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第48話〜エリアの目的〜

 「……わかりました、エリアさん」

 ルウも、エリアのように演技して答えた。

 「ん、いい子ですね。でもペンタグラムさんは少し英語の成績が悪いわね。あとですこし話しましょうか」

 天使を思わせるような笑みで、エリアは言った。クラスの男子はみんな、この笑顔に胸を弾ませる。彼らは知らない、この笑顔が時と場合によっては死神よりも怖いものになるということを。

 ルウは確かに成績が悪いが、呼び出しを食らうほどではない。つまり、これはエリアが何か話があってのことなのだろう。

 「……………はい」

 ルウはなんでもないように、そう答えた。

 














 面白いとは言い難いけれどつまらないとも言い切れないようなエリアの授業が終わり、休み時間。

 生徒会室に、ルウとエリアは来ていた。案の定、エリアはリンクに言伝を頼まれ、ここへきたようだ。

 そして、誰にも聞かれないように、呼び出されたはずのルウがここへと案内したのだ。

 「ここが、僕の第二の家です、エリアさん」

 生徒会室の荘厳な扉を指さして、ルウが言った。

 「あら、そう」

 とても興味なさそうに、エリアは返した。

 「……リンクが何か用でも?」

 「ええ。ちょっとね。すぐ終わるわ」

 「そうですか。さて、入りましょうか」

 「ええ。早く終わらせてリンクのところに……じゃなかった、サクラのところに戻らないと」

 そう言って、エリアが部屋に入ろうとした時だ。









 「なんで、それぐらいしてくれないのよ!」

 






 少女の、それもずいぶんと幼い怒号が扉越しに聞こえた。

 生徒会室は普段は完全防音。しかし、部屋の主であるトレースの意思によっては外に音を漏らすこともできる。

 おそらくトレースはルウが来たこともすでに知っているだろう。

 その状況で音を漏らすということは……

 「聞き耳たてろ、ってことだね。さすが僕の道具。いい仕事をする」

 と、言ってもほとんど筒抜けなので扉に耳をつけなくてもはっきり明瞭に聞こえてくるのだが。

 「……何度も言っているだろう。ボクはキミのその命令は聞けない、って。あきらめてくれるか?」

 トレースのあきれるような声。

 「だから!命令じゃなくて、お願いなの!ミリアお姉ちゃんの居所を教えて!それだけでいいの!」

 クレアの懇願するような声。

 「だったら、なおさらごめんだね。強制されてやったのならおとがめも少ないだろうけど、もし自分の意思でやったとなれば、もう廃棄処分ものだよ。ボクはまだまだルウに使われていたいからね。遠慮しておくよ」

 「所有者の家族の危機なのよ!?放っておくの!?」

 「ルウが探せと言えば二秒もあれば探せるさ。でも、その命令がないんだ。ボクの持ち主はルウであってルウの家族じゃない。ボクが義理だてする意味はないね」

 「……!ミリアお姉ちゃんが、壊されていたらどうするのよ!」

 クレアの悲痛な、心からの叫びだった。きっとミリアのことが心配で心配で、いてもたってもいられなくなって、すがる思いでトレースに言いにきたのだろう。

 「…………ボクは、どうもしない。壊れたのなら直せばいい。なくなったのなら代用品を作ればいい。……キミの命だってそうだろう、クレア?」

 「……な、なんの、こと?」

 クレアの声には動揺がありありとわかるほど震えていた。

 「なんのこと?キミがそれをボクに訊くのかい?わかっているくせに。本当はキミ、シイナとの戦闘で……」

 「言わないで!」

 クレアの叫びが、響いた。

 「……お願い、誰にも言わないで。お父さんにも言わないで。もう無茶は言わないから……もう帰るから……」

 心の底からの懇願。クレアは答えを聞くことなく、逃げるように、生徒会室を出た。

 「……あ」

 彼女が生徒会室からでると、そこにはエリアとルウの姿があったのだ。あっけにもとられよう。

 「どうしたんだい?目が赤いよ?」

 先ほどの会話を終始聞いていながら、ルウはそうほほ笑んだ。

 クレアは指摘されると目をこすり、あははと快活に笑った。

 「あ、あの、寝不足、かな?最近ミリアお姉ちゃん探してばっかりだったから……」

 「……」

 エリアはその名前に、目を見開いた。だが、それに二人は気付かなかった。

 「じゃ、じゃあね、また、家で」

 そういうと、クレアは足早に去ってしまった。

 「トレース」

 ルウは扉越しに呼び掛ける。

 「なんだい?」

 トレースも扉越しに答える。

 「クレアの隠し事って、なんだ?言え」

 いつになく語気を強めて、ルウは命令した。

 「ルウ。悪いが言うことはできない。約束だからね」

 しかし、その命令に彼女が従うことはなかった。

 「………それでいい」

 道具である彼女が命令を反故にしたというのに、ルウはうれしそうだった。

 それはルウが約束を破るなと命令したからであって、トレースが自分の意思でしたわけではないだが、それでもルウはトレースが人間に近付いていくようでうれしかった。 

 「とにかく、エリアがお話があるそうだ。……まあ、すぐに話はつくらしいけどね」

 












  


 ルウはそう言って、エリアを生徒会室に招いた。

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