第52話〜酔狂〜
「お姉ちゃん!」
バアン!
ミリアの部屋の扉が、大きな音とともに開かれた。
部屋のベッドに腰かけていたミリアとアゲハは、ビクりと肩をすくませたが、部屋に入ってきた人物を見て、目を見開いた。
「く、クレア?そ、そうしてここに……」
「あ、あなたは……」
「お姉ちゃん!大丈夫!?何にもされてない?アゲハは無事?ちゃんと生きてる?」
クレアはミリアに近付くと、そう矢継ぎ早にまくしたてた。
「え、ちょっとクレア?」
「早くでよう!こんな変態のいるとこ、いちゃだめ!アゲハを連れて、早く!」
「え、え?」
クレアは答えを待つことなく、ミリアの手をとり、引っ張る。
「あ、アゲハ!」
「あ、うん!」
手を取られながら、ミリアはアゲハを呼んだ。彼女は言われなくても、ついてきた。
「いい?私が引きつけるから、二人は家に向かって走って!」
「え?」
さきほどから二人は疑問符が絶えない。
「いいから!早く!」
クレアは下に降りると、リンクの姿を探す。
「今あいつはいないわ!早く!」
「え、だからなんで……」
「早く!」
クレアにせかされ、戸惑いながらも、玄関が崩壊したリンクの家を出た。
「……クハハ、やるねえ、お譲ちゃん」
リンクは悪ふざけなのか、物語に出てくるような吸血鬼の口調で言った。
何を勘違いしたのかは知らないが、どうやらクレアはリンクを敵だと思っているようだ。
ここでまともな人間なら、誤解を解こうとするだろう。しかし、リンクは違った。
「よくも俺の夕食を奪ってくれたな?」
完全に、遊びで悪役になることを決めたのだ。
「……覚悟しなさい!ミリアお姉ちゃんが家に着くまで、私が相手してあげる!私の本気、見せてあげるわ!」
じゃらじゃらじゃらと、コートから大小さまざまな道具を取り出す。
道具、というよりは兵器に近いそれらは、すべてがクレアの手によくなじんだ。それは彼女が『ユージュアクション』を持っているからだけでなく、すべてが彼女自身の自作だからだろう。
「……さあ、勝負よ吸血鬼!」
クレアは、意思高らかに叫んだ。




