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第43話〜吸血鬼という種族〜

 ―――異界局、琴乃若支店―――

 



 異世界の依頼をこなし、お金を稼ぐとともにあまりある時間をつぶすためにリンクが開業した職業、異界士。

 その依頼受諾の拠点となるのが、ここ、異界局である。

 しかし異界局とは言っても、ここはどこからどう見ても一般家庭の住宅にしか見えない。

 中は、いろんな意味で一般家庭のものではないが。

 「ふうん。そうか。ルウがそんなことをな……」

 異界局の玄関を、リンクが開けた。

 玄関先、そして廊下、部屋の間取り、家の造り。ここまで見ても普通の家とはかわらない。

 「うっ……な、なにこのにおい?」

 ただ、一つだけ違うのは、この異臭。

 鉄のような、金属質の独特な香り。

 「いいやつだろ?超天然の芳香剤だ。俺もエリアも結構気に入ってんだぜ?」

 リンクはこの異臭を異臭とは感じていないようだ。むしろ、いい臭いだと感じていて、この臭いがることになんの疑問も持っていない。

 他人の家は臭うというが、これもそうなのだろうか。

 そうアゲハを背に負ったミリアは思った。

 「これ……なんの匂い?」

 出どころのわからないものは怖いので、ミリアはそう訊いた。芳香剤というからには何かの植物から採れるものなのだろうか?

 「ん?わからねえのか?血だよ、血。人間の。そこらへんにいたやつさらってきて、血を絞ってんだよ。この血の匂いがまたいいんだよな。食事にもなって一石二鳥だ」

 そんな自然極まりないミリアの疑問を、斜め四十五度から打ち砕いたリンク。

 「ち、血!?しかも絞ってって、今!?」

 「いや、もうそろそろ絞り切ってるはずだけど……エリアがこないから、今仕上げのところかな?」

 仕上げって、なに?とはとても訊けなかった。

 ここで、ミリアは思い出したのだ。

 リンク・レイル・ジェイドという種族を。

 この黒一色の人のよさそうな少年は、吸血鬼なのだ。人の血を吸い、人を捕食する種族なのだ。

 「え、あの、私用事思い出したから帰るわ。お誘いありがとうございました!」

 クルリとその場で右向け右。

 「待て、冗談だよ」

 ダッシュで異界局を出ようとしていたミリアを、リンクが笑いながら止めた。

 「……え、冗談、なの?」

 ひきつった表情で、ミリアは振り返った。

 「当たり前だよ。お前の中の吸血鬼ってどんなんだ。俺は別に人間を捕食対象としか見ていない成り立てとは違うんだ、人は友達、それが俺ら古代種に広がっている考えだ」

 「そ、そうなの、よかった……」

 ほっと、ミリアは胸をなでおろした。

 吸血鬼にはいろんな種類がある。

 吸血鬼の血液をなんらかの方法で摂取し、吸血鬼となって百年以内のものを『成り立て』、吸血鬼になって百年以上のものを『吸血鬼』、いつからどこから現れたか全く把握できない、吸血鬼としてこの世に生を受けたものを、『古代種』という。

 ミリアはそのへんの事情をルウから聞かされたことがあるのでわかったのだが、それでも成り立てと古代種との思考に差があることは理解できていなかった。

 「これはサクラが食事の時にミスりやがってな、ちょっと頸動脈傷つけちまって殺しちまったんだよ。……まあ、俺でもたまにあるからしかたねえんだけど、臭いがなあ……」

 事実もかなりえげつない気がするのだが、それは仕方ないきもしないでもなかった。吸血鬼に慣れ親しんでいるから感覚がマヒしているのだろう。

 「……ま、とにかく上がってくれ。その子を寝かせて、話はそれからだ。……あ、そうそう。俺達は客人の血を吸う鬼畜じゃないんで、安心してくれ。じゃあ、またあとで」

 リンクはミリアにそう言うと、奥にある臭いの源……つまり、殺されてしまった人間の処理に向かった。

 ミリアはかすかに聞き耳をたて、リンク達の会話を聞く。

 「……え?こいつまだ生きてるの?」

 「……そうよ。まったくしぶといったらありゃしないわ」

 「ど、どうしよう……こ、ころし、ちゃうかも……」

 「ま、こいつ程度の存在ならなかったことにできるな。かなりしんどい作業になるけど、まあ、ここは道具の箱庭だ、変わりぐらいいくらでもいるだろう」

 「そうね」

 「え、それはいったいどういう……」

 







 三人の恐ろしい会話に、ミリアは聞かなきゃよかった、と後悔するのであった。

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