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第57話〜続・家庭訪問〜

 「約束……ですか?」

 楓は娘の事情を知らない理由に、疑問に思った。普通家族である人間の事情を知らないでそのまま過ごせるものだろうか、と。

 「ええ。約束です。なにひとつ訊かない、でも家族として一緒に暮らそう。そう、クレアを引き取ったときに約束したんです。……約束は、守らないといけませんからね」

 引き取った、ということは養子なんだ、と楓は二人の異常に近い年齢差を納得していた。

 「ということは、クレアさんのことは誰もしらない、と?」

 「いえ、サラ……母親が知っています。どうもサラにだけは心を許せるみたいで……」

 そう少年が言うと、

 「お母さんだけじゃない!ミリアお姉ちゃんにもリリーお姉ちゃんにもコトリお姉ちゃんもララお姉ちゃんにもちゃんと話した!」

 クレアが即座に訂正を入れた。

 「そうなの?じゃあ知らないのは僕だけ、かあ……ま、約束だからね」

 そう言うだけで訊こうともしない少年に、楓は感心する。普通大人でも訊かずにはいられない状況であろう。好奇心旺盛な年頃なのに訊こうとする気持ちを抑えられるなんて、この人はよっぽど人間ができているんだろうな。

 そう心の中で評価していると、ふと疑問がわいた。

 「そう言えば、そのサラさんって人は?」

 楓は小等部の教員なので、高等部の生徒とはかかわりがないのだ。もし彼女が高等部も受け持っていたら、『赤髪の問題児』、サラ・イーストスカイの名を忘れるはずがないだろう。

 「サラは今補習です。なんでも全教科で赤点取ったとか……。『髪だけでなく紙まで赤いなんてな』って嫌味言われたらしいですよ。まったく、少しは勉強すればいいのに」

 まるで本当の親のような口調で、少年は言った。あまりにその言葉が似合っていたので楓もつい、

 「あはは、そうですねえ」

 と愛想笑いをしていた。それは、教師が親にする対応であった。

 「さて……ほかに何かお話はありませんか?」

 少年が話しを切り替えて言った。

 「えっと……今は特にありませんね。あ、夏休みのことですが、これ、小冊子造りましたので目を通していてください」

 テーブルの上に、『夏休みのしおり』と書かれた定番の小冊子を出す。少年はそれを受け取り、パラパラとめくる。

 「……クレア、危険なことや火遊びはだめなんだってさ。武器作りは夏休みの間は控えないとね」

 最初のほうの『夏休みの注意点』のところで、少年がクレアに言った。

 「え、うそ!?……あ、ほんとだ。え〜私の唯一の趣味が……」

 武器作りなんてやめてください!と言いそうになったが、よく考えたら子供のすることだ、せいぜいエアガンでも造っているんだろう。そう見当をつけると、楓は、

 「ほどほどにして下さったら構いませんよ。あんまり危険なのはいけませんが」

 と、そう注釈した。

 「ありがとう、先生!うん、あんまり危険なのは造らない!せいぜい腕が吹き飛ぶ程度で我慢しとく!じゃ、もういいよね、行ってきます!」

 そう言うと確認もまたずにクレアは二階へと上がっていった。

 











 「………え?腕が吹き飛ぶ、程度・・?」

 気付かなくてもいいような疑問に、楓は気付いた。


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