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第5話〜昔話〜

 ざわざわとした教室の中、私は自分の席で一人腕を組みその様子を眺める。

 次の時間は体育。私が楽しみにする教科の内の一つだ。

 「ねえ、クレアは着替えないの?」

 私が斜に構えていると、親友の黒月くろつき沙耶さやが話しかけてきた。

 黒い髪の毛に漆黒の瞳。子供らしい純粋さと、大人のような清楚さがある女の子。

 彼女が転校当日に話しかけてきてくれたからこそ、今私はクラスで完全に孤立せずに済んでいる。

 「ええ。男がいるし、コート脱ぎたくないし」

 私がそう言うと、沙耶は呆れたように首を振った。

 「やれやれ……そんなになんで男が嫌いなの?……べつに、言わなくてもいいけどさ。それはいいとして、なんでコート脱ぎたくないの?さっきの名前のこととか関係してたりする?」

 名前のこと、と言えばさっきの授業の、時間のことか。

 私は担任に本名を呼ばれて、らしくもなく感情を爆発させてしまった。

 「……クレーシアって、愚か者がいました」

 私は、どこか遠い国で起こった出来事のように話し始める。

 確かに起こったのは遠い世界だけど、当事者はここにいる。

 「その子は本当に、どうしようもなく愚かでした。親が無く、他に家族もいないので、常に飢えていました。――愛というものに」

 これがお父さんたちと出逢う前なら、『ありもしないもの』と加えていただろう。

 沙耶は私の言葉に真剣な表情で聞いている。……そんなに耳を傾けたところで、いいことなんて一つもないのに。

 「だから、その男が言った言葉に、愚か者は心奪われてしまいました。男はこう言いました。

 『俺のもとに来い』

 と。

 その言葉を自分に家族ができると早合点した愚か者は、必死で気に入られようと、無邪気で無垢な笑顔で、言いました。

 『わたし、くれーしあ。あなたはなんてなまえなの?』

 と。すると男は笑いました。邪悪で酷薄な笑みでした。しかし、愚かな彼女は笑顔の意味に気づきません。男は言いました。

 『俺の名前は、―――」

 そこで、話を止める。止めざるを得なかった。急に、吐き気が込み上げてきたから。

 「―――!」

 口を押さえ、必死で耐える。気持ち悪い。世界が急に、遠くに行ってしまったみたいに、音が聞こえにくくなった。

 沙耶が私に背をさすり、名前を呼んでいる。クレーシアではなく、私が望んだ私の名前を。

 まだ?もう3年以上も経っているのに、まだ、あいつの名前も呼べないの?呼び捨てにすることが、怖いの?刷り込まれた恐怖心が、消えないの!?

 別に、呼び捨てにしたところで罰が与えられるわけでもないのに。もう、苦痛に怯えることはないというのに!?いつになったら、私は解放されるの?

 「クレア!無理に話さなくていいから!」

 沙耶が叫んでいるのがどこか遠くに感じる。

 吐きそうになるのを必死で押さえて、私は話す。これだけは、知ってもらいたかったから。お母さんにも言ったことのない秘密を、知ってもらいたかった。

 「―――だ』

 男の名前を、愚か者は必死で覚えようとします。何度も何度も名前を言う愚か者を、男はわらいます。しかし、愚か者はその愚かさゆえに、男が自分に微笑んでくれているものだとばかり、思っていました。

 『うん、おぼえたよ!おじちゃん!じゃあ、おじちゃんのおうちにいこう!』

 愚か者はそう言って、自ら、地獄へ向かおうとします。男もべつに、それを阻もうとはしません。

 『ああ、早く行こうな。歓迎してやるからよ』

 その歓迎の意味も理解できない愚か者は、そのまま、地獄の釜へと、飛び込んでいきました、とさ……」

 やっと、それだけを言うと、急激に意識のボリュームが下がっていった。

 きっと、昔のことを思い出しすぎたせいだ。だから、早く忘れるためにも、一度意識を落とそうとしているんだ。

 ……こんな気分、嫌だな。

 だから、そう大して抗わずに。













 私は、意識を失った。

 ……過去の話をしただけで気絶してしまうなんて、私はなんて弱いんだろう?

 

 


 はい、今回は少し更新が遅れてしまいました。すみませんでした!少し書くのに手間取ってしまい、気が付いたら12時を超えていて……本当にすみませんでした!

 

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