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第53話〜覚悟と、戦闘と〜

 「……今更なんの用だ、ミリア」

 家に転がり込むように入ってきた彼女に、彼らしからぬ厳しい声でルウは言った。

 「……おと、ルウさん」

 「何の用かと訊いている。用がないなら出て行け。僕の家族に触れるな」

 ミリアは急に悲しくなってきた。彼のこんな態度は、一緒に旅をしたミリアは一度や二度は見たことがある。けれど、それが自分に向いていることなど、今までなかった。

 もう、このまま帰ってしまおうか。

 そう、ミリアが思った時だ。

 「お父さん!」

 くじけかけたミリアを励ますように、リリーの声が飛び出てきた。

 「……なんだい、リリー?」

 「私はお父さんに感謝してる!でも、ミリア姉ちゃんにもおんなじぐらい感謝してるんだ!いいじゃん、別にアゲハ一人ぐらい!」

 「敵になるかもしれないんだよ?」

 打って変って優しく、諭すように言うルウ。彼は家族と敵とでは態度にひどく差がある。その差はサラは初めて見たが、サラ以外の面々には見慣れたものだった。

 「いい!別に、敵に回ってもいい!私はみんなで暮らしたいんだ!コト姉とミリア姉ちゃん、アゲハにララにクレア、お父さん、サラさん!みんな一緒に暮らしたいんだ!もしできないなら、私はこの家を出ていく!もう目の前にいる人間を助けられない家にいる意味なんてない!」

 「……………………………私も、リリー姉さんに賛成。私も、アゲハ、ミリア姉さんを含むみんなで一緒にいたい。できないなら、私がここにいる理由はない」

 控えめだけど、強いララの主張。

 「私、ミリアお姉さんと、アゲハさんとがいなければこの家はもう『ペンタグラム』じゃないと思う。『みんなの幸せのための家族』じゃなくなると思う。……私は『ペンタグラム』の娘であって、独断ですべてを決める亭主関白の娘になったつもりはないわ」

 コトリが言ったのは、ルウがずっと前に言った理想論。

 「……そうかもしれない。僕は、幸せな家族がほしい。親はいないけど、家族はできるから。幸せな家族と一緒に、ずっと過ごしていたい。……君たちは、ミリアとアゲハに、家族でいてほしいんだね?」

 正直な話、ルウはここまで強く主張されるとは思っていなかった。せいぜい、こうしたらどと提案するのが精一杯、と思っていたのだ。

 それをはるかに凌駕する強い主張。彼女たちの心のよりどころであろうこの家を出ていくと言わしめるほど、彼女たちの決意と覚悟は半端なものではなかった。

 「……クレア次第だよ」

 「え?」

 三人が口をそろえて言う。

 「君たちの意思はわかった。でもクレアの意思をまだ訊いていない。彼女がもし反対だったら、諦めるんだ」 

 その言葉に、三人は大はしゃぎした。

 「やった!もう決まったようなもんだ!」

 「………………………これで、ミリアが帰ってくる」

 「新しい家族も増えるわ!」

 








 彼女たちは、クレアが反対するなどということはみじんも考えていなかった。












 ところは変わって、リンク邸、異界局。

 もはや家と呼べなくなった建物で、黒装束の吸血鬼とコートを羽織った少女はまだ戦闘を続けていた。

 両者ともが激戦で疲弊し、肩で息をしていた。無限の体力と生命力を誇る吸血鬼であるリンクさえも、だ。

 「はあ……はあ……はあ……お、お前何もんだよ……はあ……ふ、普通……お、俺に……ついてこれるなんて、はあ……オリンピック選手だって、はあ……あり得ねえぞ……」

 「はあ……あ、あんたこそ……よく、五十ミリ銃弾何発も、はあ……食らって、生きてれるわね……化け物じゃないの?はあ……」

 言いざま、クレアは再び拳銃を構え、照準をつけると同時に発射。

 「グアッ……!!」

 リンクの上半身と家の壁が吹き飛び、壁に風穴があく。

 リンクは一瞬でもとにもどったが、疲労までは回復しないようだ。

 「……っ。ミリアを探さなくていいのか?」

 もはや体力勝負では戦えないと、リンクは口を開いた。ここまで追い詰められたのは、実に5635兆2436億5687万9982年ぶりだった。その時はまだ力の使いかたが慣れていなかったからだが、まさか全力でやってここまでやられるとは、本気で予想外だった。

 「別に」

 リンクの問いにクレアは簡潔に答え、銃弾を一発撃つ。

 リンクはぎりぎりでそれをよけ、続ける。

 「いいのか?ミリアがどこにいくのか分かってねえんだろ?また探す羽目になるぜ?」

 「いいの。お父さんのところにいるから」

 クレアはまたも簡潔に答え、銃弾を一発。今度もぎりぎりでよける。

 「ルウから逃げてきたんだろ?また逃げたかもしれねえぜ?」

 これで、クレアを揺さぶるつもりだった。

 ……しかし。

 「お姉ちゃんは家に帰るわ。お父さんだけなら、帰りはしないでしょうね」

 「なら、早く――」

 にっこりとほほ笑んで、クレアは引き金を引いた。















 「――でも、私達は『ペンタグラム』。暖かい家族がいる限り、ミリアお姉ちゃんはきっと戻る」

 クレアはリリー達を一切疑うことなく、戦いきった。

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