第47話〜噂と、解決への糸口〜
「なあなあ、ルウ」
玻座真学校高等部、ルウが所属する2年3組前の廊下。トイレに行こうとしたルウはそう呼ばれて立ち止った。
クルリと後ろを向き、声の主を見る。
声の主は彼のクラスメイト、夏目大河であった。
クラスに友達の少ないルウがもつ、数少ない友人の一人であった。
「なんだい、夏目?」
「ミリィ先生、どうなったかしってるか?もう今日で無断欠席三日だぜ?何かあったんじゃねえかな?」
ミリアは英語教師として、この学校に所属していた。彼女は家族と過ごす時間を少しでも増やしたかっただけなのだが、ルウのクラスでは彼女の人気は男子女子問わず、相応の人気があった。
「ミリアかい?……そうだね、きっとどこかで休んでるんじゃないかな、あの子のことだ、きっとリンクのところに泣きついているんだろう」
言ってから彼は、しまった、という顔をした。
ルウも、ミリアがいなくなって動揺していたのだろう。そうでなければ、ただの友人でしかない夏目に、ミリアとの関係を気付かれるような発言を、するわけがなかった。
「……おい、ルウ。『ミリア』?『あの子こと』?………ちょっと、男同士腹を割って話そうじゃないか」
夏目はそういうと、ルウの肩に手をおいて、がっちりとホールドする。
「……僕はそういうの、苦手だよ?」
汗ジトになって、ルウはそう言い返す。
「い〜やだめだ。どう考えても今のはおかしい。百歩譲って『ミリア』は許せるが、『あの子』だけは許せねえ。……どういうことだ、ルウ?」
恨みのこもった視線で訊かれてルウは言葉に詰まった。それもそうだ。もし本当のことを打ち明けたとして、一体だれが信じるだろうか。
……いや、待てよ。
ルウの中で、名案がひらめいた。
「夏目。黙っていたが……ミリアは僕の娘なんだ」
シン、と教室が静まり返る。ちなみに、サラは運の悪いことに別のクラス所属である。
もし彼女がこの場にいたら叫んでいただろう。
『何言ってんのよ、ルウ!?』という感じで。
「……………は?」
「いや、だからね?ミリアは、僕のむ、す、め。子供。だから『あの子』、わかる?」
「あ、そうかそうかわかったぞ」
何かに気付いたように、夏目はつぶやいた。そして、
「そんなくだらない嘘ついてまで、ミリィ先生との関係、隠したいんだな!?ようしわかったいいだろう、ここは騙されておいてやる。絶対こんな女子もいる昼間にするような話じゃないだろうから、修学旅行までまってやろうじゃないか!でもなルウ。ミリア先生はお前のものじゃねえぞ!?それをわきまえろよ!?」
そういって、すぐにどこかへ去っていく夏目。目の端には涙の筋が。
……もっといい言いわけ考えとかなきゃ。
ルウはそう、ぼんやりと思うのだった。
五時間目。英語の授業、つまりミリアが受け持っていた授業だ。2年3組の時だけ、ミリアは妙に緊張した雰囲気を持っているので、それがまた噂の原因になっていたりするのだが、今は全く別の噂が、クラス内で広まっていた。
ルウとミリアの関係かと思えばそうではないらしく、噂の内容はただ一つ。
『ミリアのかわりの非常勤講師が来る』
と、言うものだった。
男なのか、女なのか。授業がうまいのか下手なのか。それすらもわからない状況が、噂好きの彼らの熱を上げることとなった。
そして、その噂の真実が、明らかになる。
そ非常勤講師は、噂の斜め右をいく存在だった。
「hello、my name is Eria Luna Jade. nice to meet you.」
青い髪、青い瞳、そして、全身を包む真っ黒なマント。
「……エリア?」
「はい、なんですか?えっと、ペンタグラムさん。でも、できればエリアさん、と呼んでくださいね?」
完璧な演技で青髪吸血鬼は自己紹介をしたのだった。
……いったいエリアがなんの用だ?
ルウはそう思わずにはいられなかった。




