第49話〜二人の親〜
生徒会室。
エリアとルウは長テーブルに向いあって座った。
「……で、ご用件は?」
ルウが何かの重役のような口調で言う。
「さっきの子が探していた人……ミリアといったかしら?あの子、うちで預かってるの。……シイナの形見と一緒にね」
「……シイナの形見?」
エリアの言った意味が理解できず、ルウは訊いた。
「ええ。私の娘、シイナそっくりの女の子。……聞いた話じゃクローンって言うじゃない。だから気にかけているのだけれど……」
「……娘?エリア、子供がいたのか?」
「ええ。あなたみたいにどこからか拾ってきたんじゃなく、ちゃんとおなかを痛めて産んだ子よ。……もう、あの子はいなくなってしまったけれどね」
「……そうなんだ……」
シイナ。彼女は『イノベート』の『イノベイター』であり、不老不死の吸血鬼でもある。シイナがエリアの娘だったとすると、ルウ達はリンクの子供を殺したことになるのだろうか。
「……気にしなくていいわよ。あれは、シイナなんかじゃない。シイナはもっと、明るくきれいに笑う子だったわ。……あんな、苦笑と愛想笑いしかしない子、私の娘であってたまるものですか」
エリアの中では、シイナとは数多くいるクローンたちではなく、自分が産んだたった一人……そう思っているのだろう。ルウはそれが間違っているとは思えないし、間違っていたとしても正す義理はないので黙っている。
「……そう。……で、ミリアがどうかしたかい?粗相でも?」
「まさか。雨に打たれた子犬みたいにおとなしくしてるわよ。シイナ抱き締めて、『この子は私が守るんだ』ってうわごと言いながら。食事もとらないから心配なのよ。私たちが吸血鬼だから、血でも出てくるとでも思ってるのかしら?」
「ミリアはそんな吸血鬼ってだけで判断するような人間じゃないんだけど……。もしかして、なにかあった?」
ルウはそれとなく、訊いてみる。
「……とくに。あ、私たちの食事風景見たぐらい、かな?」
それは食事とはとうてい呼べない惨状だったのだが、それを今のルウが知っているわけがない。
「それが原因だろうね。警戒してるんだよ、自分が食べられないようにって」
「……そう。でもね、そんな風にご飯も食べない人間、私の家に置いておけないのよ。正直言って邪魔。だからルウ、引き取って」
「無理だね」
ルウは即答した。
エリアはそれにあっけにとられた。
「……無理?あなたが?」
その答えは家族思いで、優しい父親であるルウには、あまりにも似つかわしくない回答だった。
「うん。無理だよ。もう彼女は……僕の、かぞく、じゃ、ない、……」
やはり、家族じゃないと断ずるのには、まだ抵抗があるようだ。けれど、つかえながらでもルウははっきりと家族ではないと言った。
それにエリアはしばらく頭を悩ませた。まさかルウがこんな風な回答をするなど思ってもみなかったのだ。本当ならもう話はついているはずなのに。
「……………そう。ならいいわ。彼女には残念だけど…………今晩の主食は、久々の女の子になるわね。それも長身で、茶色の瞳のきれいな女の子。……おいしそうね」
吸血鬼としての言葉で、ルウを釣ろうとエリアは考えた。こういう風にいえば、絶対にルウはミリアを引きとろうとするだろう……エリアはそう確信していた。
「……どうぞお好きに。僕はなにもしないよ。食事にするならすればいい。でも、なにがあっても家族には手を出すな」
これも、意外だった。まさかルウがミリアを見捨てるようなことを言うなんて。
ここまで言ったら、エリアももう引き下がれない。
「……そう。じゃあお話は終わりね。ミリアは今日家族でおいしくいただくから。……それから、英語の成績、もっとちゃんとしたら?」
最後にそう脅してみるが、
「余計なお世話だよ。じゃあ、あの放蕩娘によろしくね」
ルウはまったく、動じなかった。
一体ルウになにが!?
冷静なエリアも、そう思わずにはいられなかった。




