生初の夏休み、なのだから。




