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第54話〜家族、絆、そして……〜

 「いたた……強いな、クレア」

 勝利を確信したクレアが帰宅したあとのリンク邸。

 リンクはボロボロになった黒装束を力を使って修復すると、やれやれと頭を振った。

 「……まさかあんな子供にやられかけるとはな。俺も耄碌したもんだ。……なあ、エリア?」

 リンクは後ろの空間に話しかける。

 「ほんとにね。あなたそろそろ引退かしら?……まあ、クレアの強さは意外だったけど」

 これが、リンク唯一の誤算だった。

 まさか小学4年生、それもいまだ不老の魔法もかけてもらえていないルウの娘にやられるとは思わなかった。

 油断していたのは最初だけで、すぐに気を入れなおしたのだが、普段の圧倒的な戦闘は展開できなかった。

 「……なにがあったんだろうな」

 心配そうにリンクがつぶやく。

 「え?」

 「いったいあの子に何があったんだろうな。ちょっと腕が立つぐらいだったら何も思わねえが、俺と対等に戦える腕なんて、普通女が持てるもんじゃない。……いったい何が、あの子をあそこまで強くしたんだ?多分、まともな理由じゃねえはずだ。……その理由、今でも引きずってなきゃいいが……」

 リンクはたいてい戦えば相手の環境を推測できる。それはよくマンガなどで言われる『こぶしで語り合う』というものだが、今回クレアが語ったのは、彼女の強さ、それだけだった。

 「……まあ、縁があったらまた会うさ。考えるのは、その時でいいや」

 「……そう」

 クレアの強さが十分にわかっただけでリンクは十分だった。別に相手の過去が知りたいわけではないのだ、クレアのことは考えても詮無いことと、思考を放棄した。

 「さて、この家はどうすりゃいいんだ?まさか俺が喧嘩吹っ掛けておいてルウんとこに弁償させるわけにもいかないしなあ……」

 「……まあ、サクラもいることだし、少しづつ建て直しましょ」

 エリアは淡々といい、さっそく手近にあった元・玄関の木片を手に取った――














 クレアが家に戻ると、ミリアがいた。

 玄関にクレアを迎える格好で、みんなが集まっている。その中にミリアの姿があることを、クレアはすぐにわからなかった。

 「……お姉ちゃん」

 一瞬彼女は驚いた表情になって、そしてすぐにうれしそうな顔になる。

 「……クレア。君に訊きたいことがある」

 ミリアに飛びつこうとしたクレアを、ルウの質問が押しとどめた。

 「……なに?」

 ミリアに進む足を止め、ルウの方を向いてとげのある言い方でクレアは言った。

 「君はミリアとアゲハが家にいてもいいのかい?アゲハは元君と戦った『イノベート』だよ?もし敵になったら――」

 「いいわ」 

 言葉を言い終わらないうちに、クレアは答えた。

 「私はアゲハもミリアお姉ちゃんも認める。もし敵になったとしても、殺さない。拷問もしない。話を聞いて、間違っていたら正すし、正しかったら協力する。教えてくれなくても、絶対に暴力は使わない。敵でなければ、一緒に笑って、一緒に泣いて、一緒に怒って、一緒に喧嘩する。

 

 

 


 ――それが、家族でしょ?」

 ルウは、何も言えなくなった。リリー達は笑顔ではしゃぎ始めた。

 ルウは疑問に思った。男が怖くて、異常に敵に対して敏感な彼女が、『敵でもいい』と?

 「……どうして、そんなにもアゲハを信じるんだい?君たち、一度も会話したことないだろう?それなのに、どうして?」

 その質問に、玄関は静まり返った。ルウの様子が今までと違っていたからだ。彼は本気で疑問に思った。演技でも、成長を促すためのものでもなく単純にルウ個人として、なぜこんな見ず知らずの人間を信じれるのかが心底疑問だった。

 「……それはね」

 クレアはミリアの手を握り、一度姉の瞳を見る。

 自信なさげだが、強い意志の感じれる瞳。その瞳を見て、クレアはさらに確信した。

 ルウの方を向き、つないだ手を彼の方に向けて、言う。

 「これは、お姉ちゃんと私との絆なの。このつないだ手はすぐに離せるけど、絆は切れない。私はお姉ちゃんを信じるし、お姉ちゃんは私を信じるという、誓いなの。だから――私は、お姉ちゃんが信じたアゲハを、信じる!アゲハは家族にしても大丈夫だと感じたお姉ちゃんの感覚を信じる!私はミリアお姉ちゃんとアゲハを、信じきる!たとえ敵に見えたとしても、信じてみせる!」

 そこまでクレアが言った時だ。

 






 パチパチパチ







 拍手が、部屋の奥からした。

 「よくいったわ、クレア」

 それはクレアの母親、サラのものだった。

 「信じた人の信じたものを信じる――口では言えても、実際にするのはとても難しいことね。誓った限りは、貫きなさいよ?」

 クレアには、サラが急に母親らしくなったように感じた。

 「あ、うん!もちろん!」

 クレアは自信たっぷりに答えた。

 するとサラはルウの方を向き、指をさしてしかりつけるように言った。

 「ルウ!あんたね、ここまで娘に言わせといて方針変えないなんてバカなこと言うんじゃないでしょうね!?」

 ルウはサラの言葉に一瞬面食らったような顔した。

 まさかサラにこう説教されるとは思っていなかったのだ。サラには何も指示をしていなかったのに、クレアに対する思いに心打たれて言ったのだろう。ルウは驚きの顔から緩やかないつものほほ笑みに戻ると、照れくさそうに言った。

 「………しかたないな。みんなが言うなら、認めてあげてもいいよ。ようこそ、我が家へ、アゲハ・ペンタグラム」

 プイ、と顔をそむけけてルウは言ったが、声には親愛の情が込められていた。

 歓声が、娘たちの間で起こった。みんなが抱き合い、長女と新しい家族を歓迎する。 

 「よかったな、ミリア姉ちゃん!お帰り!」

 「………………帰ってきてくれてありがとう」

 「お帰り!ミリア姉さん!」

 みんな口ぐちにおかえりと、帰宅を喜ぶ言葉を抱きしめながら言っていく。

 「ちょ、ちょっとみんな!」

 ミリアは、一度、抱きついてくる妹たちを止めた。

 「どうしたの、お姉ちゃん」

 「ちょっとしなきゃいけないことがあって」

 ミリアはそう、嬉しそうにいった。

 広い玄関で、ミリアはルウの前に立つ。アゲハも、それに倣って隣に立つ。

 そして、元気よく、言う。

















 「よろしくお願いします、お父さん」

 「よろしくお願いします!おじいちゃん!」

 二人の少女は笑顔で、そう挨拶をした。

 



















 ――こうして、『ペンタグラム』がまた一段と、騒がしく幸せなものになった。

 はい、ご愛読ありがとうございます、作者のコノハです!

 これでいったんはパートは終わりと相成ります。

 次からはそうですね、夏らしいと言えば夏らしい、学生らしいあるイベントから、になりますね。

 そのイベントとはなんでしょうか?想像してみてください。

 では、今まで愚かで稚拙な文章を読んでいただき、ありがとうございました!

 では、次の話へ、行きましょうか。

 


 コメント、ご感想お待ちしております!読者様の一言が、作者の勉強になります!よろしくお願いします!

 

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