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第33話〜『シイナ』の終わり〜

 ――――異端のシイナがサクラになるころ、同時刻、琴乃若商店街――――






 サラはいったん地上に降り、ルウの隣に駆け寄った。シイナは宙に滞空しながら独白を続ける。ルウも、トレースも、そして『イノベート』を憎むサラさえもが、シイナの悲痛な声に耳を傾け、真剣に聞いていた。

 「私のオリジナル、『シイナ・レイル・ジェイド』は、とても優秀な『イノベイター』だった。単身で任務にあたっても、片手間で世界を滅ばしてくるような、とてつもない力を持った吸血鬼だったの。彼女がいれば全世界の崩壊も夢じゃない……そう思わせるだけの力が、彼女にはあった。

 ……でも、『イノベート』はそれだけでは我慢できなくなった。

 異世界を渡っていて、いろんな情報が耳にはいってくるあなたたちなら、聞いたことあるでしょう?

 『『イノベート』は、圧倒的に人手不足だ』って」

 『イノベート』の人手不足は、異世界を渡る旅人達の中でも有名な噂話であった。

 膨大な数の世界を滅ぼそうとするくせに、圧倒的に人手がたりない――

 それはある意味では笑い話にもならないくらい聞きなれた噂であった。

 「……事実、そうなの。だからかの有名な異界士の娘、シイナ・レイル・ジェイドをだまして、洗脳して、心を都合のいいよう作り変えて……強力な『イノベイター』にしたの」

 サラだけが、かの有名な異界士の娘、のところで驚いた。

 「……え?リンクとエリアの間に子供って出来てたっけ?」

 サラはそう小声でルウに耳打ちするが、

 「……え?なにを言ってるんだい、サラ。リンクとエリアは夫婦だろう?結婚したらコウノトリが子供を運んでくるのは当然じゃないか」

 ルウはまた的外れな訂正をする。

 「……そう」

 なれたものなのか、サラもあっさりと流し、再びシイナの方に向き直る。。

 「あなた達は……知ってる?『イノベイター』って、強制的に『イノベート』に入らせられた人間に付けられる役職なのよ?」

 これには、3人ともが驚いた。

 「『イノベート』が人手不足なのは、異常なまでの強い能力を求めているから。世界を滅ぼせる能力を持つ人間なんて、そうそういないのよ。……だから、弱い能力や、ちょっとした弱点があると、それだけで『イノベート』には必要ない、と採用をやめるの。そんな『イノベート』が何をしてでも手に入れたい人材……それが彼ら」

 強い能力を貪欲に求め、弱い能力には見向きもしない。それが、『イノベート』の採用方針。

 「『『イノベイター』は殊更能力の強い者に与えられる役職である』そんな噂が流れるのは、仕方ないことよね。……半分以上、事実なんだし。

 そして、私たち『シイナ』は特に『量産可能な強力な捨て駒(・・・)イノベイター』として今も大量に生産・・されているわ。

 ……私たち、心臓も動いていれば斬れば血もでるれっきとした生物なのにね、機械みたいに扱われるの。今もきっと、何百という世界でこの世界と同じ作戦が行われている。爆弾や危険な兵器を世界中に仕掛けて、私たち『シイナ』が起爆スイッチを押す。

 いくら不老不死でも、世界の崩壊に巻き込まれたら消滅するに決まってるわ。だから、本当に使い捨てなの」

 しゃべり方さえもがしおらしくなって、シイナは続ける。

 サラは痛ましそうにシイナを見つめる。

 「……私、この作戦の終了と同時に死ぬの。だから、せめてあなた達に勝って、異世界に逃れようって、思ったの。……でももう、諦めたわ」

 そこで、シイナはサラを見る。

 シイナの表情は笑っていたが、どうみても悲しそうで、まるで泣いているかのようだった。

 「死ぬのなら、『イノベート』らしく、死んでやる。あんたたち『ペンタグラム』にせめて傷一つでもつけて、姉妹たちへ土産話にするわ!……さあ、勝負だ!」

 涙ながらに咆哮して、サラに突進する。

 命をかけた、最後の一撃。

 その速さは常人にならとても見抜けないようなものだったが、不死鳥フェニックスの力を借りているサラには、とてもゆっくりに見えた。

 「……シイナ……ごめん」

 突きだしてきた右の爪を流れるような動きでかわし、その手をつかむ。

 サラが謝ったのは、同情か、それとも憐憫か。

 「……フェニックス。骨の髄まで、燃やしなさい」

 そうサラがつぶやくと。

 炎はシイナの腕から這うように現れ、瞬きする時間のうちに全身に回り、骨の中にまで侵入し、燃やす。燃やしつくす。

 その速度はシイナの突進とは比にならないほど速く。

 ボッ。

 と、聞きようによってはあまりにも拍子抜けする音とともに、シイナは完全に焼滅しょうめつした。

 「……ごめんね、シイナ。私はそれでも、あなたを殺さなきゃいけないの」

 サラは感情を押し殺した声で、そういった。

 戦いは、終わった。

 しかし、なんともいえない不快感が、サラの胸中に残った。

 「……ルウ。帰ろう」

 悲しげに、サラは言う。

 「……うん。そうだね」

 ルウも苦い顔をして、そう言った。

 彼はすぐさまトレースに自分たちを学校へ転送するよう指示した。

 トレースはその命を実行した。

 ルウ、サラ、トレースの3人が光に包まれ、ひときわ大きく輝いたかと思うと……











 次の瞬間、琴乃若商店街には誰もいなくなった。


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